960:意外な伏兵
たまには活躍させたい
「もし、従えないなら、君のような優秀な人物を異動させるのは忍びないが、ちょうど社史編纂室で優秀な人材を求めていてね」
いや、社史編纂室っていわゆる「銀行員の墓場」でしょ。そりゃあその仕事に命を懸けてる人間とかには失礼だろうけど、頑張って銀行入ってやる事が新聞切り抜きとか社内報の記事起こしとかじゃあねえ。しかも、給料下がるらしいのよ。
「左遷、という事ですか?」
「本店に行けるんだ。栄転じゃないか? 全く羨ましいかぎりだよ」
ニヤニヤする支店長。なんだかんだで私が今までここの支店にいれたのは利用価値があったからかな?
あと、コントロールしやすいって事かな。エネミーコントローラー!
「さあ、最後のチャンスだ。良いようにしてくれるね?」
答えなんか決まってる。
「お断りします」
支店長は不機嫌そうに眉をしかめた。そしてタバコに火をつける。いや、密室で一緒に居る人間に気を使わずにタバコ吸うなよ。
「それは君が私に逆らうということかね?」
「そんな指示には従えないって事です」
支店長はタバコの煙をこちらに吐きかけた。まあ私の顔面に当たる前に風の精霊さんがブロックしてくれるんだけど。
「まあいい。来月には辞令が出るようにする。それまで店内待機だ。外に出なくていい」
「……失礼します」
私は踵を返してドアへと向かう。このまま辞めようかな? でもなあ、今いる所の家賃とか少しでも払いたいし。
目の前のドアが開いた。そして入ってくる副支店長。
「支店長、霜月さんの事だが」
「先程転勤を決めたところですよ。あなたもご希望ですか?」
「熊井建設の件は私の一存でやった事です。霜月さんは従っただけです」
「庇えるとでも?」
「……いえ、私の責任ですから」
支店長はニヤリといやらしく笑った。
「ならば副支店長、あなたも社史編纂室長として本店に赴任していただけますね?」
「……熊井建設の件が片付きましたら」
「それでは意味が無いでしょう。私の指示に従えないなら最悪クビですよ?」
「やれるものならやってみなさい」
副支店長の目は闘志に燃えていた。その気迫に押されたのか、支店長は少し慌てていた。やだ、副支店長かっこいい。
「失礼します」
と流れをぶった斬って入って来たのは睦月さん。
「何の用だね、睦月君?」
「いえ、今、霜月さんを辞めさせるという噂を聞きまして」
噂ってなんだ? 今の会話聞いてたんでは?
「転勤だ。まあ本人が希望すれば退職でも構わんがね」
「そうですか。ところで支店長、二人きりでお話があるのですが」
ちらっと睦月さんが私の方を見た気がした。そして私たちは部屋から出され、そのまま待機。
「支店長、私が内調から派遣されたのはご存知ですよね?」
「無論だ」
「霜月さんは私らの監視対象だから移されると困るんですよ。言ってる意味、わかります?」
「しかし、それでは示しが……」
「あー、まあ構いませんけど、その場合、あなたの癒着とか袖の下とかが本店監査部にタレこまれる事になりますけど、いいですよね?」
あー、やっぱりやってんのか。エルフイヤーは地獄耳だから部屋の中の会話くらいなら聞き取れるのです。
「それじゃあ残り少ない日数ですけど」
「待ってくれ! いや、待ってください……」
「私としてもこんな手使いたくはないんですよ。穏便に済ませたいですからね。後は分かりますね?」




