956:酒よ
飲み過ぎ良くない!
そして着きました、高そうな料亭に。普通なら入るだけで気後れしそうなところである。里美さんは……動じてねえな。
「仕事で何度かつこうた事あるんよね」
ああ、内調の任務ですか。で、留玉臣は……こっちも動じてねえ。
「桃様の御屋敷、もっと大きいですもん」
えっ、吉備津彦さんってボンボンなの? そうか、玉の輿かあ……いや、でもあれは無いわ。私は戦闘狂を旦那にする気はない。もっとこう知的な……
「行きますよ、霜月さん」
「ああ、はい、すいません」
ちなみに私も動じてないよ。というかハルに何度か連れてこられた料亭だった。確か値段は高かったよな? そして奴らは奢られる気満々で来るんだろう。全く腹立たしい。
「いやぁ、よく来てくださいました」
部屋に案内されるといかにも部長って感じの人が座っていた。こっちが姿を見せても立ち上がりもしない。
「まま、座ってください。料理は持ってこさせますから」
「それよりも、仕事をいただけるというお話だったと思うのですが」
「慌てるナントカは貰いが少ないと言いますからなあ。ゆっくり食事をしながらお話ししようじゃありませんか」
運ばれてくる料理の数々。払いが私たちになると思ってるのかいいものばかり頼んでやがる。まあいい。私たちも食べよう。いただきます。うむ、美味しい。
「それで建設の方なんですが……」
「ええ、これですよ」
ポンと封筒を出された。表紙には「福祉学園(仮)設立仕様書」と書いてあった。そんな学園あったか?
「市の方で福祉の人材を育てる為に新しく官営で専門学校を作る事になりましてな。そこのハコを作っていただきたい」
学園建設!? これはとんでもないデカい案件だ。
「引き受けるにあたっての条件は、工費を三割引にする事」
はあ? 工費を三割引?そんなの儲けとかでないじゃん。完全に持ち出しやんけ。
「まあ私も鬼じゃない。別の条件を呑んでくれるなら三割引どころか三割増しで発注しよう」
「その条件って何ですか?」
「分かってんじゃないのかい?」
いやらしい笑みを浮かべて里美さんの身体に触れる。里美さんはニコニコ笑ったままだ。
「あら、おふざけはその辺にしていただけますか?」
「ふざけてはおらんよ。至って本気だ。これだけの規模の学校建設に関わるんだから魚心あれば水心というやつだよ」
「私たちをご所望だと?」
「そうだ。あ、そこの貧乳はどちらでも構わんぞ?」
今なんつった? 胸に栄養が行ってねえだけなんだ、今は。成長すればきっと……いや、里美さんも留玉臣もなんか憐れみを帯びた目で私を見るのやめてくれない?
ともかくこいつはコロス。肉体的にはどうか知らんが精神的にも社会的にも抹殺してやる。
そんな私を制して留玉臣が部長にしなだれかかった。
「まあまあ、部長さん、英雄色を好むって言いますもんね。そんな部長さんのお酒に強いところ、見てみたいわ」
そう言ってお酌を始めた。
「ほら、ぐーっと、ぐーっと。いい飲みっぷり。男の人はこうでなくちゃ。ほら、お代わりありますよ」
そう言いながら留玉臣は部長の盃を里美さんから貰っていた。あれ? さっき里美さん、手になんか包み持ってたよね? あれはお薬? 飲んだ、ふらついた、倒れた、寝た。流れるようなコンビネーションだった。いつの間に。




