779:天の空座
小人閑居して不善を為す
「うぅん……ここはぁ?」
「あ、目が覚めましたね」
「おやぁ、ミスひとみ。ということは私は負けたのですかぁ?」
「ああ、うん、そうだね」
「ウリエル様の顕現に失敗したのですかぁ……これは痛い失策でしたねぇ」
「あ、ウリエルの召喚には成功してたよ。帰ってもらっただけで」
「……はぁ?」
私がウリエルの事を言うと最初はポカーンとした顔をしてたけど、次第に顔が真っ赤になって来た。
「何をそんなデタラメを! ウリエル様がただの人間なぞに退けられる訳が無いでしょうがぁ!」
「いや、そう言われても……ねえ、ガブリエルさん」
「そうですねえ。ウリ君は帰りましたよ」
ガブリエルさんの名前を出したらアナスンがより激昂した。
「貴様ぁ! ガブリエル様の名前を騙るつもりかぁ?」
「いや、実際にそれがガブリエルさんなんだけど」
「それはちょっと失礼では?」
「あ、ごめんね。まあでもさっきは助かったよ」
「いえいえ。あ、あなたは使徒アナスンでしたね。いつも天から見守ってますよ。まあハインリヒ城の時はやり過ぎだと思いましたけど」
「!? ハインリヒ城の時の事を知っておられるぅ!? ということは本当にガブリエル様ぁ!?」
後でハインリヒ城の事について聞いたら異教徒の立てこもった城でアナスンが女子供含めて一人で虐殺したんだそうな。まあ時代が時代だったから仕方ないのかもだけど。人殺しは良くないことだけど、戦国時代の人間とかに言っても仕方ないしね。問題はその価値観がどうなってるかなんだけど。
「えーと、そういう虐殺は今はしてないんだよね?」
「主のご命令があればいつでもやりますがぁ?」
いや、やるなよ! 今なら犯罪だぞ!
「良いじゃないですか。今はそれを命じる主も行方不明ですし」
「!?」
「そうだね。でも探すんでしょ?」
「そりゃあもう。色々仕事が溜まっててミカちゃん一人に押し付けるのも偲びないですからね」
「えーと、もう一人居なかった?」
「ラフィー君なら今各地の感染症対策で忙しいわよ?」
あれ? ガブリエルさんが癒しを司る天使じゃないの?
「再生と誕生は私だけど、病からの癒しはラフィー君だね」
「細かいんだね」
「まあ私は元々メッセンジャーだからね。主が行方不明になってからはやること無くて……」
気づくとアナスンが平伏していた。ガブリエルさんに。
「ガブリエル様、という事でよろしいのですねぇ。使徒アナスン、お伺いしたい事があるのですがぁ」
語尾は治らないらしい。
「なんですか?」
「主が行方不明というのはどういう事なのですかぁ?」
「ああ、そうですね。居なくなってしばらく経ちますね。どこに行ったのやら」
「それで悪魔たち、不浄の者共がこんなに跋扈しているのですねぇ」
口惜しげに呟くアナスンにガブリエルは言った。
「ああ、そうそう。今後この人たちに手を出してはいけません」
「ガブリエル様ぁ!?」
「主を探すのに協力してもらうのです。それに主への反抗の気持ちも無いようですし」
反抗って全部そっちから仕掛けて来てたんだけどね。私たちは返り討ちにしただけで……
「え?しばらくは天の軍団には動く様に命じてないはずですけど……」
「教皇猊下は主のお声が聞こえたとぉ……」
どうやら天使の軍団を使って私たちをどうにかしようとしていた奴が居るみたいだね。




