旅立ち②
体が小刻みに揺れている。
規則的とは言えないその揺れは、私の意識をふたたび世界へと呼び起こした。
辺りを見渡す。
どうやら意識を失っている間に馬車に乗せられ、運ばれたらしい。
すっかり夜になり、暗い闇の中で目を凝らす。
周りには膝を立てて座りながら眠る男が3人、そして手綱を握っている男が一人。
そして護衛であろう、装備を整えた男と女が一人ずつ。
私はというと、身につけているものも特に荒れてはおらず、縛られたりもしていない。
攫われたわけではなさそうだ。
私が目を覚ましていることに気づいたのか、護衛らしき男女が何やら目を合わした後、私の方へ来た。
「あんた、目を覚ましたのか。体の方はどうだ、痛いところとかはないか」
私は改めて身の回りを確認した。
「大丈夫です。あの、助けてくださってありがとうございます」
「いいのよ。私たち冒険者にとって、助け合いは当たり前のことだもの。それよりもびっくりしちゃったわ。まさかあんな森の奥で人が倒れているなんて」
「そうだな、俺もびっくりだ。あんた、あんなところで何をやってたんだ?」
二人の視線に晒される。
女性の方は純粋な疑問として聞いてきているようだが、男性の方はどうもこちらを怪しんでいるようだ。
まあ無理もない。
あの森は師匠たちが隠れ家に選ぶような場所。
簡単に人が立ち入らない、恐ろしい魔物がうようよ住み着いているような森だ。
そんな森の奥で一人倒れている女、どう考えても只者ではない。
さてどう説明したものか……
私が悩んでいると、女性の方が先に口を開いた。
「まあ、あなたにもいろいろと事情があるのよね。私も秘密の一つや二つはあるし、無理に話さなくても大丈夫。ねぇ、アル?」
「まあ、ネアがそういうならいいが……」
男性の方はまだ納得はしていないようだったが、女性の圧に負けて、渋々引いた。
「私はバーネア。こっちのアルと組んで冒険者をやってるの」
「俺はアルザック。ネアとは、まあ腐れ縁というやつだ」
二人はそう言うとこっちをじっとみてくる。
そうか、何をしていたかは言わなくてもいいとは言われたけど、私が誰なのかは言えということか。
「私はエフィリア。えっと、魔女をやってます」
私がそう言うと、二人は目を丸くする。
まあ、今は魔女も珍しくなっているらしいし仕方ないか。
「さっきはすぐに答えなくてごめんなさい。あの森は師匠と私の隠れ家だったの。だけど、突然引っ越すって言い出して、その上私は卒業だからって一人置いて行かれて……それで路頭に迷って倒れちゃったってわけ」
話しているうちにだんだんと怒りが込み上げてきた。
多分声色もどんどん低くなっていたと思う。
「魔女……様……私、初めて見たわ」
バーネアがそう言うとアルザックも続く。
「俺もだ。あんた、すごいやつだったんだな」
なんか、急に扱いが変わって照れ臭いな…
「魔女様なんて……私のことは普通にエフィリアって呼んで。あ、エフィって呼ぶ人もいるけど、そこはお好みで」
私がそう言うと、二人は少し意外そうな顔をして顔を見合わせた後、にこりと微笑んで頷いた。
そういえば、聞いていないことがあった。
「ところで、この馬車ってどこに向かってるの?」
元々行く当てもなく彷徨っていたので、どこでも良いのだが、やはり気になる。
「ああ、そうよね。まだ言ってなかったものね」
バーネアはそう言って振り返ると、「あ」と呟いて馬車が進む先を指差した。
「あれがこの馬車が向かう先、『"冒険都市"オリエンティア』よ」
「俺たちの拠点もあそこだ。というか、ほとんどの冒険者はみんなあの街を拠点にしている。そういう場所だ」
私もその場所へと視線を移す。
確かに、建物の灯りで明るく止まった場所がある。
だけどその灯りは、何段階にも積み重なっているように見える。
じっくりと目を凝らすとなぜそう見えるのか、理由がわかった。
「あれは……街というか、山…?山の斜面に街ができてる?」
「正確には、山じゃなくてダンジョンね。頂上に入り口があって、そこから地下深くまで続いているのよ」
「だが、未だ完全踏破には至っていない。聞いた話ではまだ全体の三割ほどしか探索できていないそうだ」
「結果、攻略しようとした冒険者たちが集まってきて、そのまま街ができちゃったってわけか。なるほどね」
ロマンをもとめて……というやつか。
なるほどとは言ったが、私にはあまりわからない感覚だ。
「二人も、そうなの?」
私がそう聞くと、二人は少しだけ苦い表情をする。
「私たちは、攻略を諦めちゃったのよ」
「俺たちにはあのダンジョンを進めるだけの力がなくてな。こうして護衛だったり、ダンジョンに関係ないことで稼いでるのさ」
意外だ。
私が見た感じ、二人はそれほど弱そうには感じない。
いや、それほど厳しい場所ということなのだろう。
私も観光気分で寄っていこうかと考えていたが、やめておくことにする。
「それよりエフィリアさん、お腹空いてるんじゃない?私たちの非常食でよければあるけど、どう?」
そう言われたが、流石に非常食をいただいてしまうのは気が引ける。
「大丈夫。それに、師匠から言われてるの。お店で買ったものか、自分で採ったもの以外は食べるなって」
それに、倒れる前はペコペコだったお腹も、眠っている間になくなってしまった。
これは私の体質によるものだが、我ながら便利なものである。
「だから、街に着くまでは外の景色でも眺めてるよ。気遣いありがとう」
そうして私はガタガタと揺れながら進んでいく景色を見る。
唐突に始まった…というか始めさせられた一人旅だが、こうしてみればなかなか良いものかもしれない。
街に着いたら何をしようかと思いを馳せる。
……まずは助けてくれたこの人たちに、何か恩返しをしよう。
今は何一つ手持ちがない。
私は心に決めた。
お金を、稼ごう。




