旅立ち①
"魔法" それは世界より与えられた大いなる力。
その力は不可能を可能にし、人々に奇跡を起こす。
そんな、不思議な力。
そんな"魔法"を使って人助けをしたり、時には世界を救ったり……
そんな"魔女"の私の物語。
―――
「たす…けて…」
私は死にかけていた。
あたり一面に広がっているのは広大な森。
そして今の私の持ち物は、何も無い。
一滴だけ残っていた水もついさっき飲んでしまった。
「私の人生、こんなところで終わるのか…」
だんだんと目が霞んでくる。
もはや自力で歩くこともできない。
拾った枝をついてなんとか少しずつ前へ進んでいる。
だけどもう限界だ。
私は地面に膝をつけた。
一体なぜこんなことになっているのか。
時は3日前に遡る──
◇ ◇ ◇
「私たち、ちょっとここから離れなきゃいけなくなったの」
そう話すのは私の師匠の一人、『万能』の魔女。
「また、急になんですか……まさかここが誰かに狙われているとか?」
仮にも私の師匠たちは伝説的存在だ。
誰かがその力を狙ってこないとも限らない。
「いやいや、違うよ。ただのお墓参り」
なんだ、意外と普通の用だった。
「私たち三人の大切な人なんだけど、そういえば最近お墓参り行けてなかったなーって。それでその場所が遠いからさ、いっそ引っ越しちゃおうかなって」
そんな一時のノリで引越しなんて……
「分かりました……では私も、荷物をまとめますね」
急に言わないで欲しいものだ。
仮にも私は乙女なのだから、色々と準備も大変なのに…
「ああそれは大丈夫。いい機会だから、あなたには独り立ちしてもらおうと思って。簡単に言えば、卒業?」
「は」
はい?????
「ちょ、ちょっと待ってください。私物心ついた時からこの森の家で育って、まだ外の世界をほとんど見たこと無いんですよ!?いきなり独り立ちなんて…」
「大丈夫だって。魔法の実力に関しては言うことなしだし。生活だって、普段私たちのお世話してくれてたんだから大丈夫でしょ」
そうは言ってもいくらなんでも急すぎる。
前もって伝えてくれていたならまだしも、こんなに突然言われても無理だ。
何も知らない外の世界に一人置いていかれる。
想像すると思わず体が震えてしまう。
震える私の両肩にそれぞれ違う人物の手が置かれた。
「大丈夫よ、あなたなら」
「だって私たちの弟子だもの」
私の、もう二人の師匠、『大地』の魔女と『星空』の魔女。
私を今まで育ててくれた、大事な人たちの手。
その手が触れるだけで、私の体から震えはなくなっていた。
「ごめんね、最後までこんなに振り回すことになってしまって」
「でも一生会えなくなるわけじゃ無い。元気に暮らしているか、たまに様子を見にくるから」
二人の温かい声が響く。
「本当に…?」
「もちろん。だってあなたは私たちの大切な娘だもの」
『娘』と呼んでくれた。
そのことがたまらなく嬉しくて、涙が溢れる。
捨てられていた私を、拾って育ててくれた師匠たち。
今まで色々なことを教えてもらった。
そのどれもが、きっと必要なことだった。
だからきっと今回も、私にとって大事なことなのだろう。
「わかった。今までありがとう、おかあさんたち」
師匠たちをそう呼んだのは初めてだった。
『万能』の魔女が私の前へと来る。
「私たちはこれからも、ずっとあなたを見守ってる。だから、悲しいなんて思わないで」
彼女はそういうと、持っていた杖を空へと向ける。
すると、風が三人を包み込み段々と空へ昇っていく。
「元気でね。私たちの大事な大事な娘」
『命』の魔女 エフィリア
◇ ◇ ◇
そんな感じでお別れしてから3日。
私は何故森で死にかけているのか。
私がそのことに気づいたのは師匠たちが旅立ってすぐ、後ろを振り向いた時だ。
跡形もなくなっていたのだ、家が。
あの『万能』の魔女が格好つけて使った風の魔法で家が私の荷物や食料共々全て吹き飛んでしまった。
絶対に許さない、あの師匠。
というか本当にまずい。
意識が薄れてきた。
視界がだんだんと暗くなっていく。
と言うかいつのまにか世界が横向きになっている。
もう立つこともできないらしい。
くそう。死んだら絶対に、あのバカ師匠のところに化けてでてやる。
そう固く心に誓って、私は意識を失ったのだった。




