裏切り
ビアは自分の部屋で瞑想をしていた。
長かったけれど、ようやく見終わった。
……これが私の新しい未来なのね。明華はまさに救世主だわ。
忘れないようにメモしておかなければ。
レイが私に勝ったことで、また未来は変わってしまった。
もしかしたらレイは、黒い素質を持っているのかもしれないわね。
至急報告しておかなければ。
◇
ビアは白いお城の二階、会議室のロルドの元を訪れていた。
「どうやら私がレイに負けたことで私の未来が変わって、
時期は詳しく言えないのだけど、救世主がこの世界に来ることになったわ」
「救世主?」
「そうなの。ところでロルドは何をやっているの?」
「このばかげた紙を処分しているんですよ」
ロルドは紙をビリビリに破いていた。
「それは……黒の素質についての大事な資料!」
「救世主はエルク様ただ一人だけですよ」
「ロルド?何を言っているの?」
「ようやく力がついたようです。エルク様の」
「エルク……?」
「そしたら……やっぱ楽しそうですよね。
そろそろ演技するのも疲れてきていたところです」
「ロルド、頭がおかしくなってしまったの?」
「ビア様。あなたの未来予知の能力は、数日以内に無くなることでしょう」
「どういうこと?」
「ビア様の護衛はこれにて終わりです。まあこれはこれで割と楽しかったですよ」
「どういうことか説明をして」
ビアはとうとう声を張り上げて言った。
「エルク様はもう一度話してくれる気があるなら、会いに来てくれと言っていましたよ。
もう未来はどうなるかわかりませんから……ビア様に会いに行ける勇気はありますかね?」
「ロルド?」
「これからは未来が見えないから、きっと自由に生きれますね。良かったです」
「……」
「ビア様、今までありがとう。未来予知の情報は役に立ちましたよ、
あと、クロアはとても面白い男ですよ」
一方的にロルドは話し続けて、ビアのもとを去っていった。
会議室にはビリビリに破かれた紙が、無造作に散乱していた。
「…………最低の屈辱を受けたわ」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
良かった。ビアさんからの通知がやっと止んだ。
ようやく諦めてくれたか。それにしても長かったな。
特に最後のラッシュがきつかった。
「大丈夫?さっきから様子が変だけど、しっかりしてくれないと困るわ」
「ああ、今やっと自由になった」
「……?怪しい女の尾行を続けるわよ?私たちの使命を忘れないで」
◇
「ところでセリスさんは能力のデメリットについて知ってますか?」
「デメリット?」
「そういうのってあるんですかね?」
「まあそりゃあ、あるんじゃない?私は使った後、多少疲れるぐらいだけど」
「セリスさんが知ってるわけないか」
「ちょっとバカにしないでよね、こう見えても私は歴戦を潜り抜けて……」
「もうそれ何回も聞きましたよ」
「普通はメリットが大きいほど、デメリットも大きいものよ」
それは簡単に予想できることなんだけど、セリスさんも知らないか。
ゾルさんもはぐらかして教えてくれなかったし、謎が解けないな。
「ほら、そんなことより女が道を曲がったわよ」
◇
「女が入り口から下へと入っていきました」
どうやらここが反抗勢力の根城のようだ。
アジトは地下に広がっているらしい。
地下へと続く階段の前には複数の見張りがいた。
「下手に動かないでね、気付かれるから」
「奴ら全員覆面を被っています」
「どういうこと?」
入り口付近の見張りをしている男たちは、全員覆面姿だった。
「覆面を被られていたら相手が誰かを認識できず、能力が使えないですよ。
青と緑の能力は壊滅的だ」
「それはピンチね」
「……こういう時の対策は?……あれどうしました?」
「囲まれている……」
クロアたちの周りを、ナイフを持った覆面の男たちは取り囲んでいた。
「……やれますか?」
「私を誰だと思っているの?護身術の一つぐらいなら、もちろんできるわよ」
「じゃあ合図とともに」
「わかったわ」
◇
数分後、3人の覆面の男たちはクロアの活躍によって意識を失った。
「クロア、あなたなかなかやるわね。突撃したいと言っていただけのことはあるわ」
「喧嘩は割と自信あるんで」
「護衛のほうが向いているんじゃない?」
「俺は占い師です」
「そうだけど」
「……でも拳で戦える占い師でも、良いと思いませんか?」
「ゾル様みたいなの?いい体してるわよね」
「それわかります、内に秘めた筋肉がありそうですよね。
そういえば自分には赤の能力が欠けているから、体を鍛えているって言われてました」
「そうなんだ。……ってあまり無駄話をしている場合じゃなかったわ。
まだ入り口に見張りがいるわね」
「さすがに正面突破は厳しそうだ」
◇
「覆面されてるんじゃ能力が使えない、こういう時のなにか良い手はないんですか」
「それは、あるにはあるけど……。まずは私たちも覆面をするのよ。
この伸びている彼らのものを奪い取って。
そうすればスパイとしても潜り込めるし、相手に正体もわからない」
「なるほど、さすが歴戦を潜り抜けてきた人だ」
二人は覆面を奪い、装着した。
「やっと褒めてくれたわね」
「そんなに褒められたかったんですか?」
「……うん」
そんな真面目に返事されても困るよ。
「……でも洋服が派手じゃ無理じゃないですか?俺たち浮いてますよ」
「それは、また奪い取ればいいだけよ。
大事なバッジだけは無くさないようにしっかり持っておくのよ」
クロアは頷き、二人は洋服を奪い身に着けた。
「一応、安全のために格好は変えたけど。こんな時にも使える能力はあるわ」
「なんですか?」
「自分に使える能力よ」
「なるほど」
「まずは自分の運命を操作できる能力で、使えるものを使いましょう」
えーっと、刹那とかか。
「やってみます」
「私も試してみるけど。……それで内部に潜入して情報を手に入れる。
相手の情報がわかればこっちのものよ」
◇