その2 アニメと天使と異世界と
よろしくお願いします。
どこだここ? そんな感想が出てくる。
俺はいまおかしな空間にいる。なぜか小さなマッサージチェアの上に座っていて、目の前には薄型のテレビがあった。
そこにはアニメが映っているのだが・・・・・・・
[ロームスターくるめどらるフシニコピコがんこえるジャスじゃコンブーム大佐! 敵であるイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ超危キ魔王が攻めてまいりました!]
[なーに〜〜? ならば、仕方ない。殺せー殺せ~! 殺すのじゃージャジャジャジャ!]
[了解了解! りょーかい了解リョウカイカイ!]
えーと、なにこのツッコミ満載のアニメは?
登場人物の名前長げーよ。笑い方ヤベーヨ。もう全体的にカオスだよ!
[必殺1円ビーム!]
[ならばワイは秘技お尻がプニプニやー!]
[なんじゃとー!? ならばならば、必殺10円ビーム! ジャジャジャジャ!]
[おのれ〜魔王の力はここからやでー!]
だからなんだよこのアニメ! 必殺技弱いだろ!
てか作画? 静止画だし、終始動かないんだが!
でも・・・なんだろ? くやしい! くやしいけど、続きが気になる!
[これが最後の力! 必殺1000円ビーム! ジャジャジャジャ!]
[クククククソーーー! ワイがこのワイが? ぐわーーーーーーーー]
[私の勝ちだ!ジャジャジャジャ!]
[この番組はノンフィクションです]
まさかのノンフィクション!? 実話かよ!
[次回大佐死す! お楽しみに!]
マジかよー!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、この部屋どこ?
よし、状況を整理しよう。確か俺は横断歩道で女の子を助けてトラックに轢かれた。
そしてアダルトショップと激突し──今、は不思議な部屋でテレビを見ていると・・・
どんな状況だよ??? 俺、生きてたの!?
そこで部屋をよく見ていくと、辺り一面がアニメグッズで囲まれていた。
俺から見て右はアニメのポスター。
たくさんの可愛い女の子が書かれたポスターや、かっこいい男たちが半裸で書かれたものもある。
そして左にはたくさんのフィギュア。
メイド服の可愛い女の子や、両手が刀の形になっている不思議なお姉さんフィギュアもある。
さらに前には、先ほどまで不思議なアニメが映っていた薄型のテレビがあった。ちなみに相変わらず意味のわからない話が続いており、カオスが広がり続けている。
また後ろには木の扉が・・・って、ここから出られるんじゃないか?
・・・・・・・・・・あっ、ダメだ。鍵がかかっている。
うーーーーーんどうしたものか?
結局ここがどこなのか分からないまま。ココハドコデスカ?
「待たせてすまんのー」
すると急に木の扉が開き、女の子の声が聞こえてくる。
そして後ろを振り向くとそこには小さな女の子?がいるのだった。
さらにその子はただの女の子というわけではなく、非常に奇抜な恰好をしている。
──なぜだ? なぜこの子はコスプレをしているんだ!?
そう、小さな女の子はキラキラと輝く銀髪で、頭には左右に白い羽が生えていた。さらに背中にも大きな羽が左右にあり、服は真っ白で・・・まるで──
天使?
「わしの名前は天使 ナビじゃ。よろしくな」
やっぱり天使だ!・・・・・・・ん? なんで天使が目の前にいるんだ? というか天使って!??
「どうやらまだ貴様は状況を呑み込めていないらしい。仕方ない・・・村上一。貴様は5月19日車に轢かれたことで死んだのじゃ!」
ビシッと! 天使のナビさんは俺の体に右手の人差し指を向けて言い放った。
へーーーーー俺死んだのか。
え・・・・・・・・やっぱり俺死んだの????!!!!!
「意味わかんねーよ! たしかに頭が混乱してるけど、俺は生きている! っていうかなんだよ天使って! 冗談ですよね!?」
「いやいや、冗談ではない。貴様は死んでいるし、わしは超絶かわいい。そして天使じゃ」
おかしい。なんなんだよ・・・かわいいお顔ですけども!
「だが、今も俺は生きている! 君もただの女の子に決まってる!」
「うーむ分からずやじゃのー。いいかよく聞け、今からお前の個人情報を大発表してやろう! これが全て正しければ、信じてほしい!」
「個人情報・・・?」
一体どんな冗談なのか? そんなプライベートな情報をこの子が知るわけないだろ。
──と、思っていたのだが・・・・・
「村上一18歳。東京都在住。両親との三人家族で、マンションに住んでいる。学校のクラスは3年1組。出席番号23番。クラスでの存在感は薄く、友達は三人。食べることが大好きの増岡くん。勉強大好き細野くん。握力60kgで片手でりんごが潰せる梅田くんのみ。好きなアニメは某ロボットアニメで、あのドアを将来手に入れたい願いを貴様は持っている。貴様の髪の毛は頭のてっぺんにアホ毛があり、今もふよふよ動いている。そして目がつり目のためいつでもどこでも誰にでも、睨んでいるように見られてしまう。そしてそして特技はア───」
「やめてくださいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
やめろやめてくれーーーーーーーー! なんでこんなにこの人詳しいの!? 市役所の偉い人? 探偵? 刑事!?
「そして童貞。と、まあこんなところじゃの。どうじゃ、信じてくれるか?」
「信じます。ええ、信じますよ! 天使だ! かわいいーーーー!」
「そうか、そうじゃろう! よし、それじゃー本題に入るか!」
そう言うとナビさんはテレビを消して地面に座った。なんだか悪いので、俺はマッサージチェアを降りて、地面に座ることにする。
しかしここで俺はある疑問を解決したくなってしまった。そう、それは──
「あのーーー。さっきまでテレビに映っていたアニメは?」
「ああーあれか。あれは、(大佐と元気な仲間たち)じゃな」
なにそのへんな題名!
「ノンフィクション何ですか?」
「うむ。ノンフィクションじゃ。実在する英雄である大佐の割と波乱な物語を描いた全1000話の大作じゃ!」
ヤベーーーーな! 1000話? 大作すぎるだろ!
「天界では非常に人気があって──と、本題から逸れとるな・・・」
「あっ、すみません・・・」
大佐と元気なヤツらの物語はめちゃくちゃ気になるものの、俺が死んだことや天使など聞かなければいかないことはとても多い。
「それで・・・本題とは?」
そこで名残惜しいものの、本題に戻ることにする。
するとナビさんは満面の笑みを浮かべて、
「実は人は死んだ後、人生の善い行いと悪い行いを精査され、天国と地獄のどちらかに行くことになるのじゃ。じゃがな、貴様が起こしてきた行動の一つ一つを上位階層の大天使様たちが審査したところ、これは地獄でも天国にも行けないくらい判断が難しい結果が出てきてしまったのじゃ!」
「え、ええ・・・?」
ここにきて衝撃の事実。俺の人生における善い悪いはどうやら、審査の微妙なラインにあったらしい。
くやしい! これならもっと良いことをするべきだった!
「そこで上のものは貴様を異世界転生させることにしたのじゃ!」
「はい???」
しかし、ここでナビさんの口から聞き覚えのある単語が現れた。
異世界転生。
・・・あの異世界転生だと!? 一時期俺もハマっていたあれじゃないか!
たとえば、チートな能力!
頼れる仲間!
魔王たちの陰謀!
そして友情、努力、勝利!
──凄い! そんな所に行けるのですか!?
「そ、それで一体どんな世界に!」
異世界転生の機会を突然手に入れたため、俺は思わず興奮してしまう。
「うむ、貴様の第二の人生の世界! 素敵な場所に送るぞ!」
だが、興奮とは裏腹にナビさんの口から出てきた言葉は第二の人生という言葉。
そう、その時俺はやっと痛感するのだった。俺の元の世界の人生は、もう終わってしまったのだと──
〈じゃあ、約束! 大人になったら──〉
「ダメだ・・・」
だからこそ、いつの間にか俺はあの子との約束を思い出していた。忘れたくても忘れられない。あの子との大切な約束──
・・・・・・・そうだ、ダメなのだ。俺は、約束を守らないければ──
「すみません! 元の世界に帰ることはできないんですか!?」
「む・・・? 嫌か・・・?」
俺の真剣な表情を見たからか、ナビさんは悩み始めてしまう。
そして数秒悩んだ後に、ナビさんは元気よく、
「ならば転生した世界でゲームクリアを達成したら、元の世界へ返してやろう!」
と、提案してくるのだった。
「貴様の体は元の世界では現在植物状態のような形となっておる。そのため医者が延命治療を辞めれば、貴様は本当に死ぬことになるのじゃ・・・」
「某ロボットアニメの都市伝説ですか・・・?」
「しかし天界の力でお主の体を復活させることは可能じゃ!」
「なら! やります俺!」
どうやら迷っている時間はないらしい。俺は考える間もなく、ナビさんの提案を受け入れることにする。
「そうか! じゃあ行ってこい!」
そしてそう言うとナビさんは指を鳴らした。すると俺の目の前には大きな黒い影が生まれるのだった。
「では、村上一。異世界である、エロゲー世界に行ってこい! 童貞卒業。夢のハーレム体験を楽しむのじゃ! そしてその世界でのクリア条件はただ1つ! ヒロイン全員攻略じゃ!」
俺の体がどんどん影に呑み込まれていく。どうやらこの影の先にエロゲーの世界が──って!?
ちょっと待てーーーーー! エ、ロ、ゲー世界? 待って待って?
魔王がいる世界とかじゃなくてーー? ファンタジーで魔法な世界でもなくて!?
アダルトゲームの!?????!!!
「ちょっとま──」
そして俺は影にスッポリ収まってしまうのだった。