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反英雄  作者: AI
第1章 竜殺しの英雄
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第20話 森に現れたクリキュラ

 クリキュラは蛇を鞭のように伸ばし、振り子の要領で木々を飛び移って火の海を越えてきたのである。


 彼女は機械仕掛けの眼帯をシャッター式にカチャリと開くと、一瞬で飛んでくる全ての矢を石に変えてしまう。すると矢は力を失いバラバラと落ちていく。


「クリキュラ! お前なんでここに!?」


 絶対来るはずがないと思っていた最後の反英雄がやってきたことについて、驚いて尋ねるアルセスト。

 ところが蛇乙女は苛立(いらだ)ちを隠すどころかダダ洩れさせながら、とんでもない理由を語った。


「あの糞竜(マナレス)の野郎、あたしの推理にケチつけやがった。イザドラは絶対に裏切らない、それには明確な理由があると言ってたんだ。しかも嘘もついてなかった……。

 その理由を聞かないままマナレスが死んじまったら、モヤモヤして寝覚めが悪すぎるさね……」


「え、そっち!? 正義感に目覚めたとかイザドラに同情したとかじゃなくて? お前今のこの状況わかってる!?」


 あっけにとられるアルセストに、クリキュラは答える。


「状況ぐらいわかってるさね。マナレスは先に人捨て山に行ったんだろ。じゃあ、あたしは急いでるんで」


 再び蛇を伸ばして去っていこうとするクリキュラ。慌てたアルセストはその蛇をむんずとつかんで彼女を引き止める。


「空気を読めよ! ここは助ける流れだろ、どう考えても!」


 クリキュラは鬱陶しそうに蛇を振って妄想戦士の手をふりほどくと、ため息交じりに肩をすくめる。


「アルセスト、お前さんひとりなら簡単に脱出できるだろ」


「どういう意味だ……!?」


 彼女は恐ろしく冷たい瞳で、怯える村人を一瞥すると吐き捨てる。


「こいつらがここにいるってことは、どうせ反英雄を騎士たちに差し出して裏切ろうとしたんだろ。だとしたら助ける義理は全くない。自業自得、勝手に死ねばいいのさ。

 それどころか、一度裏切った人間は二度目も平気で裏切るさね。嘘つきは信用ならない」


「――だとしたら俺も同罪だ。人を見捨てて生き延びたんだからな……。だが俺は二度目を裏切らないためにここにいるんだ」


 アルセストのその言葉に、蛇乙女は低血圧症なんじゃないかというくらい「ふぅーっ」と長いため息を吐く。

 クリキュラはアルセストをつぶさに観察するが、体温も呼吸も瞳も、この男が嘘をついていないことを証明していた。


 マナレスはこの妄想戦士のことを「英雄の素質」があると言っていたが、はたしてどうだかね……。

 『臆病者は本当に死ぬまでに幾度も死ぬが、勇者は一度しか死を経験しない』という。だとすればアルセストはすでに一度死んだということになる。

 一度しか死を経験しない勇者より、一度死を経験し、そこから這い上がろうとする反英雄の方がよほど困難な道なのではないか……。はたしてこの男にそこまでの器量があるのだろうか――


 そうクリキュラが黙考していると、アルセストが彼女に向かって叫ぶ。


「クリキュラ、後ろだ!」


 火事場の木々の間を突風のように駆け抜け、馬蹄を響かし騎士隊長が迫って来ていた。


「反英雄最後のひとりが、こんなか細い女子(おなご)とは、わざわざカタパルトを使うまでもない。この剣のサビにしてくれるわッ!」


 そう叫ぶと馬上から剣を振り上げるが、蛇乙女は避けるどころか振り向きもしない。

 しかし黄金色の蛇を鞭のようにしならせると、一瞬で騎士隊長の喉笛(のどぶえ)に噛みつく。そのままの勢いで馬上から地面に投げ落とすと、


「少し黙ってろ」


 眼帯のシャッターを開いて赤い瞳で騎士隊長を(にら)みつけると、見る見るうちに彼の身体は石化していく。

 ついには首から下が完全に石に変わってしまい、残された生首だけが恐怖に引きつり絶叫していた。


「き、貴様ぁーこんなことをしてどうなるかわかっ、ゴフッ」


 蛇乙女はわめき散らす騎士隊長の口の中に長靴のヒールを突っ込んで黙らすと、アルセストに向けて、あごをしゃくって馬を指した。


「はからずも馬が用意できた。糞竜が生きてるか心配だ。これで先に助けに行け。

 騎士の攻撃をかいくぐって火の海を脱出するなんて芸当は、アルセストよりあたしの方が適してる」


「クリキュラ、お前……」


 蛇乙女はそっぽを向いて呟く。


「決してお前さんの意見に賛同したわけじゃない。ただ、正義面した糞騎士どもをのさばらせておくのが(しゃく)(さわ)っただけだ」


「お前けっこう話の分かる奴だったんだな! 俺は勘違いしてたよ、恩に着るぜ」


 感極まったアルセストがクリキュラに抱きつくと、彼女は耳まで真っ赤にして赤面した。


「とにかく早く行けって」


「おう、お前になら安心して任せられる。村人たちを頼んだぞ」


 そう言ってアルセストは馬に飛び乗ると、矢のように駆け出していく。


 炎の森の中に取り残されたのは、クリキュラと村人15人……そして地面に転がった騎士隊長である。

 蛇乙女は蛇で騎士隊長の襟首をつかみ上げて宙吊りにすると、ニタリと笑いかける。


「丁度いい人質も手に入ったしな。いくら身体が石化してるからって、矢が突き刺さって壊れれば石化が解けた瞬間あの世行きさね。せいぜい仲間の矢にやられないように泣きわめいて止めてもらうんだな。ほら、もう矢が飛んできたぞ」


「うわわぁーっ! やめろ、撃つな、撃つなー!」


 クリキュラは飛んでくる矢を騎士隊長の石の身体で振り落としていく。

 ことの成り行きを黙ってみていた神父様であったが、こんな冷血蛇女には絶対逆らわないでおこう……そう心の中で誓うのだった。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 騎士隊長の必死の懇願の叫びが届いたおかげだろうか、騎士たちの攻撃がひとまず止んだ。

 クリキュラは、先ほどアルセストが木を切り倒して作った防護柵に近づき、


「無駄な魔力は使いたくなかったんだがねぇ」


 そう呟くと眼帯のシャッターを開いて赤い眼で辺りを見まわす。すると木々が炎ごと徐々に石化し、瞬く間に石の砦と化していくのだった。

 ここなら火の海に巻かれることもない、矢の攻撃もしのげるだろう。そこに村人たちを退避させる。


 そうこうしているうちに――

 黄金色の蛇が耳打ちするようにクリキュラの耳元に近づくと、驚くことに人語を発し始めたのだ。


「心が石で出来ていると恐れられたお前さんが、情にほだされ人助けとは……随分と丸くなったもんじゃわい」


「黙れ、ピスタス。寄生虫のような存在のお前に意見される筋合いはない」


 クリキュラが苛立たしげにそう吐き捨てると、ピスタスと呼ばれた蛇は思案気に鎌首をかしげる。


「ひどい言われようじゃな。老蛇はいたわるもんじゃて。それに今回もわしの力が必要なのではないのかね。お前さんは魔剣使いを恐れているんじゃろう?」


 クリキュラはこの森の隠れ場所が簡単に見つかったのは、イザドラの裏切りのせいだと考えていた。だがもう一つの可能性を無視するわけにはいかない。


 クリキュラはここにくる前に竜殺騎士団についての情報を調べていた。

 騎士団長の持つ魔剣『龍舞(ドラゴンダンス)』には、竜の居場所を察知する力もあるのだ。遠く離れたイザドラの竜化症の弱い力さえも察知したのだとしたら、騎士団長は想定以上に魔剣の力を引き出し扱っていることになる。


 だとすれば本当に人捨て山の竜を復活させてしまうのではないか。そうなればかつてアルセストが巨竜と戦った時のような、凄惨な壊滅が起こってしまうだろう――

 クリキュラは覚悟を決めて、ピスタスに告げた。


「いざとなったら『覚醒疾走(アドレナライズド・ドライブ)』を開放する――」


「馬鹿を言うな、クリキュラ。そんなことは許さんぞ。……それにお前さん、人捨て山を草木も生えぬ石の村に変えちまうつもりか?」


「竜が復活して、近隣一帯全滅して荒野と化すよりはましだ。それに開放するのは一分間だけだ、それならば被害は最小限で済む……」


 ピスタスは鎌首をもたげてたしなめようとしたのだが、クリキュラは聞く耳を持たない。

 彼女は騎士たちがいるカタパルトの方向を(にら)むと、口の端を吊り上げてニヤリと笑う。


「それよりまずはこの森のゴミ掃除だ。背後から挟撃されたら面倒だしな。しらみつぶしにトコトンやるぞ、あぶり出して全員石化する」


「おー、こわいこわい。反英雄なんてならず者は敵に回すもんじゃないわい」


 クリキュラの頭部から生える黄金蛇はそう軽口を叩くが、彼女はそれを無視して歩き出した――

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