レイドボスにトドメを刺した時のお話
二つに分けようかと思いましたが、片方が極端に短くなりそうだったのでこのまま。
シャーロットが平原の向こう側に消えてすぐ、俺と椿は外壁の上へとすぐ引き返した。
「お前ら帰ってきたか――ってなんか凄い光ってるけどどうした!?」
「気にしないでください、俺の世界の人間は快便だと全身が発光するんです」
「そ、そうなのか…」
「そんな事より状況は?」
俺の発言にギルドマスターがドン引きしていたが、そんな事に構わず俺は状況を尋ねる。
「御覧の通りだ。雑魚の数は多少減ったが子蜘蛛の処理が間に合っていない。そもそもレイドボスから生まれた子蜘蛛は親と同じく大人数で狩る事を前提としたステータスだ。例え他の雑魚が居なくなってもヴェレーノはおろか子蜘蛛を倒す事すら難しいだろうな」
「何か手はあるんですか?」
「近隣に居る高レベル冒険者に片っ端から声を掛けて呼び寄せては居るが、正直そいつらがやってくるまでにグレッグ達が持つかどうか」
「そんな…」
椿がショックを受けたような声を出す。
恐らくそれが今ギルドマスターに出来る精一杯の事なのだろう。
悔しそうに両の拳を握りしめ、表情は酷く歪んでいた。
そうこうしてる間にも子蜘蛛は数を増やしていき、ついにはグレッグさんの周囲には何十体もの子蜘蛛が蠢いていた。
「こりゃ万事休すか?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!まだやれるわ、くたばるならアンタ一人でくたばんなさい!!」
「はっ!嫌なこった、ここまで腐れ縁でやってきたんだ、死ぬときゃてめぇら全員一緒、生きる時も全員一緒って決めてんだよ」
「何勝手に決めてるんだよ全く、言っとくけど僕にそんな趣味は無いしグレッグと同じ墓の下とか僕は嫌だからね」
「あら、グレッグにそんな趣味が」
「一緒ってそういう意味じぇねぇよ!!クロエも勘違いすんな!!」
「ならうちが呪いで男しか愛せないようにして事実に変えてあげる」
「止めろ馬鹿!それはマジで洒落にならんわ!!」
そんな言い合いを繰り返していた時、ふいにグレッグさんが大声を上げて笑い出す。
「あー、やっぱりお前らと居ると面白れぇわ。何度も同じような事繰り返してんのに未だに笑っちまうぜ。全然飽きねぇし、もっとこうして居たいって思っちまう。なぁ、お前らもそうだろ?こんな所じゃ終われねぇよなぁ?」
何か覚悟を決めたようなグレッグさん達の表情を見た時、俺は思わず外壁から飛び降りそうになった。
だが視界の隅に一瞬光を捉え俺は踏み出そうとした足を止めそちらの方を見る。
平原のさらに奥、沼地を超えた山岳地帯の山々の間で再び光が瞬いたかと思うと次の瞬間、光は一瞬にして沼地と平原を超え魔物の群れへと突っ込んだ。
光に触れた魔物は跡形もなく消し飛び、直接触れなかった魔物もその衝撃の余波を受け四肢が千切れ飛んでいた。
(シャーロットか?)
一瞬そう考えた俺だったがすぐにその光の異常に気が付いた。
シャーロットにしてはその光は太すぎるのだ。
シャーロットの横幅は精々20センチ程度、だが眼下に見えるのは横幅1メートル以上もある太い光の線が縦横無尽に魔物の群れの中を駆け巡る姿だった。
(シャーロットにしては横幅が広すぎる。でもあの光は)
食い入るようその光を目で追っていた時、ふと自分を覆う光が薄れつつある事に気が付く。
勇猛の効果時間が切れたのだ。
それと同時に眼下の光も薄れて行き、光の中から魔物が飛び出して来る。
体長三メートルはあろうかという巨体、白く艶やかな体毛、額からは二本の角が生えた兎に似たその魔物はグレッグさん達の周りに居た子蜘蛛を吹き飛ばし、グレッグさん達を守るようにヴェレーノと向かい合う。
突如現れた謎の魔物に外壁の上に居た騎士や冒険者達が騒ぎ出す。
「何だあの魔物!?」
「ダンジョンから吐き出された奴…じゃないよな」
「見た事無いぞあんな魔物」
上も下も混乱している中、件の魔物が首だけでグレッグさん達の方に振り返る。
「コイツは」
「レプス・コルヌトゥス…?」
「何でこんな所に!?」
「幻…ではありませんよね」
「分からない」
突如現れ、自分達に味方するように子蜘蛛を蹴散らした魔物にグレッグさん達が敵か味方か判断し倦ねているとグレッグさんの前に目の前にパーティ申請のウィンドウが現れる。
「パーティ申請…申請者”シャーロット”!?」
ウィンドウに表記されていた名前にグレッグさんは反射的にウィンドウから顔を上げ目の前に居る白い魔物の姿を見る。
「クゥ、クゥゥン」
「…はっ”しょうがない、助けてやる”ってか?。偉そうに言いやがるぜ全く」
苦笑いのような表情を浮かべながらもグレッグさんがウィンドウを操作する。
すると俺とシャーロットの名前の下にグレッグさん達五人の名前がパーティメンバーとして表記された。
「本当にシャーロットだったのか…」
追加された五人の名前を見て、俺はあの魔物がシャーロットであるのだと確信する。
どうやら俺が地平の彼方までぶん投げた後、その先で強力な魔物を倒し進化するまでに成長したのであろう。
「一体どんな魔物倒して来たんだアイツは」
俺がそんな事を呟いていると横に立っていたギルドマスターが話しかけてくる。
「驚いた、まさかシャーロットがアルミラージではなく、レプス・コルヌトゥスの幼体だったとはな」
「レプス・コルヌトゥス?」
「王種と呼ばれる分類の魔物、所謂ボスクラスの存在だ。王種は数も少なく成体と比べ幼体時は遥かに弱い。しかも成体になるための条件が過酷な為、幼体の頃は姿形の似通っている魔物の中に紛れ身を守り、成体になる時を虎視眈々と狙ってるんだ。だが元は別種の魔物、似通ってるとは言ってもどこか違う所は存在する。王種によって異なりはするが例えば体毛の色だったり、身体つきだったり顔つきだったり、レプス・コルヌトゥスの場合は鳴き声だったようだな」
そういえば他のアルミラージとは鳴き声が違っていたな。
「ここの最近俺も狩りなんてやってなかったし、あいつらもアルミラージとなんて何年も前から戦ってないだろうからな、鳴き声が違う事に全然気づかなかった」
「レプス・コルヌトゥスというのは強いんですか?」
「強い、王種に分類される魔物は総じてそうだ。とはいえ通常のボスクラス、レイドボスと肩を並べる程じゃない」
シャーロットの参戦で幾分か形勢は持ち直したようだが、ギルドマスター曰くまだ不十分なようだ。
「クォォォォォォォォォオン!!」
魔物の大群を前にシャーロットが雄叫びを上げると、グレッグさん達の身体が一瞬輝き、対称的に魔物達には影のような物が纏わりつくのが一瞬だけ見えた。
「今は?」
「うっ…王種が必ず持っている『王の雄叫』ってスキルだ」
「マスター?」
苦し気なギルドマスターの声に振り向くと、地面に膝をつくギルドマスターと椿の姿があった。
「周囲の味方に自身のステータスの20%分ステータスを上昇させ、それ以外で周囲に存在する者には自身のステータスの20%分ステータスを減少させる」
「急に身体の力が抜けたのはそういう訳ですか…」
「二人共大丈夫か?」
「問題ない、解呪のスキルを使えば元に戻る。おい!王の雄叫の影響を受けた奴は僧侶から解呪して貰え!魔物共が弱ってる隙に叩くんだ!!」
ギルドマスターが指示を飛ばす中、俺は眼下の魔物の様子を見る。
魔物達の動きはかなり鈍くなっており、その動き初めてゴブリンと戦った時の椿を連想させた。
(今の状態なら俺が参戦して魔物達を薙ぎ払っても問題無いんじゃないか?)
眼下見える魔物の殆どは恐らくステータスが最低値まで落ちている。
中には王の雄叫の影響を受けてもある程度のステータスを保っている魔物の姿もあったが、それでも王の雄叫によってステータスが補強された俺が相手という事ならば、なぎ倒してしまっても何ら違和感は無いだろう。
「おい、明継お前まさか」
魔物の群れをじっと見つめていた俺の様子の変化に気が付いたのか、ギルドマスターが焦ったような声を上げる。
「今は少しでも戦力が欲しいんでしょ?俺は遠距離攻撃手段なんて持ち合わせていないもんですからね」
「馬鹿野郎!いくら王の雄叫でお前のステータスが補強され、逆に相手が弱ってるとはいえ子蜘蛛やヴェレーノの方がまだお前よりステータスは上なんだぞ!?」
「つまりその二種類以外を相手にしてれば問題無いって事ですよね?」
「それは」
俺の返しにギルドマスターが言葉を詰まらせていると、横から椿が声を上げる。
「明継さん、それなら私も!」
「いや、椿はここで待っててくれ」
王の雄叫にも再使用時間が存在するはずだ。
例えスキルの効果が切れたとしても俺は問題ないが、椿は効果が切れた瞬間に死ぬ可能性がある。
(まぁ、スキル効果が切れたら俺も戦わずに逃げないとステータスの事がバレかねないしまずいんだけどな)
そんな事を考えながら俺は外壁から身を投げ出す。
「あ、馬鹿!?」
背後からギルドマスターのそんな声が聞こえてきたが、俺の意識は既に眼下の魔物達にあった。
途中外壁に剣を突き立て落下の速度を殺し、壁を蹴り群れの中へとダイブする。
「うらぁぁぁぁああああ!!」
一匹の魔物の頭を踏みつぶしながら俺は剣を横薙ぎに大きく振るい地面に着地する。
地面に足がついてから俺は間髪入れずに次の攻撃に出る。
極限までステータスが落ちた魔物達は体当たりだけも倒せるため、俺は決して足を止める事はせず、一匹でも多く魔物を巻き込めるように剣を振りながら目の前に立ち塞がる魔物の群れの中を突き進んで行く。
俺の頭や肩、腕や足が魔物とぶつかる度にその魔物の身体が弾け俺の身体は魔物達の血で赤く染まっていく。
だがそんな事はお構いなしに俺はただ剣を振り、群れの中を駆け続けた。
一秒でも早く、一匹でも多く、それだけを考えていたその時
ガキィン!!
振り抜こうとした剣から何かに引っかかったような手応えが返ってくる。
剣先に視線を向けると一匹の魔物が牙で剣を挟み込み、こちらを睨みつけていた。
(しまった、もう王の雄叫の効果が切れたのか!?)
このまま戦い続ける事は出来ないとすぐさまその場から離脱しようとしたが、突如俺の頭上に影が差した。
影の正体を探る為にそちらに視線を向けた俺の視界に映った物は口を大きく広げ、今まさに俺に食いつかんとする子蜘蛛の姿だった。
「明継!!」
俺を呼ぶ誰かの声が聞こえたが、俺の思考はこの状況をどう脱するかで一杯になっていた。
こんな子蜘蛛の攻撃喰らった所で大したダメージはないが、それは不自然な事であり後で疑われるのは間違いない。
(避けるしかない、でもどうやって?)
子蜘蛛の牙は眼前に迫っており、この状況から攻撃を躱す術など俺は思いつく事が出来なかった。
大きく開かれた子蜘蛛の口が俺の頭部にあわや喰らい付こうとしたその時、子蜘蛛の頭部が地面に叩きつけられる。
「シャーロット!?」
気が付けば子蜘蛛に覆いかぶさるようにしてシャーロットがそこに立っており、前足で子蜘蛛の頭部を踏みつけていた。
「クゥ!」
「うおぁ!?」
シャーロットは短く一鳴きすると口で俺の襟元を咥えて宙へと放り投げる。
放り投げられてすぐ、俺の身体は重力に引かれ落ちて行きシャーロットの背中に着地する。
「クゥゥゥン、クゥ!」
「王の雄叫の再使用まで乗ってろってか?」
「クゥン!」
そうだと言わんばかりにシャーロットはそう返すと、俺を背に乗せたまま魔物の群れの中を駆け抜けグレッグさん達の元まで引き返していく。
椿の背中にしがみ付く俺を見て、グレッグさん達は魔物を蹴散らしながら大声を上げる。
「明継!てめぇなんて無茶しやがる!!」
「すみません、じっとしてられなかったもので」
「加勢に来てくれたのは嬉しいけど無茶は禁物だよ!」
「ここでアンタに死なれたら沼地での一週間が無駄になるんだからね!分かってんの!?」
「ライザ、明継さんの治療を、あんな無茶な戦い方をしてましたから毒か何かを受けてるかもしれません」
「了解、診てみる」
ライザさんがそう言って何やらウィンドウを表示させ操作しているようだった。
「………」
「ライザ、何かあったのか?」
「いや、特に問題ない。バッドステータスの類も受けてないし」
「そうか…良いか明継、お前は絶対シャーロットの背中から降りるんじゃねぇぞ」
「降りるなって、でもそれだと剣が届かないんですけど」
「そこは考えがある、ライザ!」
「明継、剣を」
ライザさんにそう言われ、俺はライザさんの方に剣を差し出す。
するとライザさんは懐から呪符を一枚取り出し俺の剣に張り付ける。
「『フラール』」
ライザさんがそう唱えると呪符は瞬く間に燃え上がり炎が剣を包み込み、さらにその炎が刃を形作り実際の剣よりも刃渡りが50センチ近く延長されていた。
「火属性の付与と剣の長さを伸ばした。それならシャロの背中に乗ってても地上の魔物に届くはず」
「ありがとうございます」
ライザさんに強化して貰った剣を見つめながら礼を言うと、ライザさんが急に大きな声でシャーロットに指示を出す。
「シャロ!そのまま魔物の群れに突っ込んで!」
「クゥゥゥゥゥゥゥン!!」
「え?ちょ!?」
突如走り出したシャーロットに振り落とされないよう俺は必死にしがみ付く。
シャーロットの背中に乗っていた方が安全だからという理由で俺が降りなくて良いようにしてくれたと思ったのに、まさかシャーロット諸共突撃させられるとは思わなかった。
(俺の安全どこ行ったよ!?)
心の中でそう叫びながらも、しがみ付いた状態から上半身を起こして剣を構え、地面に居る魔物めがけ剣を振るう。
炎で出来た刃に触れた魔物は一瞬にして燃え上がり、適当に剣を振るうだけで次々と魔物が消し炭になっていく。
「シャーロット!右だ!」
「クゥ!!」
俺はシャーロットに指示を飛ばし、少しでも魔物が多く集まっている所にシャーロットを向かわせる。
時折襲い掛かる子蜘蛛を躱しつつ、出来る限り雑魚の数を減らす事に注力する。
グレッグさん達の周囲を囲っていた子蜘蛛を吹き飛ばした事から察するにシャーロットのステータスは子蜘蛛より上のはずだが、レイドボスから生まれた子蜘蛛も大人数で狩る事が前提と言われるだけはあり、HPだけは桁外れに多くシャーロットでも倒すのに時間が掛かる。
(子蜘蛛の相手は後回しだ。とりあえず今は雑魚の殲滅を優先しないと)
「明継!!」
「っ、シャーロット!」
「クゥゥン!」
グレッグさんの俺を呼ぶ声に俺とシャーロットは群れの外側を舐めるように走り、魔物の数を減らしながらグレッグさん達の元へと駆け戻る。
「そろそろ王の雄叫が再使用可能になる頃だ、決めに掛かるぞ」
「決めるってこの人数で狩れるんですか?」
「算段はある。明継君とシャーロットの活躍で魔物の数も大分減ってきたからね。これなら魔物を指揮しているヴェレーノを倒してもそこまで被害は出ないはずさ」
なるほど、グレッグさん達がヴェレーノの避けていたのは倒せないからでは無く、倒してしまった場合に統制を失った魔物達が四方に散る事を危惧していたからだったのか。
「明継、今からライザの呪符をありったけ使ってお前を可能な限り強化する。俺達が雑魚共の動きを封じるからお前達はヴェレーノをやれ」
「俺とシャーロットだけでですか!?」
「大丈夫よ、ライザの呪符は凄いんだからその恩恵をフルに受ければあんな蜘蛛一匹敵じゃないわ」
「ライザさんの呪符って倍率アップ系ですよね?。俺よりステータスが高いグレッグさんかジュリアさんの方が適任じゃ無いですか?」
「確かにそちらの方が確実かもしれませんが、これは明継さんの為でもあるのですよー」
「俺の為?」
「これから他の勇者を仲間にしようっていうんだ。レイドボスを倒した勇者とかそういう肩書一つあった方が良いだろ?」
どうやらグレッグさん達は旅立つ俺の為を思ってこんな事を言ってくれているらしい。
それならば断わる理由はない、有難くやらせて貰おう。
「明継、シャーロット、動かないでね」
ライザさんがそう言いながら俺とシャーロットの身体に呪符をペタペタと貼って行く。
「攻撃アップ、ダメージアップ、会心率アップ、クリティカルダメージアップ、etc…」
ライザさんが殆どの呪符を張り終える頃には俺とシャーロットは呪符まみれになっていた。
「そして最後に剣にとっておきの呪符を二枚…これで良し」
「その二枚は何ですか?」
「刃が伸びない代わりにさっきよりも強力な火属性効果の呪符、それと虫特攻の呪符、ここまで盛ればあんな虫イチコロ」
「準備は終わった?どうやらあちらさんも全力で受けて立つみたいよ」
ジュリアさんの視線の先に俺達も目を向けると、残っていた魔物と子蜘蛛達が全てヴェレーノの周囲に集まっていた。
「作戦に変更はねぇ!俺達が雑魚を蹴散らし、動きを止める!明継とシャーロットはその隙にヴェレーノを倒すんだ!」
「子蜘蛛は大丈夫なんですか?」
「倒せなくても動きを止めるくらいは出来るさ。それにヴェレーノが死ねばヴェレーノから生み出された子蜘蛛も息絶え、残るのは普通の魔物のみだ」
「つまりアンタがヴェレーノを倒さなきゃ子蜘蛛も死なないってこと。私達の命が掛かってるんだから手を抜いたら承知しないわよ?」
「ふふふ、大丈夫ですよ。仮にそんな事になったらライザが化けて出ますもんね?」
「もち、呪い殺す」
「せ、精一杯頑張らせて頂きます」
戦いの最中だと言うのに俺達は一頻り笑いあった後、前方に見える大群に向き直る。
通常の魔物数はかなり減っていたが、子蜘蛛の数は着々と増えており個体数では通常の魔物の方が多いが、大群の面積だけでいえば子蜘蛛の割合が圧倒的に大きく、凄まじい威圧感があった。
だがそんな大群を前に臆する様子もなく、グレッグさんが叫ぶ。
「行くぞお前ら!!」
「はい!シャーロット!!」
「クォォォォォォォォン!!」
王の雄叫びの発動を確認し、全員が一斉に駆け出す。
「『バーサーク』!!」
「『ファントムマリオネット』!!」
「『一拳一刀』!!」
「『グランドセイヴァー』!!」
グレッグさん達がそれぞれスキルを発動させ、ヴェレーノの前に立ちふさがる魔物共を蹴散らしていく。
「『フラール』!!」
グレッグさん達の活躍によってヴェレーノへの道が開いた時、ライザさんがスキルを発動させ俺とシャーロットに張りつけらえていた全ての呪符が効果を発揮する。
ステータスを強化された俺とシャーロットは一気にその道を駆け抜けヴェレーノの元へ駆ける。
「ィ――――!!」
人間の耳では聞き取り辛い高い鳴き声を発しながらヴェレーノが毒煙を口から吐き出すもそれに構う事無く毒煙な中を突き進み、ヴェレーノの体当たりをかます。
「キィィィ!?」
シャーロットの角が突き刺さりヴェレーノが悲鳴を上げる。
その状態からシャーロットは前足でヴェレーノの足を踏み、逃げられないように抑え込む。
(シャーロットの背中に乗ってたんじゃ剣が届かない!ここは一度降りて――)
俺がそう考えたその時、突如地面から突き上げるような衝撃が襲い俺とシャーロットは空中に投げ出される。
「なっ!?」
驚愕している俺を他所にヴェレーノは口から糸を俺達めがけ吐き出し、その糸はシャーロットの後足に絡みついた。
その状態からヴェレーノは身体を大きく回転させ始め、シャーロットがまるでハンマー投げの砲丸のようにグルグルと振り回される。
「ぐぅぅ!?」
凄まじい遠心力に俺はシャーロットの背中から振り落とされそうになるのを必死に堪えていた、その時だ
パキッ――
「クォォォォォォォン!?」
「シャーロット!?」
突如苦しそうに叫び出したシャーロットに何事かと思った俺だったが、すぐに原因に思い至る。
大きくなった今のシャーロットが振り回されればそこに生じる遠心力もそれだけ強くなる。
その力を支えているのはシャーロットの後足一本だけ、恐らくその力に耐えきれずシャーロットの後足の関節が外れてしまったのだろう。
このままでは関節どころか後足が引き千切れかねない。
その事実が脳裏を過った瞬間、俺の頭はどうしようもない怒りでいっぱいになっていた。
「ふざけんじゃねぇぞ…!この野郎!!」
俺はそう言いながら手を離しシャーロットの背中から離れる。
遠心力で身体が投げ出されるのもお構いなしに俺は眼下のヴェレーノを睨みつけ
「シャーロットを放しやがれ!クソ虫がぁぁぁああああ!!」
渾身の力でヴェレーノめがけ剣を投擲する。
剣はシャーロットを捕らえていた糸を絶ち、そのままヴェレーノの頭部から胴体へと突き抜ける。
「――――――!!」
ヴェレーノは声にならない叫び声を上げると、力なくその身体を地面へと横たえ、全身が灰のようになり跡形も無くなる。
すると周囲に居た子蜘蛛達も突如動きを停止し、残っていた僅かな魔物達も統制を失ったのか四方へと散らばり始める。
「おわっ…た?」
そんな光景を目にした途端、先程まで頭をいっぱいにしていた怒りの感情は消え失せ、安堵からか全身の力が抜ける。
ガンッ!!
その瞬間、後頭部に強い衝撃を感じ俺は意識を失った。




