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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
22/27

清掃活動という名の尻拭いをした時のお話

「何ですか…これ」


現在俺達は首都を囲う外壁の上にギルドマスターと共に来ていた。

外壁の外、俺の眼下には無数の魔物が犇めき合っていた。


「ラビュリュスの連中からの御裾分けだ。良かったな明継、レベル上げ放題だぞ」


冗談めかした口調でギルドマスターがそう言う。

確かにどんな魔物を倒しても1しか経験値が入らない俺にとってこれだけの数の魔物はとても魅力的なのだが、かと言って本当に俺一人で殲滅なんてした日には力を抑えていた事がバレてしまう。

何よりわさわさと蠢く魔物達の姿は生理的に受け付けない物があり、あの中に飛び込むのは遠慮したかった。


「さっきからラビュリュス、ラビュリュスって言ってますけど、この魔物達は一体何なんです?。ラビュリュスって国と何の関係が?」

「お前、グレッグ達から色々教わってたんじゃないのか?」

「ラビュリュスがダンジョンを利用して国を作ったって事は聞いてます。そのダンジョンが勇者のレベル上げに適してるというのも、でもそれ以外は特に聞いてません」

「あいつら、俺達の知ってる事は全部教えたとか言ってやがったのに…まぁ良い、俺が教えてやる。時間が無いから手短にだけどな」


そう言うとギルドマスターは少々早口で説明を始める。


「まずこの魔物達はラビュリュスのダンジョンから吐き出された魔物達だ。ラビュリュスの連中が魔物を狩る事をサボったのが原因でダンジョンの許容量を超え魔物が増えた結果、ダンジョンの外に魔物が吐き出されたんだ」

「ラビュリュスのダンジョンって別の国の地下にまで広がってるんですか?」

「いや、そういう訳じゃねぇ。地震と共に地面から湧き出して来たこいつらだが、実際に地面の中を移動した訳じゃない。強いているなら転移魔法みたいなもんだ。許容量を超えた魔物達はこの世界の何処か、ランダムな地点に出現する。数が数だけに放っておくと被害がデカくなるからな、こいつらが四方に散る前に片付ける必要がある」

「なんて迷惑な…そのラビュリュスの人達は何故魔物を狩らなかったのですか?」


椿の質問にギルドマスターはまた疲れたような表情を見せながら質問に答える。


「あそこのダンジョンの魔物はちょっと特殊でな、数と質が反比例してるんだ。つまり魔物の数が増えれば質が落ちて弱い魔物が、逆に魔物の数が減れば質が上がって強い魔物がって具合だ」

「なるほど、つまり召喚した勇者に効率よくレベルを上げさせるために量を増やして質を落とそうとした結果」

「許容量を超えてしまった訳ですね…」


執務室で見たギルドマスターやグレッグさん達のやり取りを見る限りこれが初めてでは無いのだろう。

というかかなりの頻度であるようだ。


「これって普通に国際問題では?他国から大量の魔物が流れ込むとか戦争になっても可笑しく無いですよね」

「まぁそうなんだがラビュリュスは本当に特殊な国でな、そこら辺は上手い事やってんだ。戦争なんて起こせないし起こした所で攻め落とすなんて無理な話だ。とはいえ一方的に迷惑かけられっぱなしで済ませるってのは論外だ」

「じゃあどうするんですか?」

「法外な賠償金を請求する。実際に掛かった費用や被害なんか関係なしに出来る限りの金や物資をふんだくる。ラビュリュスはダンジョンのおかげで金や物資は腐る程持ってるからな、払えないとは言わせねぇ」


そう言ったギルドマスターの顔には暗い笑みが浮かんでいた。


「とりあえず賠償金請求に関しては置いといて今は目の前のこれをどうにかしねぇとな」

「何か作戦はあるんですか?」

「一応な、あまり作戦と呼べるほど上等なもんでは無いが――っと、始まったぞ」


ギルドマスターがそう言って見つめた方向に視線を向けると、無数に蠢く魔物達の群れの端で凄まじい爆炎が発生し魔物達を吹き飛ばしていた。

それを皮切りに城壁の上に構えていた騎士や冒険者達が一斉に攻撃を開始する。


「あれは」

「グレッグ達だ、あいつらには外に出て魔物の相手をして貰う」

「グレッグさん達だけでですか?」


魔物の数は優に五千を超えている。

それをたった五人で相手にしようだなんて無謀としか思えなかった。


「安心しろ、あいつらのレベルは60前後、対して眼下の魔物達は数のせいで質は落ちて殆どが10や20、少し30レベルが混じってるってくらいか」

「魔物を見ただけでレベルが分かるんですか?」

「実際にレベルが見えてる訳じゃないがあいつらのレベルを推測する事は出来る。魔物の量に限度があるように質にも限度ってもんが存在する。それ以上強くはならないし、弱くもならない。外に排出されるまで数が膨れ上がった魔物達は全員レベルは下限値まで落ちるが、その下限値は魔物によって異なる。今見える連中の下限値はさっき言った通りだ」

「グレッグさん達は心配ないってのは分かりましたが、でも何故グレッグさん達だけなんです?。壁の上から狙い撃つだけじゃ無くて下に降りてグレッグさん達と一緒に」

「そりゃ駄目だ」


俺の言葉を遮るようにギルドマスターが強い口調で言う。


「レベルが落ちて殆どが10や20とはいえあの数、しかも中には30レベルの魔物も交ざってる。今ここに居る冒険者や騎士のレベルなんて精々30が良い所だ。そんなのがあの群れに突っ込んだら一瞬でHPが0になっちまう」

「ここは首都なんですよね?首都を守る為の精鋭部隊みたいな人達は居ないんですか?」

「首都だからこそだ。わざわざ強い魔物が出てくるような場所に首都なんておったてやしない。ここに常駐してる騎士や冒険者なんかは精々平原や沼地で魔物を狩るだけ、レベルも20台が殆どだ。実力のある奴らはこんな所から離れてもっと強い魔物が出現する所に行くさ」


ギルドマスターのその説明に俺も椿も納得し、それ以上の言葉を飲み込んだ。

黙り込んだ俺達を見てギルドマスターは俺達を安心させようと口を開いた。


「安心しろ、流石に60レベルともなれば30レベルが束になった所で勝てやしない。魔物達も散らばる様子もねぇし何の問題も無くこのまま――」


何かを言いかけ、ギルドマスターが突然口を噤む。

どうかしたのかと俺と椿が様子を窺っているとギルドマスターはポツリと独り言のように呟きだした。


「何故魔物達は動かないんだ?。普通、上から一方的に狙い撃たれたら蜂の巣を突いたように逃げ惑うはずなのに」

「マスター?」

「ダンジョンから排出された魔物はダンジョンの束縛から解放され、自分の意思で行動するようになるはず…なのにまだこいつらが縛られているように見えるのは何故だ?」


俺の呼びかけも聞こえていないのかギルドマスターぶつぶつと考え事を続けていた。


「ダンジョンじゃねぇ、魔物達を従えてる奴が…まさか!」


その時、魔物達の群れの中央で地面が爆ぜ凄まじい土埃が上がる。

土埃と共に何体もの魔物が宙へと舞い群れの中に落ちて行く。


やがて土埃が晴れた時、そこには体長8メートルはあろうかという巨大な蜘蛛の姿があった。


「レイドボス!?しかもあれは13層のヴェレーノか!!」

「レイドボス?」

「ダンジョン内に居るボスの中でも大人数で狩る事を前提とした強力な奴だ。大体適正レベルの冒険者が20人居てギリギリって所だ」


冷や汗を浮かべながらそう説明してくれたギルドマスターの様子を見ながら、俺は質問を投げかける。


「あの蜘蛛も下限値までレベルは落ちてるんですか?」

「いや、レイドボスは他の魔物とはまた違う条件で強さが変わる。レイドボスは守る宝の価値の分だけステータスに補正が入る仕組みになってるんだ。だからダンジョンから排出された今ならステータスに補正は入ってないはずだ」

「という事は強化されていないというだけで弱体化もしてないんですね」


俺のその言葉にギルドマスターは何も答えてはくれなかったが、焦った表情を浮かべるギルドマスターを見て俺は自分の言った事は正しいのだと確信する。

ボスというくらいなのだからレベル自体も高いはずだ。

しかもそれが大人数で挑む事を前提としているのならたった五人しか居ないグレッグさん達ではまず太刀打ちできないだろう。


「おい!僧侶系の職業で解呪のスキル覚えてる奴は今すぐ教会に行って僧侶系に職業を変えて来い!!今すぐだ!!」


ギルドマスターは何人かの冒険者にそう指示を飛ばすとグレッグさん達の方に向かって壁の上を駆け出す。

俺達もその後を追うと、ギルドマスターは外壁の上からグレッグさん達に向かって何やら叫んでいた。


「お前ら!一旦引け!!」

「あぁ!?何言ってやがる!この状況で引ける訳ねぇだろ!!」

「グレッグの言う通りです!今ここで引いたらこれだけの数の魔物が野放しになってしまう」

「こんなの放っておいたら周囲の村々が壊滅するわよ!」

「特にあのヴェレーノ、アレはここで何としても倒さないといけません」

「同意、魔物を従える魔物なんて少しでも自由にしたらまずい」

「お前らぁ…!」


ギルドマスターが歯を食いしばる。

それは言う事を聞かないグレッグさん達に対する怒りなのか、それとも何も出来ない自分に対する不甲斐無さからかは分からない。


そんなギルドマスターの姿を俺は黙って見つめていた。

その時、ふと服の袖を引っ張られる感覚に気が付き背後を振り返ると不安そうな顔をした椿が居た。


「明継さん…」

「…………」


椿が何を言わんとしてるのかは分かっていた。

グレッグさん達を助けることは出来ないのか、そう言いたいのだろう。

確かに俺が参戦すればグレッグさん達を助け、あの魔物達を殲滅する事も出来る、しかしそんな真似をしたらステータスの事がバレてしまうかもしれない。


「明継、椿、変な事考えるんじゃねぇぞ。じっとしてられないってのは分かるが、あの数に突っ込んだらお前らなんて一瞬でお陀仏だ」


俺達に釘を刺すようにギルドマスターが言う。

ギルドマスターの言う通り、普通に考えたら召喚されてまだ一月の勇者があの群れの中に突っ込んで無事で済むはずがない。

そう思われるように振舞っていたからこそ、俺は今ここで動く訳には行かなかった。


その時、突如あの巨大な蜘蛛の魔物が雄叫びのような声を上げると今まで微動だにしていなかった魔物達が動き始めた。

グレッグさん達を取り囲むように魔物達が移動し始め、群れの隅で戦って居たはずのグレッグさん達は何時の間にか群れの中央に居た。


「まずい、逃げ道を防がれた!おい、教会に向かった連中はまだか!?」

「まだです!」


近くにいた騎士にギルドマスターが怒鳴るように言う。


「早くしろと伝えろ!もうヴェレーノが子蜘蛛を吐き出す頃だ、このままだと間に合わん!」

「子蜘蛛?」


ギルドマスターの口から出た子蜘蛛という単語に椿が反応する。


「あぁ、ヴェレーノは戦闘に入ると一定の間隔で子蜘蛛を生み出す。子蜘蛛と言ってもヴェレーノと比べてであって体長は2メートルもある。どちらも毒を持っているんだがそれぞれ種類が違う。子蜘蛛は通常の毒、ヴェレーノはそれよりも強力な猛毒というバッドステータスを与えてくる」


基本的なバッドステータスについてはグレッグさん達から教えて貰っていた。

確か毒はHPの3%、猛毒は5%のスリップダメージを与えるんだったか。


「厄介なのがこの毒、上書きされる事無くどちらも共存しちまうって所なんだ」

「つまり合わせてHPの8%を継続的に削られるって事ですか」


なるほど、だからギルドマスターはあの蜘蛛が出現した時真っ先に冒険者に僧侶系に職業変更するよう指示を飛ばしたのか。

最大HPから割合で削られるのではどれだけ防御力が高くても、HPが多くても意味が無い。

しかも8%というのはかなりの割合だ、少しでも油断すればあっと言う間にHPを削り取られてしまう。


このままではグレッグさん達は本当に死んでしまうかもしれない。

俺の脳裏にそんな言葉が過ったのと同時に、椿が俺の裾を今まで以上に強く掴む。


椿も俺と同じ事を考えていたのか、それとも俺の考えを読んでしまったのか、椿は何か訴えかけるような目で俺を見ていた。

しかしそんな目で見つめられようとも、俺がここで動く訳にはいかない。

椿と共に元の世界へ帰る、そう誓ったのだ。

こんな所でステータスの事がバレ、追われる身にでもなってしまえば元の世界に帰る所の話では無くなってしまう。


そんな椿の視線から目を逸らすように顔を下に向けると、椿の胸に抱かれていたシャーロットと目が合う。


「…そうだ、椿ちょっとこっちに!」

「明継さん!?」

「おい明継!?」

「トイレです!!」


ある事を思い付いた俺はギルドマスターの制止の声を振り切り、椿の手を取りながら街の中へと引き返した。









城壁から降りた俺達は人目の付かない建物と建物の間の暗がりに居た。


「椿、パーティから一旦抜けてくれ」

「え?あ、はい」


一瞬キョトンとした表情を浮かべながらも椿は俺の言う通りにパーティから抜ける。

椿がパーティから抜けた事を確認し、俺は椿の胸からシャーロットを抱え上げた。


「良いかシャーロット、俺は今全力を出す事が出来ない状況にある。だから俺の代わりにお前があの魔物を相手にするんだ」

「クゥ!?」

「明継さん!?」


俺の口から出た言葉にシャーロットと椿が驚いた顔をする。


「安心しろ、そのままお前をあの群れの中に放り込むつもりは無い。俺が出来る限りのサポートはしてやる」

「明継さん、それってもしかして」

「勇猛を使う」


勇猛は上昇倍率をパーティメンバーの人数分で割るスキルだ。

だからシャーロットに掛かる倍率を少しでも高めるために椿にはパーティを抜けて貰ったのだ。


「ライザさんのステータス強化を受けたシャーロットを見てグレッグさんは”自分の目で見てもたまにシャーロットの姿が目で追えない時がある”って言ってた。じゃあ勇猛でステータスを強化したシャーロットなら誰にも視認される事無く魔物を相手出来るんじゃないか?」

「確かにそうかもしれませんが、誰にも見えない速度で戦うって事なら明継さんにも出来るのでは?」

「出来るかも知れないが一瞬も足を止めずにそんな高速で動ける自信は俺にはない。それに俺より小柄なシャーロットの方が視認され辛いだろうし、足を止めても魔物の群れの中に隠れる事が出来る。なにより最悪視認されてもアルミラージなんて平原には腐る程居るからな、白を切ればシャーロットだと断定される心配は無いだろ」


俺がそう一息に説明すると俺に抱えられているシャーロットが鳴き声を上げた。


「クゥクゥ!クゥゥゥン!!」

「『何勝手な事言ってるの!私はまだアンタ達を許した訳じゃないんだからね!!』だそうです」

「確かに勝手な事を言ってるのは承知だ。お前を置いていくと決めたのは俺達だし、こんな時だけお前に戦って欲しいなんて都合が良過ぎるってのも分ってる。でもなシャーロット」


シャーロットの頭に手を置きながら俺は続ける。


「俺達の事は許してくれなくて良い、でもグレッグさん達は助けてやってくれないか?」

「クゥゥ…」

「お前も沼地では散々世話になっただろう?。特にジュリアさんやクロエさん、ライザさんにはさ」

「ク、クゥゥン!」

「分かってる、俺達の為なんかじゃないって言うんだろ?それで良いんだ」

「…クゥ」


俺がそう言うと、シャーロットはそれ以上異を唱えるように鳴き声を上げる事は無く、ただ小さくしょうがないと言うように短く鳴いた。

椿の通訳が無くとも、今のシャーロットが何を考えているのか、何を伝えたいのかを俺は不思議と理解する事が出来た。


「制限時間は五分だ。それまでに片を付けて来い」

「クゥゥン!」


同意するように鳴き声を上げるシャーロットの姿に思わず頬を綻ばせながらも俺は勇猛を発動させる。

俺とシャーロットの全身から眩い光が溢れ出し、薄暗かった路地を明るく照らす。


「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」


俺はそう叫びながら壁の外目がけシャーロットをぶん投げる。

シャーロットはまるで流星のように光の尾を伸ばしながら外壁を飛び越え、そのまま平原を飛び越えて地平の彼方へと消えていった。


「あ、やべ」


力加減をミスった。


シャーロットが消えていった方角を眺めやっちまったと考えている俺の背後で椿がプルプルと震えていた。


「な、何してるんですかぁぁぁぁあああ!!」


そんな椿の絶叫が街中に響き渡った。

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