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ステータスチートはロクでもない  作者: 西洋躑躅
第一章:"  "の勇者
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旅立つ前のお話

沼地でグレッグさん達から色々と教えて貰い街にも帰ってから数週間、ついに俺達がこの街を発つ日が来た。


出発前に俺達はギルドマスターの部屋に呼ばれ、そこにはグレッグさん達の姿もあった。


「さて、お前がこの世界に召喚されて一ヶ月ちょっと、聖国の方から最後の勇者が召喚されたとの連絡があった」


聖国とは勇者を使い魔王を狩る事を考案した”ツェラーフ”という国の俗称だ。

昔から魔王の到来を各国に伝え、この魔王狩りを取り仕切っているそうだ。


この手のお話に出てくる教会だとか神様だとかに絡む国や集団は大抵ロクなものではないと相場が決まっている。

出来る限り関わらないよう行動するのが吉だろう。


俺はそんな事を考えながらも、ギルドマスターに俺は質問する。


「最後の勇者って、まだ全員召喚されて居なかったんですか?」

「あぁ、ラビュリュスの連中が先日まで勇者の厳選をやっててな、最後の一人が中々決まらなかったんだ」

「実はまだ厳選するつもりだったらしいんだけど、二カ月前に勇者召喚を終えた国もあったからね。流石にこれ以上は待てないって聖国が圧力をかけたんだ」

「いつまでに勇者を召喚するみたいな決まりは無いんですか?」


椿のその質問にジュリアさんが答える。


「そこら辺の規定は特にないわ。早い時は一週間も経たずに全員揃う時もあるし、遅くなるなら聖国が急かすし」

「むしろ期限があるとそれを利用してギリギリまで厳選を粘る国が絶対出てくるからな。明言はしないんだ」

「なるほど」


その答えに椿が納得した様子を見せると、ギルドマスターが口を開く。


「それでだ、グレッグ達から話は聞いてると思うが召喚された勇者は全員、一度聖国に出向いて顔合わせをする。過去に他の国が勇者を召喚する前に魔王を討伐しちまった勇者が居たからな、抜け駆けは出来ないよう全ての勇者が召喚されるまでは魔王狩り禁止、自国領土から出る事も禁止になったんだ」

「聖国へ招集されたら自国領土からは出られるようになるけどね。ただ魔王狩りは相変わらず禁止だから、聖国に向かいつつ他の勇者よりも優位に立てるよう動いて行かなきゃいけない」

「何かする事があるんですか?」


俺がそう質問するとエメリアさんが答えてくれた。


「えぇ、聖国に勇者を全員集めるのは顔合わせと勇者同士でパーティを組ませる為なの。でも聖国に着いてから仲間にするんじゃ遅いわ」

「大抵の場合は二大国の勇者達が目ぼしい他国の勇者を仲間にしてるからな。他国の勇者も大国が厳選して召喚した優秀な勇者と組みたがるしな」

「私達みたいな弱小国じゃ向こうから声を掛けてくる事なんて殆どないしね。大国が声を掛けるよりも先に他の勇者を仲間にしに行かないと余り物で組まされる羽目になるわ」

「先に声を掛けるって、具体的にどうするんです?」

「聖国に向かう途中二つの国を経由する事になる。そこでその二つの国の勇者を見つけて声を掛けるんだ。優秀な奴ならその場で仲間にしろ」

「見つけて仲間にしろって、そう簡単に見つかる物何ですか?。そもそも俺が旅立つのと同時に他の国の勇者だって聖国に向かってるんじゃ」


俺がそんな疑問を口にすると、ギルドマスターが首を左右に振って否定する。


「いや、その二国の勇者はまだ旅立たない。特に二つ目の国に関してはまず間違いなく動かん」

「何故そう言い切れるんです?」

「簡単だ、聖国は魔物の少なく人の住み易い土地なんだが、冒険者目線から言うとレベル上げのし辛い土地なんだ。早い段階で聖国に着いちまうと他の勇者が来るまで魔物を狩ってレベルを上げる事も出来やしない。だから基本的に聖国から遠い国以外は出発を後らせて自国内で勇者のレベル上げをしてるって訳だ」

「しかもさっきギルドマスターが言ってた二つ目の国ってのは一番最後に勇者を召喚したラビュリュスなんだよ」

「ラビュリュスは勇者のレベル上げに最も適してる。うちらも良く利用するし、ラビュリュスの勇者もギリギリまでレベル上げするはず」


なるほど、とりあえずギルドマスターやグレッグさん達の説明で俺達が何をすべきかは見えてきた。

しかし俺と椿の秘密の事もあるので無闇に仲間を増やしたくは無いのだが、さてどうしたものか。


そんな俺の考えを他所に話は進んで行く。


「まぁ俺が今のお前達に話せるのはこんな所か。お前らはまだ何か言っとく事あるか?」

「後はそうだな、他国に着いたらまずは情報収集だ。勇者ってのは良くも悪くも注目されてるからな、調べてみたらアッサリ居場所が分かったりする事も多い」

「情報を集めるなら首都を目指すのが確実だけど、首都に限らず小さな村なんかでも情報収取は小まめにやる事をお勧めするよ」

「たまに首都から離れた場所で黙々とレベル上げしてる時があるからね。首都に着いてから調べたら勇者を通り過ぎていたなんて事も良くあるし」

「それと他国の勇者と出会った時は、必ず心を強く持つんですよー」

「例え性悪でも、優秀なら仲間にする。選り好みしてたら大国には勝てない」


勇者の性格が悪い前提で話されてるのはグレッグさん達の経験則何だろうか。

正直秘密云々関係なしに仲間にしたく無くなってきたんだが。


「あのーさっきから気になってたんですけど、良いですか?」


椿が手を上げながらそう言うと、ギルドマスターが反応する。


「どうした?」

「いえ、さっきから大国と張り合う前提で話が進んでましたけど、私達が大国の勇者と組むんじゃ駄目なんですか?」


確かに椿の言う通りだ。

優秀な勇者を仲間にするというのなら大国の勇者と組むのが安牌のはず。

なのにこれまでの話では大国の勇者と対立するような形になっていた。


「それはだな、大国の勇者と組んだ場合確実にその勇者に下に付かされるからだ。魔王を討伐した勇者を召喚した国は外交で有利になるってのは知ってるよな?。パーティで魔王を討伐した場合、パーティ内の序列によって同じく魔王を討伐した勇者を召喚した国でも扱いが大きく変わる」

「魔王を討伐出来なかった国よりはマシだけど、大国以下の扱いは受けるわ」

「しかも大国と組んで魔王を討伐出来なかった場合なんかは最悪だ。次の魔王が現れるまでは殆ど発言権が無いと言っても良い」


なるほど、ただ優秀な勇者と仲間になれば良いという訳では無いらしい。

つまりギルドマスター達が俺に求めてるのは俺自身で仲間を集めて魔王を倒すことで、魔王を討伐したパーティのリーダーという立ち位置にいて欲しい訳だ。


「明継、俺達はお前に期待してるんだ。お前ならきっと魔王を討伐出来る、そう信じたからこそ二大国と対立する前提で話したんだ」


皆の熱の籠った視線が俺に注がれ、何とも居た堪れない気持ちになったが、俺は部屋の中に居る全員の顔を一人一人確認し、口を開いた。


「正直期待に応えられるかは分かりませんが、やれるだけやってみます」


そう俺の口からでた言葉は紛れもない本心だった。

元の世界に無事に還る、それが最優先な事には変わりないが、この世界に来てお世話になった人達のためにも最低限の恩を返したいと思っていた。


俺がそう告げると背後からグレッグさんが俺の背中を叩いた。


「おう!期待してるぜ!」

「えぇ、期待しといてください」


激励の言葉を受け、さていよいよ話す事が無くなった時、誰かに急かされた訳では無いが俺と椿が立ち上がると、グレッグさん達が少し寂しそうな顔をする。


「不思議なもんだな。普段ならやっと解放されたって思う所なのに、勇者が旅立つ事を寂しく思う日が来るなんて思いもしなかったぜ」

「本当にね、僕も勇者を送り出す日が来た時なんて毎回”よっしゃ、さっさとどっか行けこの野郎”とか心の中で叫んでたくらいなのに」

「わたしは勇者が恥を晒す前にこの剣で息の根を止めてやろうかと何度考えた事か」

「私は毎回笑顔で見送りながら神に”彼者に災い在れ”と祈りを捧げていましたー」

「うちは毎晩呪いの藁人形がハリネズミみたいになるまで杭を打ち続けてた」


この人達は勇者に対して恨みを持ちすぎではなかろうか。

過去の勇者の事を語っている時のグレッグさん達の様子を見てると、その内魔王狩りではなく勇者狩りを始めるのではと心配になる時がある。


「さて、雑談はここまでにしとけ。このまま話してると何時まで経っても明継が旅立てやしない」

「うっせーな、分かってるよ」


ギルドマスターの言葉にグレッグさんはそう返すと、俺達に向き直り口を開いた。


「口煩いおっさんが急かすからな、そろそろ本当にお別れだ」

「次会う時は魔王を討伐したらになりますかね」

「明継君も言うようになったねー。期待してるよ」

「はい、任せといてください」

「椿、貴女は戦いの筋は良いけどたまにポカをやらかすからね、気を付けるのよ」

「あははは、善処します」

「大丈夫ですよー、椿ちゃんは基本ポンコツですけどいざという時はマシになりますからー」

「クロエさん、それフォローになってないです」

「椿は隙が多いから色々と心配、だからこれ特別製の藁人形、もし不埒な輩に襲われそうになったらこの藁人形の局部についてる棒をへし折ると――」

「折角ですけどその藁人形はビジュアル的にNGなので遠慮させてください…」


そんな感じで皆と一通りの別れの挨拶を済ませ、いよいよ旅立とうとする俺達にエメリアさんが声を掛けてくる。


「貴方達の事だからそんなに心配は要らないかしらね。むしろ心配してるのは貴方達の方かしら」


そう言ったエメリアさんの視線は執務室の隅に向けられており、その場に居た全員の視線がそこに集まる。

そこには壁と向き合いこちらに背を向けた白い毛玉の姿があった。


「シャーロット、明継が旅立とうとしてんだ。機嫌を直せとまでは言わねぇけどせめて顔くらい見てやれよ」

「クゥ!!クゥクゥ!!」


グレッグさんがそう声を掛けるもシャーロット相変わらず壁に向かい合ったままでこちらを見ようともしない。

シャーロットを置いていくと決めたあの日以降、シャーロットは俺達に抗議するように狩りにも付き合わず、顔も合わせてくれなくなった。

今日までずっと納得してくれるよう俺と椿で説得を試みたのだが、結果は御覧の通りだ。


「シャロちゃん…」


そんなシャーロットを椿が何処か悲し気な表情で見つめていると、突然地響きと共に地面が大きく揺れ出した。

突然の揺れに全員が立っていられず、その場に身を屈める。


「地震!?」

「いや違う、この揺れ方は!」


地震かと叫んだ俺の言葉にギルドマスターが即座に否定する。


揺れは三十秒程度で収まり、鳴り響いていた地響きが聞こえなくなった事で執務室の中は静寂に包まれていた。

そんな静寂をぶち破るかのように執務室の扉が乱暴に開け放たれ一人のギルド職員が部屋に入ってきた。


「ギルドマスター!大変です、街の外に!!」

「ッチ、やっぱりラビュリュスのアホ共か!!アイツら前回に引き続き今回もやらかしやがったのか!!」


ギルドマスターはそう吠えるとギルド職員に指示を出していた。

その傍らで何やら事情を察しているのかグレッグさん達が話していた。


「今回は俺らが当たったか。面白れぇやってやろうじゃねぇか」

「グレッグ、非常事態を楽しむんじゃない。しかしラビュリュスの人達も懲りないね」

「正直勇者の厳選をしてるって聞いた時点で嫌な予感はしてたわ」

「規制だけ掛けて間引くのをサボったのでしょうねー」

「あそこの人達はもうちょっとこっちの苦労も考えるべき」


他の人達とは違い一体何が起こったのか状況をまるで把握出来ていない俺達にギルドマスターが向き直って声を掛けてくる。


「明継、悪いがお前達の出発は延期だ。先にやるべき事が出来ちまった」

「一体何があったんですか?。それにやるべきことって」


俺がそう質問するとギルドマスターは疲れたような表情でこう答えた。


「”清掃活動”だ」

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