決行の朝
『スリープモードを解除します。カナト、朝になりました、目を覚まして下さい』
「う、うーん……」
もう朝かーーー。さすがによく眠れたようだ。ベッドの硬さも悪くないし、ご飯も美味しかった。
ギャングの件が終わってコナや子供達のことが落ち着いたらここをしばらくの拠点にするのも良いかもしれないな。
『そうですね。バーディス一家以外にもギャングはいるようですし、チームを一つ壊滅させたくらいではここの宿代は変わらないでしょう』
そうなんだよなぁ、一つ通りを挟んだ向こうがスラムだから安いんだよね……。やっぱり危険の方が大きいかな?
『ワタクシはそうは思いませんよ。ここの女将もボディーガードもなかなかの実力者とみましたがーーー』
へぇ、ボディーガードはともかく、女将の方もか。元冒険者なのかもしれないな。
『カナト、どうやら下の食堂にコナ達が来たようです』
おっと、早速来たか。どうやら彼らも覚悟が決まったみたいだ。
「ラムダ、ホントに上手くいくんだろうね?」
『当然ですーーーカナトがワタクシの予測を超えて臆病でなければ、ですが』
ウグッ…、それってどういう予測をしているのさ?僕の臆病さは人並みだと思うが、それは当然元の世界での話だ。
ラムダの予測を超えている可能性は十分すぎるほどにあるのではないか?
『カナト、あなたはこの世界においてもそこまで臆病とは思いませんよ、ワタクシは』
そ、そうかな?ならいいんだけど…
そんな話をしながら食堂に降りると、テーブルにはコナ、ドノバン、そしてノアールが座っていた。
「ノアール!?もう良くなったんだね!?」
彼らが僕を認識していない可能性を考えて、一応先んじて声をかけておく。
「お、カナトら!ノアール、コイツがおまえを助けた変な奴らぞ」
おいおい、コナの説明は相変わらず雑だな。彼女の適当なものの言い方は、ギャング戦に対する緊張感を和らげてくれる。
「あ、あの……」
ノアールが立ち上がり、手を後ろに回してもじもじしながらも声をかけてきた。
「ん?」
「お、お兄さん…ありがとう、あたしの病気治してくれて」
「まだ、少し症状が残っているみたいだけど、本当に大丈夫なの?」
「ノアールなら大丈夫ら。もう体調は問題ないんらが、白い部分はあと数日は残ってしまうみたいなんら」
『コナはどこかで調べてきたのでしょうか?さすがに動きが早いですね』
なるほど、確かに僕らがこの街に来たときも外から物凄い速さで追い抜いていったっけ。
病気だと思い込んでいたことで、長く苦しむことになったノアールの為に、あの後すぐに行動に移したのだろう。
「コナは大丈夫?寝てないんじゃないの?」
「アタチは大丈夫ら。ノームらからな」
理屈はよく分からんが、本人がそういうなら大丈夫なのだろう。彼らの保護者的立場であるコナにはもう一踏ん張りしてもらう必要がある。
「じゃあ、作戦の概要だけど……」
僕はラムダに補足してもらいながら、コナ達にギャング掃討作戦の概要を説明した。
「こっちよりカナトの方が心配らな…、ホントに1人でバーディス一家を相手にするつもりなのらか?」
「まあね。でも大丈夫、知っての通り僕はとても認識されにくいから、制圧するだけならなんとかなると思う」
もちろん、ラムダのスキルと充電のメドがあるからなのだが、そこはまだ秘密にしておきたい。コナを信用していないということではないが、噂というのは思いがけずに広がるものだからだ。
『賢明な考えです』
「あとはタイミングだと思う。これが一番重要だからね」
結局はこれなのだ。
コナ達がギルドに報告すれば、間違いなくスラムに調査が入るとは思う。
さすがにこの規模の街で、子供達の訴えを無視するギルドはないだろう。
ただ、逆に忙しすぎて調査を先延ばしにする可能性は大いにある。
「窃盗の証拠がないんら……それがあればすぐにでも動いてくれると思うんらが」
「証拠か……」
僕も考え込んでしまう。
バーディス一家が《妖精の涙》を売り払った証拠があれば、商人ギルドは面目を保つために動くはずだ。
『そこは子供達を上手く利用する以外にありません。カナトは嫌がるかもしれませんが』
そうだなぁ、それはちょっと嫌かも……。ただそう言っていられないのも事実だしーーー
「……隠れ家にいる全員でギルドに押しかけて、ちょっとした騒ぎを起こしてもらうことは出来そうかな?」
「全員でらか!?……そ、それはさすがに怪しまれそうらな」
『カナト、ここは出し惜しみしても仕方ありません、《静寂》、《隠密》のスキルを使いましょう』
《隠密》!?そんなのもあるんかいっ!まあ僕には必要な場面が無かった気もするが。
しかし、ホントにラムダはいくつのスキルを持っているのだろう。
でも、それならーーー
「大丈夫、僕に任せてよ」
「ま、任せるって……わ、分かったら。なんらかカナトにはまだまだ秘密がありそうらな」
「へへ、そういうこと」
「それでもギルドがすぐに動くかは賭けになるらぞ、それでもいいんらか?」
「だから一つ、これだけは絶対に伝えてほしいーーー、盗まれた妖精の涙はすでに売られている、だから商人ギルドに確認してほしいって」
「そ、そうらな!それなら盗品を扱いたくない商人連中は必ず味方になるら!!」
コナ達が席を立つ。
「そういうことなら、一旦隠れ家に戻るら!」
僕も立ち上がった。
――さて、バーディス一家には、少しだけ痛い目を見てもらうとしますか。
『カナト、随分と強気になりましたね』
「……ま、言うだけならタダだからね」
「ん?なんか言ったらか?」
「いや、なんでもない、さあ行こうか!」
派手な大立ち回りなんて僕にはできないけれど、やるべきことは決まっている。僕なりのやり方で、バーディス一家を潰す――静かなる潜入戦の開始だ。
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