EP 108 瞳に光る
いくつかの宇宙船の隙間から、終焉が覗いている。
その力強い眼差しが、その胸をひどく切り裂く。
『離れないで』
小さな声が大きく、耳元でささやいた。
胸をつぶした。
血を噴出した俺はその場に倒れる。
『私を愛して』
知らないようで。ただただ忘れていただけの声。
俺が殺した。“すべて”の声。
かつて生きていた——
かつて幸せだった——
そのすべて。
「和人! 大丈夫?! ねえ!」
せき込みながらかろうじて残る地面を殴った。
背中をさするユズの手に、温もりを感じない。
クレリアは宇宙船に助けを求める。レシオは逃げ切り、どうやらレシオとの交信のようだ。
星屑に陰る終焉。
そのおかげで、苦しみは停滞した。
「クレリア。……早く逃げないと……」
終焉だけじゃない強大な力を感じる。
逃げなければ魂もろとも吹き飛ぶと、俺の第六感が云っている。
地面にひびが広がる。
そんななか、一筋の光が目の前を過ぎ去る。
青白い光。ただ、そのほとんどは白かった。
その筋は遠くへ飛び、上へ高く昇ってまた戻ってくる。
人なのか別の何かか。わからないが、強大な魔力を感じる。
少し長く見つめていて気付いた、この眩い光は若干点滅している。
まるで何かを伝えるように、不安で、恐怖で、哀しみであふれたような、そんな光。
また星屑から顔を出す終焉に、光の道筋がハイライトのようになる。
まるで、終焉が生きているかのようだ。
遠くの星が移動して、この星系における『太陽』が輝いた。
三つの恒星からなる三連星。
白い光が、その前を通り過ぎて、先ほどどいた惑星を超え、少し奥にある、ひときわ大きく、美しい惑星へと堕ちていく。
何をしたかったのだろう。
「和人様、……いつかは、あの箱舟も終焉に——」
話の途中にタブレットを眺めた。
すべてを記事を読んだのち、終焉を見てから大きなため息を吐いた。
花とは言えど、花として咲くのではなく、あくまで、生存のために咲いた花だ。
……少し時間を空けて、遠くの星を見つめる。その瞳に、ハイライトはなかった。
「——ここは、あの星へ往きましょう。」
目が変わった。
確かに、近い惑星より、遠い惑星へ向かったほうがいいと思う。
あの終焉には他とは違う。
明確に、意思がある。自我がある。
他とは違うんだ。
違うんだ——
今までの終焉とは違う。
それは、おおきさ、性質、見た目、能力とそのすべてに該当し、該当しない要素などない上に、その要素は力を増している。
対処が困難になっているのだ。
それに何より……
「和人。行こう。……大丈夫だよ」
ユズは優しく言う。ユズは俺の感情を理解している。
『逃がさない』
今の声は、皆に聞こえたようだ。
「何今の?」
「今のは……」
タブレットを操作する。その手が早くなった。
演算。というのは、人によって形が違うのか。
「でも、どうやって……」
「リア、できるだけ早くレシオに連絡を」
「……了解」
察したように、少し微笑んだ。
後はここをそのときまで守らなければならない。
「ユズ。後ろに気をつけろ」
「後ろ?」
そういって振り向いた。
ユズは『何もないよ?』と振り向いたとたん、パッと目を見開いた。
重力の弱い宇宙空間に、ユズの長く黒く、さらさらとした髪がなびく。揺れは収まることを知らない。
ほんのり薫るいい匂い。
そんな綺麗で美しくかわいい、この世の神秘ともいえる彼女は、震える手も忘れて、ただひたすらに輝き続ける宇宙へ目を輝かせた。
星のような瞳には気づいていないようだ。
さて、この間にやらないといけないことがある。
あの終焉を、どうにかして”勘違い”させないと。
行けない。あの星の向こうへと往くことは許されない。
往ったところで、どうせ後から追ってくる。
だから、ここで高火力魔法を放ち、俺らが遠い知らぬ場所へ、血迷ったように逃げていったと誤解させるのだ。
ユズの視界はまだ向こう。
手をかざし、遠くへ向ける。
高火力でかつ無作為に、魔法陣はとにかく派手に。
この一発で、生きれるかが変わるのだ。
天も地も、その周期が一定でないように、私たちもまた、不確定のまま廻り続ける。そういう運命なのだ。
蒼く、赤く。虹色の彗星のような光が星屑を横目に通り過ぎる。
直視したら、失明するほどの輝きだ。
箱舟から小さな船がやってくる。
隙を見て、三人を乗せて遠い場所へ逃げていく。
「……これで成功。だといいな」
「そうだね。和人」
「……ま、今は久しぶりに会えたんだし、楽しも!」
そんなレシオの声が、船の中の隅から隅まで響いて消えた。
数時間の長い旅。
これから往くのはただの「帰路」だ。
寄り道をしなくていい。そんな状況であるほど、この世界は甘くはない。
人は生まれながらに平等で、不公平。
そんなことを言えるほど、もう世界は甘くはない。




