第8話 少しだけだが変わった関係性
そうして大体2週間くらいがたった。
…正直に言うとめちゃくちゃ疲れた。
いやここまでする?って疑問に思うくらいにそこらへんのモンスターと戦闘しまくり…疲れてきたな〜って思ったら宿に帰って筋トレ祭り!
なんだろう…でもちょっと筋肉増えて自分がカッコ良くなってきたんだよなぁ…素直にお礼が言えないこの気持ち…。
まあそれは置いておくとして、今日も今日とて僕はレベルを上げるためにモンスターを狩っていたわけなんだけど…
「流石に15Lvともなると雑魚モンスターではレベルが上がらないものね…そろそろ他の方法でも探りましょうか。」
「15ってRPGでもまだまだ弱い方のレベルじゃん。なのにもう上がらなくなってきたって…もしかして僕のレベル上限壊れてたりしない?」
「いいえ、この世界では最初のレベル上限が30なの。だから15だとしても…そうね、普通のゲームに例えるなら60とかそれくらいじゃないかしら。」
「えぇ?!まじか…いやてっきりまだまだレベル上がるもんだと思ってたからなぁ…ちょっとびっくりした。……ん?今最初のレベル上限って言った?」
「えぇ、言ったわ。正教会と呼ばれる場所でレベル上限の解放が2回程度行えるのよ。」
「うわぁーまさにファンタジーだな。やっぱり神様とか信仰してたりするんだ。」
「…夢を見てるところ悪いけど、正教会はあまりいいところじゃないわよ。」
「え?でも教会って言うと復活させてくれたり毒とか状態異常を回復してくれる場所だろ?今後お世話になる可能性だってあるし…それに、やっぱ教会といえば美人なシスターが」
「鼻の下伸ばして変態みたいね。それに、正教会なんて言っても老い先短い偏屈老人しかあそこにはいないわ。」
「嘘だろ…夢が一ミリたりともねぇじゃん…。」
「若者は基本的に教会の神父やシスターにならないわよ。清廉潔白でいなさいとか、贅沢な暮らしはするなとか言われるもの。それこそ夢を追いかけて冒険者ギルドに入ったりする。一般人でも才能が開花すると特殊なスキルとか魔法とかを覚える事ができるからね。」
「教会ってのもめんどくさいのかぁ、寄付金とかで楽して暮らせそうとか思ってたんだけど、質素な生活をしなきゃいけないのは嫌だな。」
「…意外とクズ思想の持ち主ね。まあ男子校生なんてこんなものか…。」
いやそんなこと言われても、楽して生きてきたいって気持ちは誰にだってあると思うし僕よりクズ思考な奴はそれこそ世界中にごまんといると思うなぁ…心外だよ!
なんて軽々しく考えてるが、まあ鏡花にも色々と事情があって今みたいな性格になったわけで、あと単純にどう思うかは人の勝手だ。
「まあそれはいいけどさ、レベルが上がりにくいって言うならもう今日は休まない?連日戦闘づくしでもうヘトヘトで…」
「そうね…確かに筋肉痛になったらしっかりと休まなきゃ、筋肉はつかないって言うし」
「なんで突然筋肉で例えたの?あと筋肉がつく原理ってそう言う事だったんだね、通りで筋トレしまくっても筋肉つかないわけだ。」
「意外ね、筋肉なんて野蛮だとか屁理屈を言って僻みそうな見た目してるのに。」
「何だよ屁理屈言いそうな見た目って!‥‥まって、僕って今までそんな目で見られてたの?!」
「そうね…まあ頼りなくて向上心がなくてクズ思想で、あなた風に言うならそこら辺のモブって感じだなぁ…とは思ってたかも?」
「嘘だろ…今僕のなかの全僕が傷つきました!ちゃんと謝ってください!」
「僕のなかの全僕ってなによ…あはは!」
「あ、笑った。」
僕が彼女に助けてもらってから色々あったけど、水原さんはいつも仏頂面でなんか冷たい人って感じがすごかったけど、こうして笑ってるとこを見ると、案外水原さんも高校生らしいと言うかなんというか、年相応に見える。
普段からよく笑う子だったら、近寄りがたい雰囲気もなくなると思うんだけど…あ、また仏頂面に戻った。
あちゃー、すっごく面白くなさそうな顔してるよ…。
さっきまでの可愛らしい笑顔からは一転、ぶすーっとした表情を浮かべる鏡花は、言われなくても「私、今不機嫌です」と言いたいのが一眼でわかる。
「なに?私が笑ったら何か問題でもあるの?」
「え?!いやいや!普通に笑った顔綺麗だな〜と、か…」
あぁぁぁぁ!!!やばい!こんな言い方だとまるで僕が水原さんの事意識してるみたいに聞こえるかもじゃん!
やばいよ…絶対こんな隠キャに突然綺麗とか言われて、何だこいつとか思われるよ…。
めちゃくちゃネガティブな事を心の中でスラスラと言っている隼人だが、まあ色々と…主にタチの悪いいじめなどを受けてきたせいである。
一応、本人にもひねくれすぎじゃね?とか、いや流石にそこまで思うやつはだいぶ少ないだろ…とか、自覚自体はしてるもののどうしてもそんな考えが浮かぶのは仕方ないこと…と思いたい。
「はぁ…お世辞、どうもありがとう。」
「別にお世辞とかじゃ…」
「…?あからさまな褒め言葉はほぼ全てお世辞でしょう?思ってもいない言葉なら吐かなきゃいいのに…。」
……お、重い…!水原さん過去に何があったんだよって叫びたくなるくらいには闇深案件だよ!
ついつい苦虫を噛み潰したみたいな….まあ簡単に要約すると歯を食いしばって何とも言えない顔をした隼人が、気の利いた言葉も思いつかずにただただ突っ立っているだけである。
そもそもどうしてそんな悲しいことを突然言い出したのか、それ自体が残念ながら隼人にはわからなかったし、何で声をかけるのが正解なのかもわからない。
…とは言え、流石にこのなんとも言えないちょっと居心地の悪い雰囲気のままにしとくのも嫌だなぁ…。
窓枠に片肘をつきながら窓の外を見つめている鏡花は、まるで映画のワンシーンのように美しかったが、その目には何処か憎悪を漂わせているかのような雰囲気が滲み出ていて、ちょっと怖い。
「えーっと…そ、そうだ!訓練の続きしなきゃじゃん?!」
「…そうね、でもあなた今日は疲れてるんでしょう?私も、今はあまり外に出ていたい気分じゃ…」
「やっぱり気が変わった!あ〜、何処かに特訓する場所ないかな〜。」
本当はめちゃめちゃ嫌だけど、とにかく雰囲気変えたいし…ええい!背に腹は変えられん!
ボロボロな体に鞭打ちながら、隼人は目を
キョロキョロと忙しなく動かしながら、わざとっぽい演技で「特訓がしたいな〜!」なんてやけに大声で言う。
そんな僕の姿を見てから、水原さんは一瞬キョトンとした顔をしてたけど、そのあと突然笑顔になって
「ふふふ…全然行きたくなさそうな顔。」
「えぇ…そんな笑う?」
「気づいてないかもしれないけど、あなたすごく嫌そうな顔をしてるのよ。なのに訓練に行きたいなんて言ってるから、おかしくてね。」
「そ、そんな顔してた?!」
「えぇ!それはもう本当に嫌そうな顔を。」
「まじか…て言うか僕最近まじかばっかり言ってる気がするんだけど。」
「そう?」
「そうって言われても…別にまじかって言うたびにカウントしてるわけでもないしわかんないけど…。」
「まあそんな事はどうでもいいけど」
「よくな…!……反射的に否定したけど、別にどうでもいいな…?」
「とにかくやり過ぎはよくないわ。今日はゆっくり休んで、明日やりたい事があるからそれに備えておきましょう。」
「え?!休んでいいの?!」
「別に、まだまだ訓練できると言うならスケジュールを組むけど」
「ゆっくり休ませていただきます!!」
はぁ…さっきは空気を変えるために特訓したいだなんて言ったけど、やっぱり体痛いし休みたいっね思ってたんだよね〜まじでありがたい。
この日、ほんの少しだけだが水原さんと仲良くなれたような、そんな気がした。