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第十九話 チート武器を持って魔王軍の幹部と戦ったらこうなった


 

「お前、お、おり好みのかわいい女の子なんだなっ……ぐちゃぐちゃに溶かして一つになるのが今から楽しみ、なんだな。は、はやく、おりと一つになるおっ!」

「ふにゃーー気持ち悪いにゃ!」

 後ろから見ていてもわかるほど毛を逆立て、嫌悪感を露にするシエラ。

 まぁ確かに気持ち悪いよな……。



「そ、そんなことをいう悪い子にはこうっ!!」

 言い終えると同時に大量の酸を広範囲に噴射するアシッドジェリー。シエラは短剣を構えたままそれにまったく反応できていなかった。



 シエラがいた付近で蒼白い電撃がスパークしたかと思うと、直後に炸裂音とともに硝煙のような濃い煙が辺りに立ち込めはじめた。

「シエラァァァ!!」



 いつものような間抜けな返事は返ってこなかった。

 まさか今ので溶かされちゃった、のか……?

 だとしたらあまりにもあっけない幕切れだ。

 俺を助けに来るまでは確かにかっこよかったよ。でも、なぜ助けに来た? 戦闘に自信なんかないだろうに、どうして俺を助けに来たんだよ……

 


 短い付き合いではあるが、中身の濃いシエラとの思い出が頭の中を駆け巡る。

 世間から見たらほとんどがどうしようもない思い出かもしれないが、俺にとってはかけがえのないものばかり。

 それを今、失ってしまったかも知れないのだ……

 


 ここにきて認識するあいつの存在の大きさ。ああいう能天気なやつがいたからこそこの異世界で余計なことを考えず心の平穏を保っていられたのだ。

 本当に、どうして俺を助けに来てくれたんだ、お前は……


 

 辺りを覆っていた煙が風で霧散していく。

 するとうっすらと黒い影があって、徐々にそれが人影へと形作られていく。   

 そこにはなんと、短剣を前に構えたままの猫娘がいた。



 どこにも体の損傷は見られない。

 それにちょっとHなラノベでありがちの都合よく服だけ溶けているとかもなく、攻撃を受ける前の服装をしたシエラがそこにいた。

 無事だったのか……よかった、本当によかった……



 と、呆けている場合じゃない。

 シエラの無事が確認できただけで脅威は去っていない。

「シエラしっかりしろ! 戦いの最中だぞ!」

「ふにゃ? にゃー生きているのにゃ?」

「生きているからしっかりしろ!」

 


 周りの惨状を見て、あの状況からどうやってシエラが助かったのか大体想像がついた。

 あいつが持っているグリーンタートルナイフの加護でバリアみたいなものが展開されたのだろうと思う。その証拠にシエラを中心とした半径数m内では変化のない街並みが、そこ以外に目を向けると建造物や植物が酸で溶かされ、すっかり変わり果てていた。



「あっれー? おかしいな。なんで、おりの酸がきかないんだぁ?」

 今のが渾身の一撃だったのか、相当困惑しているようだ。

 まぁ、本来の威力で直撃していたらこちらも無事で済んだわけがないのでそうなるわな。



「そんなよわよわな攻撃、にゃーに通用するわけないにゃ!」

 敵の攻撃が無効だったと気づくと、途端に強気になるその小物っぽさ、嫌いじゃない。



「い、いまのは手加減したん、だな。も、もう一回、くらうんだなっ!」

 広範囲に噴射した先ほどとは違い、今度はシエラという的を目掛け、一点集中した酸での攻撃。

 すると今度も先ほどをなぞるように青白い明滅と炸裂音のあとに、辺りを覆いつくす濃い煙が発生した。

  

 

 煙が晴れてくるとそこには、体をのけぞらせて偉そうなポーズをとった猫娘。

 もちろん無傷だ。

「にゃーはいつのまにこんなに強くなっていたのにゃ……自分の才能が、おそろしいにゃ……」

 俺はお前のそのどこまでもポジティブな思考がおそろしいよ。


 


「シエラ! やつの攻撃はお前には通用しないってわかったろ? あとはその短剣で止めを刺すだけだ。お前にならできる」

 根拠のない主張。俺も似たようなものか。

「なんかわからないけど、やれそうな気がしてきたにゃ」

 ちょろすぎるぞ、シエラ。



「こっちのほうがなんかしっくりくるにゃ」

 やる気になったシエラは短剣の持ち方を逆手持ちに変える。

 胸部以外は、全体的に体が引き締まっているので短剣を構えているとさまになっていて熟練の冒険者に見えなくもない。

 


「で、どうすればいいにゃ?」

「どうすればって……」

 俺が聞きたいくらいだよ。

 それでも頭をフル回転させ考えてみる。



 そこで浮かんだ、地球で得た知識。

 かわいくないほうのスライム系の倒し方だ。

 こういうのは十中八九、体内に核みたいなのがあってそれを破壊しない限りどんなに傷つけても再生し続けるのが定番だ。定期購読しているラノベでも最近読んだしきっと大丈夫……。

 


 まぁ、まぁね?

 闇雲に攻撃を繰り返すより作法にのっとったほうがうまくいく気がするんだ。

 誰に対してのいい訳かはわからないが、他にいい案があるわけでもない。

 グリーンタートルナイフで防御は完璧なのだから、無茶もできるし色々試してみてもいいよね。



「体内に核みたいな異質なものがあるはず。そこが弱点で間違いない。見当たらないか?」

「ん~~~~。なんかあそこに丸い黒点があるにゃ。あれが弱点なのかにゃ?」

 あ、やっぱりあるんだ。

 シエラが指差すところを見てもまったく視認できないけど。

 視力いいなお前。



「ほかにそういったものがなければそれで間違いない。短剣でそこ突いてやれ」

「了解にゃ!」

 元は安価な素材で作られた武器だが、鍛冶スキル999の俺が丹精こめて作った短剣は想定外のスキル値で作られたことにより、玄武の加護を得たグリーンタートルナイフという強力なチート武器になっている。

 


 守るほうに偏りすぎたスキル構成が難点だが、そのおかげでシエラは溶かされず、勝機も失わずにすんでいる。 



「ちゃっちゃっと片付けるかにゃ」

 なにそのセリフ、かっこいい……。

 シエラが攻撃の意思を見せると、青白い半透明な球体の膜がシエラを優しく包み込んだ。

 俺はそれを勝手に『玄武フィールド(仮)』と命名。

 


 『玄武フィールド(仮)』を展開した、シエラは「んにゃーー」と叫びながらアシッドジェリーに突っ込んでいき、腰の入っていない斬撃を繰り返し相手の急所だと思われる核を狙う。

 アシッドジェリーはそれに抵抗し、闇雲に酸を飛ばし続けてくるが、『玄武フィールド(仮)』に阻まれダメージを与えることができない。



「溶けろ、溶けろ、溶けろぉぉぉぉ!!」

 効かないとわかっていてもヤケクソな感じで酸を飛ばし続けるアシッドジェリー。

「ふにゃにゃにゃにゃにゃーーーー!!」

 一方、無尽蔵なスタミナで突きを繰り返し、核を狙い続けるシエラの攻撃は相手のゼリー状の膜に阻まれ続けている。





 泥仕合、なのでは?





 シエラ、お前がその短剣を持ち続けている限り無敵だ。

 だけど、勝敗が決しそうな気配が微塵も感じられないのはなんでだ。 



「あともう少しにゃのに…………食事の途中だったから力が入らないにゃ」

「俺の分も勝手に食っていただろうが! っていてぇ」

 あんまり大声でツッコませないでくれ。負傷したわき腹がやばい。



 お互い決め手を欠くから見えてきてしまったセイント○イヤの千日戦争と呼ばれる膠着状態。

 それだけは簡便。

 てか、王国軍の人たちいい加減助けにきてくれませんかね??



「アキラ、工房に戻ってお肉か何か持ってきてくれにゃい?」

 いや、立って歩けそうにないんだが……と言い返してやりたいがなんだかんだ言ってこいつは俺のために命を張ってくれている。その行為に俺も報いなきゃならんな。

 


 立って歩けないなら、転がるのみ。

 俺はマクシミリアン工房と体を平行にし、両手両足を伸ばして転がって行っ――

 その瞬間、バシュっと酸が進行方向に飛んできた。

 うお、あぶね!

 シューと地面が抉れていく様を見て、肝を冷やす。



 ずっとお前に守られていたんだな、ありがとうシエラ……

「アキラ、チョロチョロしにゃいで! 気が散るにゃ!」

 前言撤回。

「だったら俺はどうしたらいいんだよ」



「にゃーを甘やかしてほしいにゃ!」

「へ?」

「にゃーは里で甘やかされて育ってきたにゃ、だから甘やかされれば甘やかされるほど力を発揮するにゃ!」

「はぁ……で、どうしろと」



「例えば、これに勝てたらいっぱいごほうびが欲しいにゃ」

「わかったよ。この戦いに勝ったら何でもいうことを聞く。だから、そいつを倒してくれ」

「ん? 今にゃんでもって言ったにゃ?」

 なんでお前はこのテンプレなやり取りを知っているんだ。

 まぁいい。ツッコミをいれている場合ではない。



「何でもとはいっても、俺が実現できる範囲内だぞ」

「いきなり期待値が下がったにゃ…」

「悪かったな」

「そうにゃね~。とりあえず、にゃーは常々ご飯足りないんじゃないかにゃーと思っていたにゃ。にゃー育ち盛りだし?」

「それで?」

 


 話だけは一応聞いてやる。

「でも、サーニャさんに世話になっているにゃーがそれを言ったら、角が立つにゃ」 

「だろうな」

「で、にゃーはすべてを解決する答えを導き出したにゃ」

「それは?」



「アキラがにゃーに、毎食おかずを献上すればいいのではと……」

 モウソレデイイヨ。 

 俺を命がけで守ってくれている勇気と優しさを持った猫娘。

 呆れるほど食い意地のはった猫娘。 

 


 これが同一人物ってすごくない?

 考えるのも面倒くさくなって来た俺はその提案に乗った。

「わかったよ。お前の好きなだけ食っていいぞ」

「ふにゃ!!」




===============


 システムメッセージ

 エピックウェポンクラス:グリーンタートルナイフの『まっしぐらIV』の効果が発動。



 シエラにSTR+10の効果

 シエラにDEX+10の効果

 シエラにLUC+10の効果




 「にゃんだか知らないけど、力が湧き出てくるにゃ! これがにゃーの本当の実力!?」

 ええぇ………………

 色々言いたいことはあるが、まっしぐらIVの発動条件がわからないので下手なことはいえなかった。  




「アキラ! もっと! もっとにゃ! もっとにゃーを甘やかすにゃ!」

 王国軍はこんな騒ぎになっているというのにいっこうに現れないし、いま頼れるのはこいつしかない。

 甘やかさせるだけ甘やかして見るか。

「一週間分のおかずをお前にやる!」



===============


 システムメッセージ

 エピックウェポンクラス:グリーンタートルナイフの『まっしぐらIV』の効果が発動。



 シエラにSTR+10の効果

 シエラにDEX+10の効果

 シエラにLUC+10の効果




「もっと景気よくいってくれれば、どこまでも強くなれそうな気がするにゃ!」

 底なしの欲望に呆れながらも、なんだかんだいって孤軍奮闘してくれているシエラのために最高の一言を送ってやった。

「これで最後だ。一生分のおかずをお前にくれてやる!」

 


 目をキラキラ輝かせながらこちらを振り返ったシエラは親指をぐっとあげうれしそうに

「それを待っていたにゃ!」

 と高らかに叫んだ。



===============


 システムメッセージ

 エピックウェポンクラス:グリーンタートルナイフの『まっしぐらIV』の効果が発動。

 エピックウェポンクラス:グリーンタートルナイフの『まっしぐらIV』の効果が発動。

 エピックウェポンクラス:グリーンタートルナイフの『まっしぐらIV』の効果が発動。

 エピックウェポンクラス:グリーンタートルナイフの『まっしぐらIV』の効果が発動。

 エピックウェポンクラス:グリーンタートルナイフの『まっしぐらIV』の効果が発動。



 シエラにSTR+50の効果

 シエラにDEX+50の効果

 シエラにLUC+50の効果



 バフもりもり。

 歴戦の冒険者達が命がけで手に入れる実力を、おかず一つで手に入れたシエラ。

 まっとうな冒険者は切れていいよ。いや、切れるべき




「シエラァァ……アトミックゥゥゥ……インパクトォォォォ!!」

 気持ちよさそうに技名を叫んじゃっているが、バフ乗りまくって威力の増した高速突きである。

 寒気もするクソダサな技名だが威力は申し分なかった。



 阻まれ続けたゼリー状の膜を一撃でぶち破ると、『玄武フィールド(仮)』を展開させたままアシッドジェリーの体内に侵入し、ある一点に向けて短剣を突き刺した。



 ゴボゴボと大小さまざまな気泡が発生し、それがゼリー状の体内を駆け巡る。

 一瞬間をおいて透過度の高かったアシッドジェリーの体内の液体が一気に赤く染まると、そこからぴくりとも動かない。

 絶命と表現したくなるアシッドジェリーの変容だった。

 





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