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魔女は逃げ出した

「つまりはボクの力が認められたって事だよね!」


 魔女会から数日。

 なんとなく魔女界での出来事を思い出したメルセデスはちょっと図に乗っていた。


 基本的には自分に自信がないメルセデスだがベロニクという自身より成績が優秀な魔女を記憶が曖昧ながらも引き分けたというのが調子に乗る原因だった。


「はぁ」


 そんな調子にのるメルセデスを食人植物に水をやりながら見ていたアィヴィは呆れたかのように深々とため息をついた。


「マスター、今のマスターは魔女のランクが上がったとはいえ銅。つまりは見習いの一つ上です。アィヴィの今までのマスターとの経験から言わせて貰うのであれば、どうせロクなことになりません」

「ふふん、銅ランクからは言わば一人前の魔女! 一人前の魔女になったボクなら楽勝だよ!」

『ふふーん』

『ふふー』


 メルセデスと同じように周囲の精霊たちも調子に乗っていた。いや、精霊たちはメルセデスの真似をしているだけなのだが。


「一人前の魔女になったボクに出来ないことはないんだよ!」

「その言葉、自分の首を締めることになりますよ?」


 アィヴィの呟きは上機嫌なメルセデスには全く聞こえていなかった。


『話は聞かせてもらったわ!めーちゃん』

「え……」


 突然聞こえた声にメルセデスは驚いたような声を上げる。

 同時にアィヴィはメルセデスから距離を取った。

 まるで自分が巻き込まれないようにするかのように。


「その声は師匠⁉︎」

『そうよ〜 あなたの師匠のアリプルプスよ』


 驚くメルセデスの前に現れた、いや、飛んでいる(・・・・・)のは羽が生え、口のついた便箋であった。


 羽根をパタパタと動かしながらメルセデスの前を飛ぶ便箋の口からアリプルプスの声が聞こえてきていたのだ。


『めーちゃんがそんなにやる気を見せてくれて師匠である私も嬉しいわぁ』

「え、いや、その……」


 アリプルプスの楽しそうな声。

 それを耳にした瞬間、メルセデスのテンションは天井から一気に地に落ちた。


『めーちゃんのやる気がある時に渡そうと思っていた爆発の魔女に相応しい依頼を……』

「てぇい!」


 便箋が口を動かしている途中にも関わらずメルセデスはベルトに吊るしていたフラスコを引き抜き便箋に向けて放り投げた。


 爆裂ポーションで満たされていたフラスコは寸分も狂うことなく便箋へとぶつかり、一瞬にして便箋をただの燃え滓へと変えた。


「マスター」

「アィヴィ、知ってたの?」

「魔女界から帰った次の日に届きましたので」

「なんで教えてくれなかったの⁉︎」

「テーブルの上に置いて置いたはずですが?」


 淡々と返答してくるアィヴィにメルセデスはグヌヌヌと唸る。


「だから言ったのです」

「よし、逃げよう!」

「は?」

『は!』

『はー』


 メルセデスの発言にアィヴィは驚き、精霊たちは楽しそうに真似る。


「だってほら! ボクまだ爆裂ポーションしか作れないし! まだ一人前は早いと思うんだ!」


 先ほどまでの自信がどこに行ったと聞きたくなるほどの心変わりだった。


「よし、見聞を広めるために旅に出よう! 旅に出たら師匠も追って来れないよね!」

「見聞を広めるとか言いつつ完全に逃げる気じゃないですか」


 部屋の物を片っ端からアイテムボックスに放り込み始めたメルセデスを見てアィヴィはまたもため息をついた。


『ぽいぽい』

『よいしょよいしょ』


 そして周りの精霊たちはというとメルセデスが荷物を放り込むのを見て新しい遊びだと勘違いしたのか荷物ではなく落ちているゴミを拾ってはメルセデスのアイテムボックスへと投げ入れていた。


「今逃げたら絶対にベロニクにも気づかれないよね。あいつ絶対再戦しようとしてきそうだもん」

「マスターの慧眼には素晴らしいものを感じます。すぐに逃げましょう」


 アィヴィとしてはせっかく綺麗にした工房を投げ出すのは嫌なのだが自分に執着してくるベロニクの危機から逃れられるなら両手を上げて賛成するようだ。


 判断してからのアィヴィの動きは早い。必要なものを鞄に詰め背負いあっという間に荷物をまとめる。


「どちらに行くのですか?」


 一応は工房に鍵を掛けながらアィヴィはメルセデスへと問いかける。


『どこいく?』

『どこー?』


 アィヴィと精霊たちがメルセデスへと視線を向けていた。

 メルセデスは新しい三角帽子と新しい紅いローブを羽織り笑う。


「全然考えてないからとりあえず森を抜けようかな!」


 そう柔らかに笑いながら杖を取り出し腰を掛ける。メルセデスが腰をかけた杖の後ろにアィヴィは同じように腰掛けた。


「じゃ、逃亡開始ー」

『かいしー』

『おー』


 逃げようとしているとは思えないほどに軽い様子でメルセデスと精霊は掛け声を上げて空へと飛び出したのだった。






 そうして魔女とゴーレムは旅に出た。


 その数週間後、とある国が爆発で消えたとか魔王城が爆散したとか、勇者が爆死したという出来事が起こるのだがそれに魔女メルセデスが関与しているかどうかは多分、誰も知らないのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


また新しいのを書いた時に読んで頂ければ幸いです。

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