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なんか、どんどん怖い事になっていっています。

実験的に、ポップな?タイトルにしています。

ご了承ください。

 三名が廃病院から帰った四日後、日向の友人である麻希が行方不明になった。その後、日向は不登校になってしまい、葵は彼女の事が気掛かりになったが、自分の力量を考えて放置する事にした。

 自分には、霊感がある。

 しかし、比呂のような所謂“あちらの世界”で生きていけるような力は無い。比呂は修行次第だと言っているが、葵は普通のカタギの世界で生きる事を望んでいた。

 家に帰れば、部屋の中に相変わらず、幽霊少女、琴葉がいる。彼女は何かを言いたげだったが、殆ど言葉を発する事は無い。主に表情や仕草によって、葵に意思を伝えてくる。


 事態が一変したのは、10月に入ってからの事だった。

 最初、発見されたのは、円藤タツルだった。

 彼は住んでいるマンションの近くの樹木で、首吊り死体で発見されていた。死後、数週間が経過していた。

 その二日後、タツルの兄であるヨシカズは、マンション付近にあるポリバケツの中で、生首で見つかった。やはり、死後、数週間が経過していた。

 その事実を知って、不登校だった日向が学校に赴き、葵に泣き付いてきた。

「ねえ、冬咲君っ! 私、殺されてしまうっ! 怖い、怖いのっ!」

 一限目が終わった休み時間の事だった。

「俺にはどうする事も出来ませんよ」

「いくじなしっ! 貴方が私の事、好きだって事、知ってるんだからっ!」

 日向は泣きながら、叫んでいた。

 そして、彼女は葵の胸にうずくまる。制服に彼女の涙が付いていく。

 思わず、葵は顔が真っ赤になる。

「次の授業……。体育じゃないですか……。バレーなんですよね。俺、球技苦手なんで、休むんで……、屋上で話しませんか?」



 屋上で、二人は青空を見上げていた。

 葵の知る限り、幽霊がこれほど物理的に現実世界に働きかける事実は知らない。比呂なら、あの寺の道楽息子だったら知っているかもしれない。

 校舎内にある自販機から、コーラとレモンティーを二つずつ買って、二種類の飲料水を日向に渡す。

 しばらく、二人は無言だった。

「私…………、タツルと付き合っていたの…………」

「円藤タツルですか……」

「うん…………」

「そう……」

 葵は溜め息を吐く。そして辛辣に言う。

「俺の事、気持ち分かっていましたよね?」

「分かっていたよ。……でも、関係無いじゃない……、冬咲君は私の大切な友達で……」

 葵は、唯一の男友達にメールを送っていた。

 日向は、葵の胸元を抱き締める。

「私には、もう冬咲君しか頼れないのっ! 一緒にいたい、一緒にいたいよっ! 私を……、その、その……守って欲しい…………」

 スマートフォンが振動する。

 葵はメールをチェックする。

<殺し屋の方は、まだ動かせない。先に探偵からなら会わせられる。放課後、いつもの喫茶店に彼女を連れてこいよ>

 そう返信が返ってきた。



 指定された時間は、夕方だった。

 日向は震えていた。

 葵は困惑した顔になっていた。

 喫茶店の前には、ミニバンが止まっていた。

「待ちくたびれていたぜっと。今日はカフェオレ・パフェ食ってた。すまねぇが、探偵さんの事務所、今日はもうすぐ閉めるらしいから、早く来てくれってさ」



 胡乱を絵に描いたような事務所だった。

 そこは三階建ての家で、バルコニーまである。明らかに金を持ってそうな家だ。駐車場には高級車が停まっていた。

 表札には『逆山探偵事務所』と書かれていた。

 玄関のドアは開いている。

 比呂は無造作にドアを開いて、中へと入る。

 日向は無意識のうちに、葵の手を握り締めていた。汗まみれだ。

 今日は、琴葉はいない。

 葵は、この屋敷を一目見て分かった。背筋から悪寒が止まらない。


「こんちわーっす」

 比呂の、サングラスの奥は、満面の笑顔だった。

 屋敷に入ると、中は確かに事務所になっていた。おそらく、一階が仕事場で、二階か三階が、彼の住まいになっているのだろう。まだ若い、一人の男が現れて、三名を客室へと案内する。

 客室には、二つの向かい合ったソファーが置かれていた。ソファーの中央に透明なテーブルが置かれている。若い男は三名にお茶と茶菓子を出していく。

 そして、大きなTVが置かれていた。今は電源が入っておらず、何も映っていない。

「僕は真下、と申します。理念さんの助手をさせて貰っています」

 逆山理念さかやま りねん、それがこの探偵事務所の主だった。

 探偵は、助手に呼ばれて奥の部屋から現れる。

 彼は着崩した背広に、ネクタイの無いワイシャツを付けていた。髪は整髪料をべったりと付けている。

「ヒロ君のご友人だね。私はこういうものです」

 そう言うと、探偵は葵と日向に名刺を渡す。

『心霊探偵・逆山理念 除霊、請け負います』。

 名刺にはそう書かれていた。

 ……胡散臭すぎる。

 日向は面喰っていた。

「怪しすぎるだろっ!」

 ゲラゲラと笑いながら、そう言う金髪に紫のメッシュを入れて、サングラスをかけ、ホストやヴィジュアル系のような派手なTシャツとスーツ、ズボンに身を包む比呂の方が輪を掛けて胡散臭かった。……類共と言う奴だろう。

「まあ、私でよければお話を伺いますよ。出来れば除霊もしてさし上げられるかも」

 逆山は柔和に笑う。


 突如。

 真っ暗だったTVが砂嵐のノイズ映像になり、次々と色々な番組を映し出していく。そして壁に掛けられていた時計もグルグルと回転していた。がしゃん、と、壁に掛けられていたクロード・モネの模造絵が床に落ちる。

 日向は怯えて、葵に抱き付く。

 葵は溜め息を吐く。

「あの、逆山さん。此処って…………、やっぱり……」

「そう、幽霊屋敷だよ。ポルター・ガイストが頻繁に起こっている。特に初めての訪問者は脅かそうとする。取り憑きたい奴もいる。でも安心して。僕が防御を張っているから」

「全員、封じられないんですか?」

「それは難しいな…………、僕が客から買い取った、いわく付きの物品が幾つか物置に置かれていたりするからね」


 しばらくの間、デタラメに番組が切り替わっていたTVが、突如、ある番組へと固定される。どうやら、それはニュース番組だった。

 葵、日向、逆山の三名は、自然とニュースに釘付けになった。比呂は風船ガムを膨らませて、何処吹く風、といった趣だった。

 番組の内容は、ちょうど葵達の通っている学校付近の下水路から女性の死体が見つかった、との事だった。身分を証明する学生証を持っており、名前は“鈴山麻希”という名だとの事だった。それを見て、日向は顔を伏せて泣き続ける。

「ああ、何となく事情は分かってきたよ…………」

 逆山はお茶を口にする。

「何かあったらまた来なさい。その名刺には私の電話番号も書かれているね。なるべくいつでも相談に乗るようにするよ、ただ……」

 彼は少しだけ口ごもる。

「僕が“除霊”出来ないケースもある。その時は申し訳ないけど、断らせて貰っているよ……」

 彼からは少しだけ、頼りなさげな印象を受けた。



 廃病院に行った六人のうち、御子柴拓郎も、不登校になっているらしい。

 日向は学校に来るようになったが、やはりやつれた顔が戻らなかった。以前の友人達も、少し彼女を敬遠しているかのようだ。

 休み時間になると、葵と日向は取りとめのない会話をして過ごす。

 彼女が何者かに狙われている。

 しかも、この世ならざる何かに、だ。


 この学校全体が噂で持ち切りだった。

 日に日に、みなの日向を見る目が変わってきている。


 放課後になると、メールが入る。

<殺し屋の方も会ってくれるらしいぜ。何でも、日向、って女を見たいそうだ。明日の夕方に会ってくれるそうだぜ。俺はいつもの喫茶店で待ってる。>

 寺のゴク潰しの、にやにやとした笑いが頭に浮かんでは消える。

 彼は完全に事態を楽しんでいるみたいだった。


 その夜に、琴葉が、強い視線で何かを言いたげだった。

 ……私も連れていって……。

 そのような言葉が、頭の中に聞こえてきた。殺し屋とかいう者との会談だろう。先程、メールを返したが、比呂いわく“幽霊を殺害出来る者”との事だった。得体が知れない。比呂の人脈は何が何だか分からない……。

 琴葉は霊能探偵、逆山理念と会う時は、これといって干渉しなかった。だが、今回は、彼女は強い不安を覚えているかのようだった。

「分かった、貴方も連れていきます。でも夕方、出歩けるんですか?」

 琴葉は首を縦に振る。




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