心霊スポットに行ってしまったら、ヒロインが取り憑かれてしまったみたいで、怖すぎるんだけど。
サブタイトルは最近のラノベ風の冗談ですw
シリーズは代わりますが、いつも通りの作風かもしれません。
現代日本で、ホラーに挑戦してみようかと。
ひとまず「怪異シリーズ」と名付けておこうかと思います。
話を聞くと、幽霊に取り殺されても仕方が無いなあと思った。
夏の心霊スポット巡りとして、廃病院から帰ってきて、その後に心霊現象が絶えないと言われて、話を持ち込まれて、困惑する羽目になったのは、昨日の放課後の事だった。
冬咲葵は、クラスの同級生の少女に恋をしていた。
彼女の名前は、片倉日向、明るく天真爛漫で、少しだけ天然ボケが入っている少女だ。よく友達のいない葵の面倒を見てくれていた。
一年の頃、馴れ馴れしかったが、二年になってまた同じクラスになっていた頃には、いつしか恋心が芽生えていた。彼女と会話するのは至福の時間だ。
だが、そんな彼女には男友達も多く、よく合コンのような事も行っているらしい。男友達の兄が車を出して、各所を巡っていると聞いて、彼女の所謂“リア充”感と、自身の暗い青春に落差を抱いていた処だ。
「で、何で俺なんかに相談を?」
「だって冬咲君にしか相談出来る相手、いないじゃないっ! もう本当に怖いのっ! 円藤君のお兄さんは行方不明になっちゃうし、由里絵も何処かへ消えちゃったしっ! もう次は私なんじゃないかって心配でっ!」
葵は、興味無さげに溜め息を吐く。
多分、日向は葵が彼女に恋愛感情がある事を知っていて利用している。そんな感じが否めなくて、嫌になる。一年の頃、中学時代と同じように虐められそうになっていた葵を助けてくれたのは彼女だった。そして事あるごとに、所謂、対人関係に問題がある葵を、日向はかばってくれるが、その代わり、宿題の手伝いや掃除当番の代わりなどを要請してくる。まあギブ・アンド・テイクという関係なのかもしれない。
「冬咲君っ! 噂になっているよっ! 貴方、幽霊が見えるんだって」
「…………、知りませんよ、そんな事。馬鹿馬鹿しい」
付き合いきれない……。
彼女に対しては、愛憎といったような複数な感情も抱えている。気ままで自分勝手なのだ。だからよく異性を振り回す。これも悪名高い。
†
二週間程前の事だ。
夏休みも終わろうとしていた頃に、男女六名で心霊スポットの廃病院に向かった。それまでに幾つかの心霊スポット巡りをして、ちょっとした恐怖体験にもあったが、大した事は無かったらしい。それで都内で有名で、更に一番、いわく付きの廃病院に入ろうと彼女達は決めたらしい。
そしてその男女六名のうち、二週間の内に、既に二名が行方不明になっている。
一人は一番年上の21歳の青年。彼は、一週間程前に、バイトの帰りに何処かへと消えた。弟の円藤タツルに謎のメールを残したまま消えたらしい。そして一昨日、日向の友人である由里絵が行方不明になったらしい。そして謎のメールが、日向に届いたのだと。
「ねえ、このままだと私も行方不明になるよっ!」
「分かったよ……。あたってみる…………」
葵は、とても嫌そうな顔で、心の内に複雑な感情を抱えながら帰宅した。
†
二階建ての家だ。
両親は共働きの為に、平日はいつも帰りが遅い。今回は夕食を作る時間が無かったのか、台所のTVの上に千円札が置かれていた。いつものように彼はそれを握り締めて、六畳の部屋へ続く階段を上る。
部屋には古書が入っている本棚と、TVが置かれている。流行りのTVゲーム機も買ってみたが、いまいち好きになれなくて埃をかぶっていた。エレキ・ギターなども買ってみたが、それも置物と化している。唯一、機能しているのはパソコンくらいだろうか。物はそれなりにあるのに、殺伐とした部屋だと自分では思っている。
「琴葉さん、いますか?」
彼はベッドの上に座ると、何も無い空間に向かって訊ねた。
そこには、彼が通っている学校の女生徒の制服とは違う、長袖のセーラー服を纏った黒髪の少女が佇んでいた。彼女の全身は半透明で透けている。時々、完全に生身の人間と変わらないくらいに、透明さは無くなるのだが、基本的には、彼女は葵にしか見えない幽霊だ。
彼女の名前は詩織名琴葉、葵の三歳年上の幼馴染で、いつも姉のように遊んでくれた。中学校の頃、彼女は変死体で見つかった。それ以来、彼女はいつも、葵の隣にいる。憑依している。今年で丁度、同じ年になる。
「同級生からさ、こんな相談を持ち掛けられて…………」
琴葉は基本的には無口だ。
……考えてみれば両手に花だよなあ……。
そんな事を思い浮かんで、現状に失望する。日向にはいつも振り回されているし、琴葉は何を考えているのか、さっぱり分からない。そもそも日向には彼氏がいる事を隠しているかもしれないし、琴葉は葵を憑き殺す為に傍にいるかもしれない。そう考えてくると、暗澹としてきて鬱になる。
葵はスマートフォンを手にする。
そして、中学時代の唯一の友人の名前を押す。
しばらくして、相手は電話に出た。
「なあ文屋、頼んでいいか?」
<比呂って呼べよな。名字で呼ぶなよ。他人行儀だしよお。俺達、親友じゃねえぇかよ>
彼は少しアルコールが入っているのか、ゲラゲラと笑っていた。未成年飲酒が止まらない。彼は不良グループからも浮いていた。一匹狼だった。虐められている葵と、何故か積極的に仲良くなろうとした。コミュ障である葵の暴言なども、笑って流していた。
「琴葉さん、明日の夜、一緒に行って貰えますか?」
葵の隣にいる幽霊少女は静かに首を縦に振る。
†
※グロテスク&メランコリィ・シリーズとは違うものを書いてみようと実験的に書いてみました。
現代日本のホラーです。