(23)
黒い靄を纏わせながら胸に触ってくる。
呪文を唱え始めると、胸を力を入れて掴んできた。
掴まれた痛みの他にチクリとした痛みが走る。
「痛い‼」
「もう少しの辛抱だよ」
更に力を込めて呪文を続けようとした時に、ラスの右腕を何かが掠めていき、腕から血が出た。
「何ぃ!?」
血が出た事により、胸から手が離れる。
「誰だ‼何処にいる!出てこい‼」
「彼女にそれ以上触れないで下さい」
部屋の外から聞き覚えのある声が響いて来た。
「ウィル…?」
ドアから死んだと思われたウィルが姿を現した。
「ウィル‼生きてたのね!」
生きていた。その事が嬉しくて喜んだ。
レイティアの今の状態を見てウィルは痛ましい顔になる。
「スミマセン。何処に居るか分からなくて時間が掛かってしまいました」
自分の上着をレイティアに掛け、胸を隠す。
「どうやって助かった?確かに心臓に刺さったはずだ!」
魔法が刺さり光が飛び散ったはずだと、ラスが言う。
「ああ、アレはポケットに入れていた光魔法の水晶に当たったので、死なずに済みました」
隊長のお陰で助かりましたとウィルが言う。
ただ、魔法の威力が有りすぎて意識を無くしてしまいましたが、と苦笑する。
「でも、そのお陰でイルミオ殿下の呪縛も解けたようです」
ウィルやイルミオ殿下が無事だと知り、安堵から涙がこぼれる。
「何なんだよ!お前らは‼」
邪魔ばっかりしやがって!と、先程流れ出た自身の血に向かい呪文を唱え始める。
「やめろ‼それ以上、呪術を使えば自分の体が持たなくなるぞ‼」
「うるさい!!俺に指図するな!」
血溜まりがブクブクと泡を立てて人の形になっていく。
「これでお前等を殺してやる‼覚悟しろ」
フハッハッハッと笑いながら、殺せと指示する。
しかし、魔物は咆哮し攻撃したのはラスだった。
ラスの首元に噛み付き殺し始めたのだ。
「止めろ‼俺じゃない!!ヤメロ、ギャーーー!!」
呪術を使いすぎて制御が出来なくなったのだろう。
術者を食い殺し、力が増えていく。
ラスが攻撃されている間に、レイティアの拘束を解く。
「今の内に戦闘体制を整えて下さい」
「わかった」
レナードの顔付きに戻っていく。
布が切られてしまったので胸を潰す事が出来なかったが、ウィルの上着を着て胸を隠す。
調度着終わったあたりで、ラスを食い殺した魔物がこちらを向く。
禍禍しさは今までと比べ物にならない程強かった。
「不味いですね。隊長、光魔法は撃てそうですか?」
魔法が使えるようになってるのを確認する。
魔法封じの戒めがとれたので問題無く使えそうだ。
「大丈夫だ。だが使った所で弱体化するだけだろうな」
近くに寄るだけでビリビリと不快感が肌をさす。
「弱体化出来れば上々でしょう。隊長お願いします」
浄化魔法を最大の力で発動させる。
要塞の周りも浄化の光が包んでいき、弱まっていた外の魔物は消滅するか、弱体化していった。
ただ、中にいる魔物は弱体化したが最初の状態に戻っただけで、こちらに牙を剥き威嚇している。
「弱体化してこれか…。ウィル少しだけ時間を稼いでくれ!今度は浄化でなく、攻撃をぶつける‼」
「了解。何処まで出来るかやってみましょう」
ウィルは闇魔法を唱え魔物の視界を奪う。
続けて、影を地面に縫い付け体の自由を制限した状況で剣で切りつけていく。
見事な連続攻撃で魔物を弱らせていった。
動きが鈍くなった所で、レナードが無数の光の矢を魔物目掛けて撃ちまくる。
弱まっていたいた魔物は光の攻撃とウィルの剣戟により、なんとか倒され、血溜まりに戻っていく。
「念のため、血溜まりを浄化してもらえますか?」
残りの魔力で、血溜まりを浄化した所で、誰かが階段を上る足音と小さく隊長ー!と呼ぶ声か、聞こえる。
「ザガート達だ。どうしよう?」
全てあちらが片付いたから応援にきたのだろうが、今の状態を見られるのはあまり良くない。
ウィルの上着を着ているが、胸の膨らみは隠せておらず、バレてしまうと焦る。
何か無いかと探しているレナードの目に、ウィルが首に巻いているタイが目に付いた。
「ウィル、首に巻いているタイを貸して欲しい」
「良いですが、そこまで長く無いですよ?裂けば長さが出来ると思いますが」
ウィルがタイを裂いて長さを作ってくれた。礼を言ってタイを受け取り部屋の隅に移動して巻いていく。
巻き終わった時に、ウィルに見られた事を思い出した。
「そう言えば…、ウィル見たよな?」
「不可抗力です。それに見たとしても、少しだけですよ‼」
鷲掴んでいたのが見えたので短刀を投げましたが、と言われた。
そんな光景まで見られてた事を知り、ラス触られた不快感より恥ずかしさが勝ってしまい、助けてくれたはずのラスを殴る。
「それは見てたとしても言うな‼」
「殴られるのも好きですが、出来れば今回は別な褒美が良いですね」
「うるさい!!」
そんなやり取りをしていると、ザガートやダイカ将軍が部屋まで辿り着いた。
「隊長!無事ですか?」
「イルミオ殿下は発見したが、犯人はどうした?」
部屋に入ってきながら質問をしてくる。
「私たちは無事だ。ただ、ラスは…」
魔物に食われて、血溜まりのみになったラスを見る。
「そうですか、ですが自業自得ですね」
「逆怨みでここまでやったんだ。罰が当たったんだろうな…」
2人も何とも言えない顔で血溜まりを見ている。
「良くこの場所が分かったな?」
「探している時に光が見えたので急いできました。要塞の中は広くて大変でしたよ」
途中で倒れてる者達を回収しなが来たと言う。
「返事をして下れば、直ぐ来れたんですがね」
「悪い…、こちらも色々あったから、返事が出来なかったんだ」
まさか布を巻いていたとは言えず、曖昧に誤魔化す。
「ザガート達はどうなったんだ?」
ザガート達が対峙していた魔物達はどうなったか報告を受ける。
「全て消滅させました。他に呪などが仕掛けられて無いか確認しましたが問題ありませんでした」
「イルミオ殿下や操られていた者達は、まだ目を覚まさないが命には別状無いそうだ」
タナークの問題は解決した。後は王宮がどうなったかだ。
連絡がまだ来ない以上、急ぎ王宮に向かう為に指示を飛ばしていると、王都の方角から砂煙をあげこちらに向かってくる一軍がやって来るのが見えた。
「敵の増援!?まさか陛下達は負けたのか?」
警戒しながら、軍勢を迎え撃つ構えをとった。
警戒しながら待っていると、陛下とルドラ大将軍の声が聞こえた。
「王都は全て片付けた!応援に来たぞ!!」
「陛下危険ですから、さがって下さい!」
先頭切って走る陛下を、ルドラ大将軍や将軍達が追い掛けていた。
警戒を解き、陛下達の元に駆け寄る。
「陛下ご無事で!タナークも解決してます。ただ、操られていたイルミオ殿下達は、まだ目を覚ましてませんが…」
「分かった。報告は落ち着いてから聞こう」
落ち着いて話せる場所をとなったが周りには何も無く、一個小隊に後始末を頼み残りは全軍、城に戻ることになった。




