一味
「ビッグバーガーセットでー、ポテトはLLでー、ドリンクはコーラをLLでー、トリプルチーズバーガーも同じセットでちょうだい。それから単品でナゲット15ピースを5個とー、あとフィッシュフライバーガーと、あ、3種のキノコバーガーもちょうだい」
ハンバーガーショップで、満面の笑みを浮かべながらつぐみは元気に注文する。店員の女性は一瞬フリーズしたが、引き攣った笑顔を浮かべながらすぐにパネルに打ち込んでいた。
続いて彼の背後にいた2人の少女が控えめにそれぞれ注文する。
「ポテトのLを」
「あの、えと、ち、チーズバーガーセットで、あ、あ、ポテトとコーラで」
それぞれの注文の品を持ってテーブルにつき、つぐみがハンバーガーを頬張りながら話し始める。
「むっしゃむっしゃ2人ともむっしゃむっしゃ調子はむっしゃむっしゃどうっしゃ?」
「お願いだから食べ終わってからにしてください、飛んでるんです食べカスが」
自分のポテトを守りながら志音が怪訝な表情を浮かべる。
「と、とと、特に問題はありません……」
そう言って、夢月は一生懸命ハンバーガーを頬張る。まるでつぐみの真似をするように、小さな口をいっぱいに開けてかぶりついている。
「そいえば、むっちゃんはもう能力使ってるんだっけ?」
「は、はいっ」
常に自信無さげな彼女が、そこだけは声を張り上げて答える。つぐみは笑顔でジュースを飲みながら親指を立てた。
「むっちゃんの能力は……なんか聞いた感じだと扱いが難しそうなのに、すごいね」
「えへ、えへへ、ふひっ」
照れくさそうに笑う夢月とは裏腹に、志音は辺りを気にしながら小声で言う。
「あの、良いんですか? こんなところでそんな話をして……」
「そんな話?」
「その……私達の能力とか」
「大丈夫じゃない? ゲームの話かなんかだと思われるぐらいでしょ。それより、委員長の方はどう? どっちかっていうと僕寄りの能力だし扱いやすいと思うけど」
「いや、私は……」
志音は気まずそうに目を逸らす。その様子に、つぐみは特に気にする様子も無くポテトを貪りながら頷いた。
「分かる分かる、そもそもついこの間まで『あり得ない事』だったもんね? 超能力をいきなり使い放題です、自由に使ってくださいって言われてもね、困るよね」
「まぁ、はい、そういう事です、そもそも使い道も」
「復讐、すればいいんじゃないですか……?」
夢月が震える声で、胸に手を当てながら言う。
「せ、折角譲ってもらった能力なんです。同じ立場の相手ならいざ知らず、もうただの人なんて怖くないですよ……?」
「……それは、あまり私には」
「どうして……つ、吊星さんだって被害者じゃないですか……」
「それは勿論そうなんですけど、何をされても仕方の無い相手だからと言って、何をしても良いわけじゃ無いと思います」
「わ、分からないです……私には、ど、どうしていつも、やられた側が耐えなきゃいけないのか……」
その言葉で、2人の間に異様な空気が流れる。互いにとって地雷、思い出したく無い過去、しかし、同時に向き合うべき出来事でもある。
どんな形であれ、綿畑夢月は自らの過去と向き合い決着をつけようとしている。それを止める権利も、否定する権利も志音には無い。
そもそも、人としての枠組みから外れてしまったのだから。
「まぁまぁ、どう使うかは自由なんだから。でもさ委員長、『使い方』はともかくとして、そもそも『使える』ようにはしておいてね」
つぐみが人差し指を立てる。直後、その指先に青白い光の玉が線香花火のようにパチパチと音を立てながら現れた。
「狐さんは、『用があれば呼ぶ』って言ってたでしょ? アレ多分結構厄介な事頼まれると思うんだよねぇ」
「厄介な事……」
「仲間集めをしたいって狐さんは言ってる、僕が最初に任された仕事もそれ。今後は2人も任されるんじゃないかな?」
「な、仲間を集めるって……その、具体的にはどういうふうに……」
小首を傾げる夢月に、つぐみは自身の鼻先に指を当てて、ニンマリ笑っていう。
「匂いかな。どう言えばいいかちょっと分かんないけど、なんとなく感覚で分かる。2人からも同じものを感じたんだ」
少し笑って、それよりも困った顔を浮かべてつぐみは続ける。
「でもこんなに上手くいくのはすごく稀かもね、2人が温厚だったから良かったけど、本来ならもっと荒っぽい事になるかもだって」
「どうしてそんな……? 話し合えばいいのに」
「んー、狐さんがマジで色んなところで敵作りまくってるのが主な原因かな」
「えぇ……」
「別に完全体って僕らだけじゃなくて、そこそこいるみたいなんだけど、そのどれもが各々にグループみたいなの作ってるみたいでさ。中でも1番大きいのが狐さんらしいんだけど、その大きくしたやり方の所為でほとんどの派閥から敵対されてるって」
「そんな狐さんの一味となると、警戒されて当たり前……更には仲間になって欲しいなんて言った日には……いやそもそもなんでそんな」
「マジで何したんだろうね? 狐さん、ご飯食べながら笑ってたけど」
どんな気持ちで自分が嫌われてる事話してたんだろう、自分なら脱退を考えるかもしれないと志音は思う。というかその二文字はちょくちょく浮かんでいる。
「あの、いいですか」
「はいむっちゃん」
「もし、もしですよ? そんなこと考えてませんけど、もし、仮に、仲間を抜けたいって言ったらどうなります?」
「え、殺されるんじゃない?」
「ヒュッ」
即答だった。というか敵を作るのはこういうところなんじゃないのか。
「特にむっちゃんは全力で殺しにかかられると思うけど、能力強いし、敵にして厄介な相手の処理は迅速な方がいいよねって事ね」
「あは、あはは、そ、そそそそそうですよね」
引き攣った笑みを浮かべながらストローを咥える夢月だが、呼吸が乱れて上手く吸えずコップの中でブクブクと鳴らすだけだった。
要するに力と恐怖による支配。望まれないわけだ。
「だから委員長、使い方は任せるけど、使えるようにはしといてね。役に立たないと判断されたら、殺されはしないけど交代はさせられるだろうから」
「…………」
とんでもない事を、にこやかなまま言う。自分だってそうなるかもしれない、なんて、微塵も不安に思っていないのだろう。
それほどまで、自分の能力と才能に自信があるのだろう。
「つぐみ様は、な、何故、その、狐様についているんですか?」
「んー? 素直に仲間になってくれって頼んできたし、あと一応助けてもらったし?」
「と、特に、その、崇高な目的があるとか」
「僕がぁ? ないない、僕はただこの力を楽しく自由に使いたいだけさぁ、その為に、あの人の元で活動しとくのが1番都合がいいってだけよ」
「……な、なるほど……わ、私も同じような理由です……だから、特に抜ける予定は無いので、殺さないでくださいぃ……」
「離反もそうだけど仕事の出来にもよるからね、がんばって」
その時、つぐみのポケットに入っていたスマホに着信が入る。バーガーのソースやポテトの油でベトベトの手を見てしばらく何処かで拭こうかと悩んだ様子を見せた後、諦めてそのまま掴んで電話に出た。
「はいもしもし、丁度噂してたところですけど」
電話の主の声は聞こえない。しかし、つぐみの反応は、それが誰なのかを一瞬で2人に理解させた。
九尾狐、正体も目的も一切不明の怪異。志音と夢月に力を与えた張本人。
「いや、めっちゃ嫌われてるって話っす、前僕に何故か楽しそうに話したじゃない、うん、はい、はいはい、あー、大丈夫です、今2人に丁度その話を……ほう、はい、あ、なるほど、いいっすねそれ、それは正味僕も楽ですわ、はい、はい、あ、はーい分かりましたー伝えときますー、はーい……ところでちょっと電話遠いですけど狐さん今どこでなにしてるんです? あ、そうですか、いや別にいいですけど、まぁ、はい、分かりました、とりあえずはい、はーい、失礼しますー」
そう言ってつぐみは電話を切り、そして2人に言う。
「お仕事です」
「えっ」
「も、もうですか!?」
不安そうな表情を浮かべる2人とは裏腹に、つぐみは得意げに笑って言う。
「大丈夫、そこんとこなんだけど、今狐さんから指示が入った」
「そう、言いますと?」
「僕達3人はチームで動いて欲しいって」
「チ、チーム……」
未だ能力をまともに使った事のない志音にとって、使い慣れた2人にサポートしてもらえるのはありがたい話ではあるが、しかし、いよいよ始まるのかと不安でもある。
「チーム……やっぱり、リーダーはつぐみ様ですか? こ、この中で1番強いですし……」
「ええ? いや、リーダーは委員長でしょ。頭良いし、こういうのは腕力より知力の高い方が向いてるんだよ」
「え、私ですか……」
「おねがーい、僕頭悪いからさー、たすけて」
なるほど、と、志音は理解する。要するに九尾狐は、この中で1番志音の事を信用していない。手元に置いておく、というより、逃がさない為、その為の『鎖』として、『集団』と『地位』を用意した、というわけか。
とっくの昔に、逃げられないところに立っていた。
志音は、ほんの少しだけ笑う。今更、人間に戻れるとでも思っていたのか。愚かで呑気な自分を嗤う。
「承りました、僭越ながら務めさせていただきます。それで、お仕事というのは?」
「それも委員長にとって丁度良い内容だよ」
つぐみは自身の二の腕をポンっと叩いて言う。
「邪魔者の排除。敵対してくる怪異の組織がいるから、それの殲滅だって」
能力を使う練習にはピッタリだね、と、つぐみは笑う。
志音と夢月の表情は硬く、不安が滲み出て、とても笑えなかった。
ただ、夢月の不安は、少し違っていた。




