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アサとヨルの怪異譚  作者: 倉トリック
最強強化特訓
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理解するべきこと

 目が覚めてから3戦目。結果敗北。敗因は爆破による目眩しにまんまと嵌り胸を刺された。回復まで46分、その間意識無し。


 目が覚めてから4戦目。結果敗北。敗因は自分も真似出来るかと爆破能力を試そうとした隙をつかれて喉を切られた。回復まで39分。最初の2分ほど意識を保つ事に成功したが、呼吸困難と激痛に耐えられず気絶。


 目が覚めてから5戦目。結果敗北。敗因は、先に機動力から奪おうと脚を狙うも普通に避けられて蹴られた。その際に首を骨折。回復まで15分。動けなかったが意識は最後まで保つ事が出来た。


 目が覚めてから……12戦目。ここまで全敗。そしてここでカイシのストップが入った。「来い」と言って手招きをする姿に冷や汗が垂れる。絶対滅茶苦茶怒られる。


「まぁまぁだな」


 しかし、出て来た言葉は意外な事に感心だった。


「まぁまぁ……ですか? その、全敗してますけど」


「そこはほぼ予想通りだ」


 淡々と告げられた言葉に心を抉られる。しかし、しょんぼりする八夜を他所に、カイシはそのまま続ける。


「意識しているか知らんが、回復までの間隔が短くなっている。それと何回か何かを試そうとしていたな、向上心があるのは良い事だ」


「え、えへへ」


「その結果は論外だがな。忘れるな、実戦で『次』は無い」


 ついて来い、と、カイシは階段を登って行く。休憩、もしくは今日はここまで、という事だろう。特に結果も出せないまま半日過ぎてしまった。とぼとぼと後を付いて行っていると、アサが飛び出してカイシに指を刺して声を荒げる。


『褒めた後にいちいち下げるなよ! 性格悪いな! ヨルは一生懸命頑張ったんだぞ!』


「一生懸命頑張るのは大前提だ。そこからどういう結果を出せるか、評価はそこからだ」


『うっぜー! 褒めて伸ばすって事を知らんのかよ!』


「ならお前が褒めてやれ。俺は俺のやり方でやる」


『言われなくてもそーする! ヨルはすごいね! 何度倒されても立ち上がって挑戦しに行くなんて中々出来ないよ! 努力の天才! 可愛い!』


「ありがと。でもカイシさんの言う事は正しいよ」


 八夜はアサの頭を撫でながら言う。そう、全て事実。特に『次』は無い、というところ。今回受けたダメージは全て致命傷となり得るものだった。回復するまでの時間が設けられているだけでも十分甘いと言える。実戦なら、そのままお陀仏だろう。


「自分でも途中で気付いたんだ。そもそも、基礎的な戦い方をちゃんと理解してないうちからあれこれ考えても自爆するだけだなって」


『基礎的な戦い方?』


「攻撃と防御、特に防御は『躱す』と『受け流す』の使い分け……ミスるとそのまま相手に攻撃のチャンスを渡しちゃう」


『え、そんな事考えてたの……』


「あ、勿論、全快のイメージはずっと持てるようにしてたよ? でも、どんどん天井が下がって行くのを途中で感じてた……最終的に、動けるようになったらいいか、ぐらいになっちゃって……」


 特に最後の方なんかその思考が顕著に現れていた。傷が塞がっただけで、息も整っていないのに戦闘に移っていた。その結果全ての行動に力がこもっていない、中途半端な行動へとなってしまっていた。だからこそ、カイシに止められたのだろう。


『…………』


 気付けばアサがポカンと口を開けたままコチラを見つめている。不甲斐無い友に呆れてしまったのだろうか。


「ご、ごめんねアサ、私としても色々反省点はなんとなく見えてきたから、次はもっと」


「友人であり適合者だろ、もっと信用しろ」


 カイシがコチラを向かないまま言う。多分、アサに。言われた本人は、凄まじい形相で彼の背中を睨みつけていた。お前に言われんでも分かっとるわ、とでも言いたげに歯をギリギリ鳴らしている。


 しばらく歩いて、場所は昨日と同じ食堂。テーブルの上には、これもまた昨日と同じように大量のご馳走が並べられていた。


「あれ?」


 しかし今日はカイシはずっと一緒にいた。一瞬だって修練場から出ていない。ならばこのご馳走は一体誰が。


「喰え」


 勿論説明などミリも無く、昨日と同じようにただ食事を促された。拒否する理由も無く、むしろ空腹なのでありがたくありつく事にする。


「私自身と戦うって、そのまんまの意味だったんですね」


 食べながら、ふと思い出した事を言う。プラン変更の時の言葉は、比喩でもなんでもなかった。今更だからなんだと言うわけでも無いので、ただの雑談、いや、会話してくれるとも思っていないので、ほぼ独り言のつもりで言った。


「ああ、それで、何か分かったか?」


 しかし意外な事に、カイシは八夜と向かい合って座り、会話を続けてきたのだった。


 少々戸惑いながらも、会話を始めたのはこっちなので、八夜は飲み込んでから話す。


「そう、ですね……私って、意外とゴリ押しするんですね」


 初戦の盾投げが良い例だ。確かに自分が真っ先に思いつく方法だろう。もっと詳しく言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()使()()。互いが動かない状況で、動かないままでいたくないのだ。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()。とにかく動いて、動かして、対処対応しやすい場面を作りたい。


「意表は突けるが、対処されれば先の行動まで読まれる。どうする?」


 そう、裏を返せばその行為は、八夜の()()()()()を裏付けるものだ。自分に考えが無いから、先に作戦を立てられれば後は敵の思う壺だろう。


「はい、だから重ね重ねになりますけど、やっぱり、基礎を学ぶべきだと思いました。私は所詮は素人、行き当たりばったりの戦い方じゃ、これから通用しない」


 今までが、どれだけ運が良かったかを思い知らされる。怪異退治組織の人間と一時的にでも組んで戦えていたという状況。専門の知識と戦闘方法や能力の考察を交えながら、という状況。


 それを3戦。天文学的な確率じゃないだろうか。それは向こうにとっても同じかもしれないが、どちらにせよ、その奇跡をこれからも期待しながら戦うなんて愚考どころの話じゃない。


 自分だって彼らにとって標的なんだという事実も踏まえれば確実に必要なのだ、八雲八夜個人の強化は。


「具体的にしたい事はあるのか? なければ俺の方で進めるが?」


「出来ればカイシさんにご教授願いたいんですけど……相手にならない現状じゃどうにもならないですかね」


「……それもあるが、俺もどちらかと言えばお前と同じ、()()()()()()()()()。教えるにしても少々食い違いが出るかもしれんから、オススメはしないな」


 カイシは深く椅子に座り直し、フンと鼻を鳴らす。教えられなくて残念、という事だろうか。


「……分かりました、本とか読みます。それでもう1人の私としばらく戦って……後は、武器生成能力の拡大……ですかね」


 八夜は自分の掌を見つめて言う。


「もしかして私、自分の力を勘違いしてるんじゃ無いかと思います」


「……ほう?」


 カイシは興味深そうに首を傾げる。


「どう、勘違いしていると思うんだ?」


 その問いに、八夜は「うーん」と唸って首を傾げる。


「どうって言われると……なんとなく、なんですよね……でも、もう1人の私に出来る事が私にも出来るなら……どこかでヒントを見つけないと」


 頑張ります、と言って、八夜はせっせと食事を再開した。美味しそうに次々と料理を頬張る彼女を見ながら、カイシは少し呆れたように鼻を鳴らす。


「焦らず正確に理解していけ。その飯にだって、意味がある」


「は、はい」


 そう言って、彼は席を離れ、そのまま戻っては来なかった。今日はもう終わり、と言う事だろう。


「理解していけ、か。うん? あの口ぶりだとカイシさんは何かもう分かってるのかな……」


『分かってるだろうねー、だからこそ私達にはあえて教えない』


「その意味は分かるよ。自分で気付いて身につけないと、与えられたままじゃ、ダメだから」


 与えられたままだ。そもそもこの力だって、アサの力を借りてるだけで、決して自分の力じゃない。自分、八雲八夜ならではの強さを、持ち味を。


「私の力……か」


 いやそもそも、と八夜はアサに向く。


「私、アサの能力をイマイチ良く理解してないかもしれない」


『そんなわけ……と、思ったけど、そっか、私が戦ってるとこ、ヨルはしっかり見れないんだ』


 アサに意識の主導権を渡している時、八夜は半分寝ているような状態で、状況はぼんやりとしか分かってない。


『私はウサギみたいな怪物になって、怪力で戦うよ』


 餃子を頬張りながらアサはグッと親指を立てて言う。


「あ、うん、それは知ってる。じゃなくて、ほら、特殊能力みたいな」


『え、ないよ?』


「……え?」


 互いに顔を見合わせて、ポカンとする。


『虎の電撃とか、牛の武器改造とかでしょ? ないよ、私に特殊能力は無い、どっちかっつーとザコ怪異なんだよ、私』


「え、でも他の怪異を食べる時あるでしょ? あれは」


『あんなん怪異なら誰でもするよ、そしたらその分基本ステータスは上がるんだから。それで別に能力が貰えるとか増えるとかじゃないよ?』


「……え?」


 前提が、崩れ始めた。何が出来るか以前に、自分達がどうやって、何をして戦っているのかさえ、理解していなかったのだ。


「……私達は……()()()()()()()()()


 ここにきて、全てが振り出しに戻った。

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