ナレーション4
ナレ4:
晶は江戸時代のような街に立っていました。人間や、人ならざる者がのんびりと往来しております。矢継ぎ早の出来事に理解の追い付かない晶ですがいつまでも道に突っ立っていてもしょうがない、見当もつかないままやみくもに歩き始め、ああ、自分の人生も見当もつかないままやみくもに歩く人生だった、途中から歩くのもやめてしまったけれど、と考え始めるとまたぽろぽろと涙がこぼれ始めるのでごしごしと袖で涙を拭っている、その時でした。
「お、兄ちゃん、地獄に来たばっかって顔だな」
振り向けば人のような人でないような、カエルのごとく目の飛び出た男が近づいてきます。あ、これはキャッチセールスだ、と直感した晶は逃げようとしますが男に腕をつかまれ、その快力にすくんだ身から出たのは「堪忍してください」という、震えた情けない声でした。
(カジカ)「あ、オレのこと、怖い人だと思ってるでしょ」
(晶)「はい。あ、いえ」
(カジカ)「大丈夫大丈夫。怖くない怖くない」
(晶)「怖い人はみんなそう言います」
(カジカ)「オレ、カジカって言うんだ。ちょっとそこの店で働いてて。兄ちゃん、ここに来たてだろ? オレの店寄ってけって」
嫌です、嫌です、と抗うもののカジカの力は2tトラックの馬力のごとくで、引っ張られる晶、懐を探るもお金は一銭もなく、ああ、地獄の沙汰も金次第、死ぬ前に財布を携帯しておくべきだった、と悔やんでも後の祭り、ずるずるずるずると引きずられ入った店で座らされたのは硬い座布団、どんな接客が待っているのか知らないが、お高いんでしょう? そもそも日本円が使えるのか、米ドルだったら両替できただろうか、せめてクレジットカードさえあれば、などと思考があらぬ方向に振れて混乱極まる晶の前に現れたのは。