ナレーション1 その2
ナレ1:
現れたのは、座布団片手に和装、白足袋でちまちまと歩く老人で、持っています座布団を壇上に置いてそこに座りましてお辞儀してからの第一声、「ようこそのお運びで。まこと御礼申し上げます」と言うからには、これは落語家で、ここは寄席カフェか何かで、自分は客として落語を聞くのであり、ということは銭が必要で、しかし自分に払える金は一切ない、自分にあるのは苦悩だけ、先生と言われて黙ってそれを受けていいくらいの苦悩だけ、ってこんな時に太宰を引用している場合ではなくて、と、半ば錯乱状態の晶の姿に察したカジカが言います、「金ならツケでいいよ。あんた、その様子じゃ、ろくに遊んでこなかったんだろ。先輩としてこのカジカがいろいろ教えてやるよ」。そう言われるとひとまず安堵して晶、サウナに入った後のように毛穴が開いた気分で、つまりはリラックスした気分で座り落語を聞きます。お題目は地獄八景亡者戯と云うらしく、地獄でのやりたい放題乱行至極が面白おかしく描かれ爆笑の晶、落語家の放つ「その道中の陽気なこと!」にすっかり感化されてしまい、そうだ、もう、太宰治みたいな暗い話はやめてしまって、よしてしまって、人生の明るい側面、楽しい側面、嬉しい側面に光を当てて生きていこう、って、もう死んでるから人生も糞もないのだけれど、死後の世界、後生ぐらい、陽気なことにしてしまえ! 自分はもう、無茶苦茶やるのだ! と、立ち上がる様はまるで天啓を受けた宗教者のようでした。




