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とらべるぼーる  作者: 原雄一
第三章 理解《わか》る
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翌朝鷹は、檻の中で目覚める

 六月一日、朝。


 この日将治を目覚めさせたのは、いつもの甲高い音ではなかった。聞き慣れた声だった。


「……井。国井」


 将治はその声に、ゆっくりと目を開ける。


「国井、起きろ。朝だぞ」


 目の前に朝山がいた。目の錯覚かと思い目をこすってみるが、そうでもないらしい(と言うか錯覚だったらそれはそれで異常だ)。訝しみながらも起き上がった。


「おはよう」


 朝山は例の、人懐っこい笑みを浮かべた。


「……どこだここ」将治は眠たげな、無愛想な声を漏らした。「ウチ……じゃないよな」


「〈白い部屋〉だよ。朝起きたらみんなここに」


 その言葉に、瞬時に意識は覚醒し、大きく目を見開いた。


「白い部屋? 朝からかよ?」


「そう。朝から」


「……勘弁してくれよ……」


 朝から人の死を目の当たりにしなければならないのか。うんざりする。いや、今日こそは誰も死なせない。俺が守って見せる。矛盾した二つの事象を、頭に思い浮かべた。


「って俺、私服じゃん! しかもパジャマ」


 将治は自分の寝巻の胸元を掴んだ。


「みんなそうだよ。って言ってももう殆ど起きてるし着替えてるけど」


「着替えてる――ああ、あの服か」


 一瞬だけ存在を忘れていた服の事を思い出す。


「何だ国井? 何か想像した?」


 由樹の軽口が聞こえてきた。将治は即座に「うるせぇよ」と否定した。


「起きてないのは隆だけ」


「あー田沼か。朝はいけると思ってたんだけど……まあ疲れてるんだな」


 将治は立ち上がり、服を着た。今日も着数はピッタリのようだ。


「……そうか……」


 将治は、自分の眼鏡が無い事に気が付いた。そう言えば先程から、見える景色がぼやけている。


「でもさ、なんで俺らここに来てんのかな」


 そんな根本的な疑問を口にしたのは、慶尚だった。


「はぁ? なんでってそりゃお前、このヴァンにだな……」


「いやそうじゃなくて、だってヴァン持って寝る奴っていないだろ?」


 そう言えばそうだ。将治も寝る間は自分の机の引出しに仕舞っていた。それによく考えれば、二回目に呼び出されたときだって、全員がヴァンを握りしめていた訳ではない筈だ。


「一定範囲って言うか、ある程度だったら利くのかな?」


 それも一理あると思った。と言うか、そうとでも考えなければ納得できなかった。辺りのぼやけた景色を睨みつける。

 ヴァンから映像が投影された。ふと見ると、田沼が大欠伸をしているところだった。丁度起きたのだろう。それを待っていたかのようにヴァンが起動したのだ。

 将治は映像を凝視した。顔を近づけてみる。画像が不鮮明な所為で。余計に見づらい。

 よくよく見ると、それは鮫だった。映画『ジョーズ』に登場するような、見るからに凶暴そうな鮫だ。今日の敵はこいつなのだろう。将治は薄ら寒い感覚を覚えた。


「さて、と」それを振り払うようにクラスメイトに向き直る。「今日はみんなに聞いてほしい事があるんだ」


 いくつもの瞳が、将治に集中した。


「――今日は、こいつの事を斃さないでほしい」

 今日は一話のみ投稿。


 将治が最後に言った言葉の意味を、考えてみてください。生意気ですけど。

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