翌朝鷹は、檻の中で目覚める
六月一日、朝。
この日将治を目覚めさせたのは、いつもの甲高い音ではなかった。聞き慣れた声だった。
「……井。国井」
将治はその声に、ゆっくりと目を開ける。
「国井、起きろ。朝だぞ」
目の前に朝山がいた。目の錯覚かと思い目をこすってみるが、そうでもないらしい(と言うか錯覚だったらそれはそれで異常だ)。訝しみながらも起き上がった。
「おはよう」
朝山は例の、人懐っこい笑みを浮かべた。
「……どこだここ」将治は眠たげな、無愛想な声を漏らした。「ウチ……じゃないよな」
「〈白い部屋〉だよ。朝起きたらみんなここに」
その言葉に、瞬時に意識は覚醒し、大きく目を見開いた。
「白い部屋? 朝からかよ?」
「そう。朝から」
「……勘弁してくれよ……」
朝から人の死を目の当たりにしなければならないのか。うんざりする。いや、今日こそは誰も死なせない。俺が守って見せる。矛盾した二つの事象を、頭に思い浮かべた。
「って俺、私服じゃん! しかもパジャマ」
将治は自分の寝巻の胸元を掴んだ。
「みんなそうだよ。って言ってももう殆ど起きてるし着替えてるけど」
「着替えてる――ああ、あの服か」
一瞬だけ存在を忘れていた服の事を思い出す。
「何だ国井? 何か想像した?」
由樹の軽口が聞こえてきた。将治は即座に「うるせぇよ」と否定した。
「起きてないのは隆だけ」
「あー田沼か。朝はいけると思ってたんだけど……まあ疲れてるんだな」
将治は立ち上がり、服を着た。今日も着数はピッタリのようだ。
「……そうか……」
将治は、自分の眼鏡が無い事に気が付いた。そう言えば先程から、見える景色がぼやけている。
「でもさ、なんで俺らここに来てんのかな」
そんな根本的な疑問を口にしたのは、慶尚だった。
「はぁ? なんでってそりゃお前、このヴァンにだな……」
「いやそうじゃなくて、だってヴァン持って寝る奴っていないだろ?」
そう言えばそうだ。将治も寝る間は自分の机の引出しに仕舞っていた。それによく考えれば、二回目に呼び出されたときだって、全員がヴァンを握りしめていた訳ではない筈だ。
「一定範囲って言うか、ある程度だったら利くのかな?」
それも一理あると思った。と言うか、そうとでも考えなければ納得できなかった。辺りのぼやけた景色を睨みつける。
ヴァンから映像が投影された。ふと見ると、田沼が大欠伸をしているところだった。丁度起きたのだろう。それを待っていたかのようにヴァンが起動したのだ。
将治は映像を凝視した。顔を近づけてみる。画像が不鮮明な所為で。余計に見づらい。
よくよく見ると、それは鮫だった。映画『ジョーズ』に登場するような、見るからに凶暴そうな鮫だ。今日の敵はこいつなのだろう。将治は薄ら寒い感覚を覚えた。
「さて、と」それを振り払うようにクラスメイトに向き直る。「今日はみんなに聞いてほしい事があるんだ」
いくつもの瞳が、将治に集中した。
「――今日は、こいつの事を斃さないでほしい」
今日は一話のみ投稿。
将治が最後に言った言葉の意味を、考えてみてください。生意気ですけど。




