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のじゃロリと異世界漂流日誌  作者: 右回游
序章 新たなる船出

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第5頁 新たな漂流仲間(ただし角付き)


紙を作る。草がないので木を使ったパルプ紙だ。電気が使えるなら灰汁よりも強いアルカリ液が作れる。海水を汲み上げたかめの中に、魔術を描いてビリビリと…


「塩素の匂いがする〜」


「鼻にくるの〜」


プールの匂い、とても懐かしい匂い。中学の同級生の安藤が漏らした…いや違う。もっと別の綺麗な思い出があったはず。女子の近くの水を飲んで黒田が腹を下した…これも違う。…あれ、俺…プールに懐かしいと言えるような碌な記憶ない?


……気を取り直して、剥いだ木の皮をアルカリ液──次亜塩素酸ナトリウムに浸けて煮る。クタクタになったものを、平らな石の上に広げ、丸太で潰して乾燥させれば、紙の出来上がりだ。


「乾かす間にもう一つ」


マーレに潰しの工程を任せている間にインクを作る。

まずは捨てていた魚の皮と鱗を煮る。コラーゲンたっぷり、にかわ作り。


「新しい料理か?」


「いや違う。紙だけでは意味がないからインクを──」


声に振り向くと目と鼻の先にヤギが居た。水平の瞳孔とバッチリ目が合う。


「うおわっ!」


俺の声に驚いてヤギが後ろに飛び退く。


「何だ、私の顔を見るなり驚いて…失礼だろう。お前たちのために果物を取ってきてやったというのに」


「すまん…でも振り向いたら目の前に誰かがいるのは、誰でも驚く」


「それもそうか」


ヤギは少し距離を取ってまたじっと見てくる。俺のやっていることに興味があるのだろうか…


「なぁ、カプラだっけか。少し聞きたいことがあるんだが」


「なんだ」


「俺とマーレと、一緒にこの島を出る気はないか?」


質問を聞いてしばらく固まっていたカプラが突然人の姿になり、手で体を隠して更に距離を取る。


「…乳は出ないぞ」


「何の話!?」


「船乗りはヤギを乳のために乗せるものだろう?」


長距離航海で船に乗せる家畜として、粗食に強いヤギが重宝されていたらしいが、こちらでもそうなのか。


「それとも、もう一つの目的か?」


「もう一つ?」


「慰み物」


「違うわ!俺とマーレだけじゃ船造りに人手が足りないからだ!それに、海は物騒だから護衛が欲しいんだ」


初心な少年のように狼狽うろたえる俺を見て、カプラは体をガードしていた両手を下ろし、ため息をつく。


「ハァ〜…まぁ、人として社会に繰り出してみるのも悪くないか…不便を楽しむってやつだ」


「不便?」


「ここでは弱肉強食、強者の私は食うに困らないし、自由だが、人の社会ではそうはいかないだろう?だから不便と」


都会に生まれた者が休暇に大自然でキャンプするようなことを言うヤギ。


「協力してくれるってことでいいんだな?」


「そうだな」


「よかった…でも、マーレの前であんなこと言うなよ?教育に悪い…」


「お前、あの子の親のつもりか?」


こちらではどうか分からないが、元の世界ではまだ俺は親という歳ではない。だが──


「少なくとも、兄のようなものだとは思っている」


「ふぅん…では二人きりの時に言うとしよう」


耳元で突然甘い言葉を囁かれ、飛び退く。琥珀のような瞳か


「なんなの?急に迫られるの結構怖いよ?」


「人の社会で生きる練習だ。人の社会は心で動く。そして心を動かすのは言葉。お前の心を掴んでおけば、良い流れが掴めそうだと思ったまでよ」


「…随分人の社会のことを知ってるんだな」


「私も流れ着いた身だからな。ここに漂着した船で飼われていた。小屋も洞窟の絵も、そいつらのものだ」


「飼われてたって…まさか」


「船にいた頃はまだ仔だったので母がな」


カプラが苦い顔をした。聞かれたくない話だったのだろう。当然だ……迂闊だった。最後にこれだけ聞いてこの話は終わろう。


「その船ってどこにあるか分かるか?」


「あぁ、それなら島の西だな」


砂浜の端…明日見にいくか。


「ノゾミ〜!ゴロゴロ終わったぞ〜!…カプラ?2人で何話しとったんじゃ?」


「カプラが船造り手伝ってくれるってさ。島の外にもついてきてくれるぞ」


「本当か!!」


目を輝かせてカプラの元へ駆け寄るマーレ。


「あぁ。セレスティオンにもお前のことは頼まれているしな」


「セレ、そんなこと言っておったのか…よろしくじゃ、カプラ!あっ、そうじゃ!」


カプラは何かに思い至ったような顔をしたマーレに連れられて小屋に入って行った。


「2人目の漂流仲間か…」


膠と煤を水に溶かしたらインクの完成だ。

紙が乾いたら日誌をつけよう。このおかしな漂流仲間たちのことを、紙に遺しておきたくなった。


「何かと思えば服か…初めて着るが…うぅ、なんだかむず痒い」


「人の姿で素っ裸は不味かろうて」


穴の空いたシーツを纏っただけのカプラが小屋から出てくる。服…服かなぁ?


「服も、どうにかしないとな…」


シーツとはいえ服を纏ってしおらしくしていると、さっきのヤギと同じとは到底思えない、綺麗な髪に凛とした顔立ちの美人だ。

…動悸がする。さっきの甘い言葉が今になって効いてきた。隠すことでその内にあるものは価値を増すとは、黒田が言っていたことだったか。布一枚でこんなに意識が変わるのか…


「…カプラ、角だけ生やすって出来るか?」


「なんだその質問は。出来るが…」


大きな巻き角が頭に生える。現実味が薄れて心が落ち着いてきた。しかし、改めて見ても立派な角だ。少年心をくすぐられる。


「頭が重い…もういいか?」


「いや、このままで…」


カプラは意図が分からず首を傾げる。角の重みに流されるままに首を回し、何周かの後、一つの異なる解を得た。


「さては私の角に惚れたな?私の自慢だ、無理もない。それならこのままにしてやろう」


角が気に入ったのは事実だ。そういうことにしておこう。


─3人で紙をひたすら作り、夕食を食べて、すっかり日の暮れた夜。

マーレとカプラは先に眠り、俺は一人で星空を眺める。


「いや〜よく見えるなぁ」


しかし、星の光はあまり強くない。地元のほうがよく見える。それに配置も全く違う。代表的な星の配置は南半球も含めて覚えているのだが、役には立ちそうにない…


……ヤギを乗せるほどの船、長距離を航海するノウハウがあったはずだ…そういう事が書かれた本がないか、小屋をくまなく探す必要があるな。


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