参拾参の6 プチ三太郎
《 二〇二一年五月十四日
KDDI株式会社
代表取締役社長 高橋誠様
〒二二七-〇〇三六
横浜市青葉区奈良町二九一三-二-八〇五
森 史×
電話 〇九〇-××××-××××
ファクス 〇四五-九六一-二〇七七
メール ××××@××××
冠省 貴社ならびに関連事業所で使用される「資金不足(しきんぶそく)」というワードの持つ意味合いについてお尋ねします。
当方はツーカー時代の一九九〇年代末より貴社の携帯電話を使用しておりますが、昨年秋ごろを起点として立て続けに、貴社アウトソーシング先コールセンター、貴社代理店ショップから信じられないほどの量的質的な迫害を受けております。それらについて、この度受けた直近の「迫害」を機に一斉解決を図ることにし、解決できたものとできなかったものがあります。
解決できなかったもののうち、上述の「資金不足」について、ご教示願います。
携帯電話など使用料がゆうちょ銀行の普通口座から引き落とされず、督促状が郵送されてきたので、それはコンビニエンス・ストア窓口で払い込みました。なぜ引き落とされなかったのかなどを確認するため、督促状に記されている〇一二〇-九五九-一三七に架電したところ、対応に出たオペレーターは、〈しきんぶそく〉だと言います。どのような漢字を書くのか尋ねたところ、〈資金の資に…〉とふざけたことを言います。
「残高不足のことを言っているのか」と問うても〈申し訳ありません〉と、漢字の説明(説明になっていない)の際と同じようにへらへらした口調で繰り返すだけで、まったく要領を得ません。
三日後に電話をかけてきた最初のオペレーターを管理する立場の「リーダー」という役職の男性は、〈そう(「資金不足」と)表記しているから(されているから)資金不足〉だと言います。なにに表記されているのか尋ねても、答えません。
ここまでのやり取りは、「資金不足」に関する部分だけをかいつまんだ内容です。
そこで、以下について貴職にただします。
一、なんというどんな文書に「資金不足」と表記されているのか。
二、「資金不足」と「残高不足」の相違。
三、貴社もしくは貴社アウトソーシング先がいう「資金不足」と、『手形交換所規則』でいうところの《一号不渡り》の事由である「資金不足」との相違。
四、そのほか関連事項。
以上、よろしくお願いいたします。回答は電話、メール、ファクスで構いませんが、返信用封筒と切手を同封します。 草々》
こんな文書をしたため、郵便で投函した。
代理店ショップ問題は、機会があれば章を改め触れる。
一週間後の差し出し日付けで、こんな返信を受け取った。
《 2021年5月21日
森 史×様
KDDI株式会社
お客様相談室
室長 山上 将伺
TEL:03-6362―6218
受付時間 平日 9:00~17:00
拝啓 日頃よりKDDIサービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。
先日は、ご多忙の中、本社代表電話にわざわざご連絡をくださり、森様の貴重なご意見を仰ぐことが叶いました。また、後日お届けくださいましたお手紙でも、再度貴重なご意見を拝読するに至り、重ね重ね私どもは、お客さまと接する部門の現状についての点検と対応品質向上活動の取り組みにまい進する責任を強く意識できることができました。このような気づきを得る機会をいただきましたことに、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
なお、お手紙に返信用封筒ならび、切手をご同封くださっていることを確認しましたため、お気持ちはありがたくいただきますが、切手につきましては、お返し申し上げます。何卒お受け取り願います。
最後に、心ばかりではございますが、粗品を同封しておりますので、どうかお使いくだされば幸いでございます。
末筆ではございますが、森様におかれましては、時節柄、くれぐれもお身体お厭いください。 敬具》
俳優、松田優作(一九四九-八九)二男で同、松田翔太(一九八五-)が、おとぎ話の桃太郎を、桐谷健太(一九八〇-)が浦島太郎を、濱田岳(一九八八-)が金太郎を演じる「三太郎」が、当時、この会社のブランドのイメージキャラクターとしてテレビなどメディア広告に出演。そのデフォルメされたイラスト版「プチ三太郎」がデザインされた、販売促進グッズであろうノック式ボールペンと、メモパットが同封されていた。これが山上文書の《粗品》であろう。
また、おれが本社代表番号に架電したことが、同文書冒頭に記されている。
これは、フジカワマサトシ、イワサアキヒコの所属について知るためあちこちをつつき取材したうちの一環。KDDI子会社「KDDIエボルバ」が全国で展開するコールセンターのいずれかの場所に勤務するものの、両名とも、これらの会社とは資本関係の存在しない派遣会社の従業員らしいことが分かった。
フジカワ、イワサの勤務するオフィス、所属派遣元が同じかどうかは、分からない。KDDIに限らずリスク集中回避のためコールセンターは分散される傾向にあるから、北海道と沖縄、という極端なケースさえあり得る。
そして、山上文書は、「資金不足」にまつわる問題について一切、回答していない。
《意識できることができました》は、おれの転記ミスではない。山上文書で、そう重複している。
KDDI問題に関しては、監督官庁である総務省にももちろん、取材した。
成果を発表する機会のないまま、一年以上が経過。この会社は二〇二二(令和四)年七月二日、携帯電話業界では史上最悪と今も語り継がれる通信障害を起こす。最大で三千九百万回線がつながらないなどの影響を受け、復旧までに三日以上を要した。
渦中、おれは契約しているこの会社のものとは別の回線を使い、必ずつながるはずの本社中枢部の電話を鳴らした。つながって相手が出たが、すぐに切られた。
障害が発生した最初の晩、東京・国立市中一丁目にある、高橋誠社長(一九六一-)邸宅に、電車で向かった。JR中央本線「国立」駅から徒歩五分ほどに立地する。
黒塗り緑色ナンバーの同業者のハイヤーが、邸宅前の狭い路地になん台も止まっている。
「TAKAHASHI」の筆記体文字が立体的にデコレートされた門扉のチャイムは押せば鳴るが、薄暗い照明の灯る家屋内からの反応はない。同居の家人はどこかに避難しているのだろう。
障害発生から二十四時間以上経って、この会社はようやく記者会見。横浜国立大工学部卒で技術者出身の高橋社長が、お出ましになった。
この年の七月二日は土曜。翌週の金曜、元首相の安倍晋三(一九五四-二〇二二)が、遊説先の奈良で撃たれ死んだ。
同月下旬になってKDDIは、「お詫び」として利用料から一律「二百円」の補償金を返金すると発表。怒りを通り越した利用者から嘲笑された。
おれへの書簡に「プチ三太郎」グッズを同封してきたこの会社の価値観が、世間と大きくずれていることを物語る。
総務省は八月三日、史上最悪の障害について、「電気通信事業法に基づく『重大なる事故』」として、KDDIと、連結子会社で地域会社、沖縄セルラーに対し厳しい行政指導を突き付けた。
この会社、関連事業所との間でおれは、個人的な問題が解決したとも、なにかが解消されたとも一切、思っていない。
(「参拾参の7 電子証明書の有効期限」に続く)




