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参拾の4 意図的に謀って作成、差し出し

 日本郵便のインターネット公式サイトから再配達の依頼をし、UR都市機構の代理人を務めるという高下謹壱法律事務所の弁護士からの内容証明郵便を、翌日の二〇二四(令和六)年二月二十八日に受け取った。文面は、団地一階集合ポストに投函されていた「レターパックライト」の内容と同じ。

 三週間近く前の同九日付け同法律事務所発の内容証明郵便およびレターパックライトと並べて比べてみる。

 内容証明郵便はいずれも日本郵便のテンプレートを使いデジタル上で発出しているから、文面以外に違いはない。「株式会社三和」顧問弁護士、藤間崇史のように、差し出し人欄と宛て先欄を逆に記入した誤りもない。

 レターパックライトは一通目も二通目も、宛て先欄のおれの住所、氏名は、紙に印刷したものを貼り付けている。文具店で売っているような専用ラベルではない。上質紙を手作業で適当な大きさに切り取り、手作業でのり付けしたような粗末な代物だ。

 差し出し人欄は、法律事務所名と住所、弁護士二人分の氏名、電話番号、ファクシミリ番号が、スタンプ印で()されたようなあんばい。


 この種の郵便物を受け取る際、おれは、差し出し人欄の記入方法を見て、その差し出し人が正統なビジネス・マナーを備えているか否かの判断基準の一つとする。


 日本郵便のレターパックには横書きの《お届け先/To》欄、《ご依頼主/From》欄のいずれにも、右端に《様》が最初から印字されている。おれは、レターパックを差し出す際、依頼主つまり差し出し人である自身の住所、氏名など欄の《様》を、斜め二重線で消す。印刷屋で作ってもらったおれの住所、氏名、電話番号、電子メールアドレスなどを刷り込んだ名刺大のラベルの場合、《様》が隠れるよう、欄の右隅に貼る。

 ビジネスに限らず、例えばなにかのパーティーへの出欠を問う返信用はがきで、《ご出席》《ご欠席》の《ご》を消した上で《出席》または《欠席》の二文字を丸で囲むのと同じ発想かつ要領だ。そして、返信用郵便の宛て名欄は個人名や法人名にたいがい小さく添えられる《行》の文字を同じように消し、《様》か《御中》を書き足す。

 これらの社会常識が、もはや崩壊している。

 高下謹壱法律事務所発のレターパックは二通とも、差し出し人欄の《様》が消されていない。受け取り人欄の《様》は、粗末な紙に印字されているおれの氏名に付けた《殿》と、敬称が重複している。


 郵便におけるビジネス・マナーの崩壊は、書面を郵便でやり取りする機会が激減しているという時代の変化と無関係ではあるまい。しかし、日本の法律事務所は、弁護士は、あるいは司法の現場は、令和の今も全面デジタルに移行できていない。脈々と「紙」文化が続いているではないか。

「株式会社三和」顧問弁護士、藤間崇史に至っては、日本郵便テンプレートの内容証明で、差し出し人欄と受け取り人欄を取り違え、おれに届いたのは、差し出し人のための「控え」である謄本だったことは、すでに述べた通り。テンプレート内で、おれは呼び捨て、藤間弁護士には《様》が付いていることのおかしさに、おれが指摘するまで藤間崇史は気づかない。指摘しても今も理解できないままかもしれない。


 彼ら例えば弁護士、法律事務所は、おれとは別の事件関係者や依頼主(クライアント)、公的機関に対しても、このような礼を失した書面を郵便でやり取りするなどしているのだろうか。

 分からない。

 おれが貧民(くつ)に住む貧民だから、彼らはそろってそう認識しているから、こういう扱いなのだろうか。

 両方だと思う。

 つまり、時代的、世代的に、従来のビジネス・マナーが、社会常識が通用しなくなった。加えて、相手によって用心の度合いを調節している。依頼主や公的機関向けの郵便では、注意を払う。おれを狙って意図的に無礼を働いている、集中投下しているのだとまでは、今のところ、おれは思わない。


 高下謹壱法律事務所からのレターパック二通の品目欄は、一通目は《書類》で、宛て先欄、差し出し人欄の活字と同程度の太さの手書き。二通目の《令和6年2月26日付/回答書》は、それと比べ著しく太い手書き。太さがあまりにも異なるから、同一人物の筆跡か否か判断できない。


 おれは、こんな文面を、普通郵便とファクシミリで並行して高下謹壱法律事務所に宛て投函、送信した。前回同様、送信ミスやなんらかの原因による先方の個人情報漏洩に配慮し、ファクシミリの方は、法律事務所名と弁護士の肩書きを外した。


《 二〇二四(令和六)年二月二十八日

高下謹壱法律事務所

弁護士 高下謹壱様

弁護士 植田 浩様

  〒二二七-〇〇三六

  横浜市青葉区奈良町二九一三

  奈良北団地二号棟八〇五号室

  森史×

  携帯電話〇九〇-××××-××××

  ファクシミリ〇四五-九六一-二〇七七

  電子メール ××××@××××


冠省 貴職ら発二〇二四(令和六)年二月二十六日付け当方宛ての、《回答書》なる頓珍漢(とんちんかん)な表題が打たれた、やはり頓珍漢な文面が印字された用紙を、内容証明郵便(受付通番G〇〇九三八〇七〇〇〇一〇〇〇〇一号、問い合わせ番号一三三-八八-〇二九九一-一)ならびにレターパックライト(問い合わせ番号九九九四-四二六九-五四九五)で拝受しました。

 両郵便物の「頓珍漢」な表題、文面について、貴職らにおかれては十分認識の上で意図的に謀って作成、差し出されているのだと思料しますので、どこがなぜどのように「頓珍漢」なのかに関し、当方としていちいち指摘するようなことは致しません。

 本状と同趣旨の文書を、ファクシミリ送信します。ファクシミリでは誤送・外部漏洩の可能性が懸念されることから、貴職らの肩書等を省きました。  草々》


 その後、UR都市機構や関連事業所、高下謹壱法律事務所からも、株式会社三和、スーパー三和奈良北店、藤間崇史弁護士からも、神奈川県警青葉署など官公庁からも、なにも言ってこないまま、うるう年で二十九日まである二月は終わった。

 春の定期異動で県警本部に警備部公安一課長として転出するという青葉署長で公安専務員、橋谷田裕樹(はしやだひろき)が、ジェネラリストとして、青葉署での最後の仕事としておれの事件を蒸し返すために必要な時間は、限られてきている。


 夭逝した美しいシンガーソングライターと内縁関係にあったと主張する、青葉署留置施設で同室だった四十番の男、野村(のむら)と、詐欺罪の共犯者、橋本(はしもと)の、三月六日に指定されていた公判は期日が取り消され、それぞれ四月二十五日と、それより一週間早い同十八日が新たに指定された。

「コロナ禍バブル」で複数の金融機関から十億単位の融資を受け焦げ付かせ詐欺の罪で起訴された、パン・洋菓子製造販売会社元社長、石川民夫(いしかわたみお)(一九四六-)の判決公判は、予定通り三月七日に横浜地方裁判所(ちさい)であった。

 横浜地方検察庁(ちけん)による懲役七年の求刑に対し、横浜地裁が言い渡したのは、懲役四年六月。実刑だ。七十八歳の誕生日を迎えたばかりの石川は、警察の留置施設での身柄勾留状態から引き続きで刑務所に収監されることになる。

 実刑判決の場合、検察の求刑の七-八割を超えれば重い、下回れば軽いと、おれたち報道記者は受け止める。それに当てはめれば、裁判所の判断は、やや軽い。


「今回の事件の刑期を終え、社会に戻って穏やかな生活を送ってください」


 公的資料によれば司法修習五十三期で、一九八一(昭和五十六)年生まれの四十二歳、白石篤史判事は判決理由を述べた後、被告人、石川にそう語り掛け、法壇後方の扉から姿を消した。

 石川も横浜地検も控訴せず、そのまま刑が確定した。


(「参拾の5 シャブ抜きキャリア」に続く)

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