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アスキーアートに法曹ぶち切れーーカスハラ容疑で不当逮捕ーー  作者: 森史之助
弐拾肆 内から見るか? 外から見るか?
167/235

弐拾肆の1 野村さんに解任される

 横浜地方検察庁(ちけん)を差し出し人とする、こんな内容の封書を受け取った。


《【銀行納付の手続きについて】

1 この納付書を使用して、日本銀行本店・支店・代理店・又は歳入代理店となっている最寄りの銀行(ゆうちょ銀行を含む)、信用金庫の窓口で納付してください。但し、農協、信用組合、ATMやコンビニでは使用できません。

 ※ 納付の手数料は、かかりません。

2 納付期限が過ぎてしまうと納付はできませんので、ご注意ください。

3 銀行等で納付するのではなく、検察庁に直接持参、又は現金書留郵便により納付する場合には、必ずこの納付書を持参、又は同封してください。

4 納付告知書・督促状(1枚目)に表記された「罰金・科料・追徴・過料・訴訟費用」など納付金の表示は、銀行に提出する納付書(2枚目以降)には「A、B、C…」で表示されているため、銀行の職員には分かりません。

  窓口で納付するときに、一枚目の納付告知書・督促状は必要ありませんので、外してください。

5 本状と入れ違いなどで、既に納付しているときは、お手数ですが、お知らせください。

  なお、御不明な点がありましたら、下記にお問い合わせください。

   横浜地方検察庁

   徴収担当

   直通045―211―7571》


 日本郵便による消印は、二〇二三年九月二十三日付けだ。横浜簡易裁判所(かんさい)で受けた罰金二十万円の略式命令を拒否し公判に持ち込むための期限である九月十三日の十日後。

 地検側も、おれの出方を見ていたと考えられる。公判に持ち込むための手続きを隣の建物の横浜地方裁判所(ちさい)にしていないことを確認した上で、郵送してきているのだと思った。

 同封のカーボン仕様の用紙は、こうだ。


《督促状(甲)

 (住所)

 227―0036

 横浜市青葉区奈良町2913番地

 奈良北団地2棟805号

 (氏名)

 森 史× 殿

(注意)

1 別添納付書を日本銀行本店、支店、代理店又は歳入代理店に持参し、現金を納付してください。なお、先に送付した納付書(納付期限は経過したもの)は、使用できません。

2 右の納付期限内に納付しないときは、検察官において強制執行の手続きを取ります。罰金、過料を納付しない場合は、検察官において労役場に留置する手続きを取ることがあります。

 納付すべきもの 罰金

 納付金額 ¥200000

 納付期限 令和5年10月4日

 令和5年8月30日 横浜簡易裁判所 略式命令

 上記金額が未納ですから、上記納付期限内に納付してください。

 調定番号 令和5年第118号

 取扱者 寺山》


 督促状とされていることや、その内容から、これより前に《督促状》ではない《納付書》が存在したらしいとも読み取れる。納付書なるものは、手元には残っていない。

 おれが紛失したか、地検が故意か過失で発送していないか、なんらかの事情により地検に回収されたことをおれが忘れているかだ。

 もし納付書をこれより前に受け取っているとすれば、それは、地裁への公判持ち込み期限前だった可能性もあるが、記憶にも、複写(コピー)などの記録にもない。


 公判に持ち込む場合、八月三十日の簡裁命令は効力を失うから、おれは遅くとも、その期限(リミット)である九月十三日までは納付しない構えでいた。

 持ち込むのをあきらめてからも、極力、納入を遅らせるつもり。十数年前同様、督促状に記されている通り、労役場留置を選択することも念頭にあった。


 そんなことよりおれは、叔母の中村由紀子(なかむらゆきこ)と、その自慢の長男である熊本県警公安・外事専務員で、任警部として熊本東署熊本空港警備派出所長に修行に出されている中村(ひろし)が、おれの勾留されていた神奈川県警青葉署にいったいなにをしたのか、青葉署がなにをどう応じたのかを、確認しなければならない。

 なぜなら、青葉署留置管理課長(当時)片山勝太は、中村宏と同じ公安専務員で、中村宏と同じように任警部として、公安専務とは縁遠い留置管理部門で修行させられている。また、片山の上司に当たる青葉署長(当時)で警視の橋谷田裕樹も、中村や片山と同じ公安専務員だからだ。公安警察のネットワークをどう活用し、それがおれに対する捜査や司法判断にどんな影響を与えたのか、あるいはまったく与えなかったのか、検証しなければならない。

 そして、宏の実母である中村由紀子がいうところの「神奈川県の弁護士()会」との中村親子の接触が、利益相反関係にある株式会社三和顧問弁護士、藤間崇史にどう伝わったのか、把握しなければならない。


 地裁での公判は、あきらめた。しかし、自身の利益のため、将来において身を守るため、実子である娘に類を及ばせぬため、これらに決着を付けなければならない。


 全国四十七都道府県警が独立している半面、公安部門はひとまとまりで実質的な国家組織だと、何度か述べた。熊本県警・中村宏と、神奈川県警・片山勝太は、そろってその春、任警部、つまり警部の階級に昇任して初めての部署に就いた、いわば「同期」だ。

 昇任の際、都道府県警の警察学校、全国六カ所にある警察庁管区警察局の警察学校、東京にある警察庁の警察大学校のいずれかに「入校」する。どこにどれくらいの期間、入校し、なにを修めるかは、昇任する階級や、本人の年齢つまり定年退職までの年数、専務によって異なるし、時代背景でも変わる。

 警察学校、警察大学校での修練に限らずかの社会では教育を施すこと、それを受けることを指し、「教養(きょうよう)」と称する。警察本部の警務部に、教養課などそれを担当する部署が置かれる。


 実質的な国家組織である公安部門の公安に関する「教養」は、だから、警察庁に集め行うことが多い。だとすれば、「同期」である中村宏と片山勝太は、警察庁の警察大学校で面識があるかもしれない。

 だけど、同じ公安専務員でも、外事専務はやや特殊で、専務性も完全には一致しない。

 いずれにしろ、公安警察は、戦前・戦中の秘密警察である特別高等警察(とっこう)直系だから、その教養もベールに包まれていて、どこで誰がなにをしているのか、外部はおろか、警察内部の者でも関係者以外、正確には把握できない。


 公安専務員、片山勝太が課長として任されている青葉署の留置管理施設を、観察(ウオッチ)することにした。被疑者(わるもの)被留置者(しゅうじん)のおれは、(おり)の中からしか施設を見ていない。

 新聞記者時代も、留置場にはなかなか近づけなかった。囚人との接触を図ると疑われるし、実際におれたちは、図っていた。そのために担当警察官を懐柔しようとしていると疑われるし、常に懐柔を試みた。


 記者クラブ員の特権もシバリもないから、一般人として正規ルートで行く。被留置者との接見目的でだ。幸いなことに、同室だった四十番の男、野村とは、気心が知れている。野村と接見、つまりアクリル板越しに面会する。

 しかし野村は、おれと一緒に中にいたころは接見禁止処分が付されていた。弁護士でなければ、接見できない。

 接見禁止は、いつ解けるかーー。早くても、公判が始まってからだろう。

 檻の中で牢番の留置管理課員と野村がやり取りするのを聴いて、あるいは書面を盗み見て、第一回の公判が十月の一桁つまり初旬の日付けを指定されていたのを覚えている。

 正確な期日を知るためおれは、横浜地裁に電話で問い合わせた。しかし、おれが覚えている野村のフルネームを被告人とする公判は、十月初旬やその周辺では指定されていないと、電話に出た担当者は言う。

 しくじったーー。野村の正確なフルネームを、確認していなかった。こんなことに、つまり自身が釈放されてからも野村に接触しなければならない事態に発展するとは、野村と一緒にいる時には予見できなかった。

 公判が始まって接見禁止が解けるのであれば、その後ならいつでも接見できることになるのだが、身柄を拘置所に移される可能性が高まる。そもそも警察の留置施設は、「代用」監獄なのだ。

 そして、野村の身柄が拘置所に移ってしまうと、もはや青葉署の留置施設には知人がおらず、接見名目で入り込むことはできない。野村が身柄を移した先の拘置所に、おれは用も関心もない。


 おれの妹がおれの「安否」確認のため青葉署に問い合わせたようにはいかない。妹がおれの親族であり、青葉署地域課が管理する巡回連絡簿のおれのカードに妹の連絡先が記入されているから、身元が明らかな彼女はおれの身柄拘束を知ることができた。

 接見禁止の状態で青葉署詣でを繰り返すわけにもいかない。おれの(めん)も素性も署員に知られているから、合法・非合法のさまざまな手口で追い返される。彼らの虚を突いて一発で決めなければならない。


 野村の私選弁護人を攻めることにした。京都の弁護士と野村は言っていたし、郵便物の差し出し人欄を盗み見して、事務所名や個人名は分かっている。

 素性を明かさぬため、スマートフォン「青色二号機」を使い、本名とも本稿を書いている「森史之助」とも異なる別の雅号(ペンネーム)を名乗った。横浜地裁での野村の公判の事件番号か、初公判の日を知りたいと申し出た。


依頼人(クライアント)とは、どういうご関係ですか?〉


 男声の事務職員から尋ねられた。弁護士は外出中だという。


「友人です」


 友人なら知っているはずの野村のフルネームを尋ねることはできない。申し出そのものが破綻してしまう。


〈ご友人の方でしたら、ご本人に直接にお聴きになってみてはいかがでしょう〉

「それが、接見禁止を食らっちゃってるみたいなんです」

〈…分かりました。弁護士には伝えておきます〉


 期待せずにいたら、その日の夕刻、「青色二号機」が京都の事務所からの受信を告げた。


〈教えられるわけないだろっ!そんなことしたら、 野村さんに首にされちまうじゃないかっ! 弁護人を解任されちまうじゃないかっ!〉


 年配の、弁護士本人からだった。


(「弐拾肆の2 三日目の正直」に続く)

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