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『12 出会い』

エイルに所持金を渡して街に置いて来た後になります

さて、今の俺は魔法で雲の上にいる。

浮遊魔法がダンジョンで順当に進化したものだ。


人間らしく馬車を使って移動と洒落込みたいところだが、なにぶん金がまったく無い。

換金するにも、エイルのいるアイシスの街では、目立つ行動は極力控えた。

ダンジョン産の財宝は、コイン1枚で大金になる代物だからな。


そのような経緯で、高速で空の上を移動中の身だ。

そして、ようやく街らしい建物が見えてきた。


空を飛べば関所もクソもないのだが、

かといって、空から街に突撃するほど非常識でもない。無駄に目立つ必要はないだろう。

俺は、街の手前に降り立って、周囲に誰もいない事を確認してから、

平民を装って街に近づいた。


この街の門番は、非常に緩く、あっさりと街に入れてくれた。

アイシスの街もそうだが、帝国は平民にやさしい国なのだろうか。


今はひとまず換金所で帝国通貨を得るべきだろう。

俺は換金所の建物に入った。


「見ない顔だな。何を換金する?」


さて、何にしようか

マジックストレージに金品財宝は山ほどある。

ヴォルクスのダンジョンから持ってきたものだ。

これでも、あのダンジョンの財宝のほんの一端に過ぎないから恐れ入る。


騒ぎになると面倒なので。あまり目立つ物は避けた方がいいだろう。

上層にあった宝箱の中身くらいが丁度いいところか。


「この首飾りだが。いくらになる?」

「ん?って!何だ!これは!?」


「ただの首飾りだろう?」


これと同じ品格の装飾品など、いくらでもある。

あのダンジョンでは、タペストリー感覚でそこいらに無造作に飾ってあるからな。

そこまで貴重な物か?


「と、とんでもない!こいつはとんでもないお宝だぞ!」

「そうなのか?知人に貰った物だが」

「それはどこの大富豪だ!?」


古代種の竜と言っても、気が触れた奴と思われるだろう。

少し、伝え方を間違えた。


「というのは冗談で、実はダンジョンで手に入れた物だ」

「ダンジョンか!しかし余程上級のダンジョンみたいだな!」


それは保証しよう。アレ以上に狂ったダンジョンは、少なくとも俺は知らない。


「それでいくらになる?」

「悪いが、高価過ぎてウチでは買い取れねえ。ギルドにでも行きな」


それは困った。冒険者は廃業している。ギルドは出禁なのだ。


「では、この金貨はどうだ?」

「太古の白金貨!?どこの貴族のコレクションだ!?そんな物をここで扱えるか!それこそ役所かギルドに行け!」


俺の所持品で一番価値が低そうな物がこれだ。つまり売る物が無い。

ヴォルクスの奴。適当な物も置いておいてくれ・・・

と言っても、あいつが自分の棲み処に中途半端な品を置く訳も無いか。


「それでは魔物の死体はどうだ?部位でも構わないか?」

「モノによるが何だ?」

「ダークキマイラの角だ」

「Sランクの魔物のレア部位じゃねえか!そんな物をウチで買い取れるかっ!」


これもダメか。あのダンジョンで一番弱い奴から取った物が、コレなのだが。

冒険者ギルドでは、喜んでくれそうな品だが。買い取りを却下されてしまった。

その後、コカトリスの胃袋、レイスの闇衣を見せたが、反応は同じ、いやどんどん悪くなる一方だった。

困った。高価な物は山ほどあるが、金が無いという矛盾。


いっそ露天でもやるか

・・・うむ。ナイスアイデアだ。

我ながら天啓を得たと思う。


俺はさっそく、品質の低い物を、並べて露天をしてみた。

しかし、俺の隣の商人は、俺の商品を見て目を剥いて仰天していた。

俺の商品に何か問題があるのだろうか?


ダンジョン上層の装飾品に、

リヴァイアサンの鱗、ベヒーモスの牙、世界樹の雫など、

加工が簡単で馴染みやすい逸品を並べたと思うのだが


「値札が無いわね。この首飾りは、いくらなのかしら?」


声に気付いて振り向くと、金髪の身なりのいいお嬢様が目の前にいた。

強気な感じの、とても可愛い女の子だ。ツインテールという髪型が非常に似合っている。


ここまで顔が整っている女の子は、なかなかいないだろう。

思わず見惚れてしまった。

さて、初めてのお客様だ。気を取り直していこう。


「ああ、いらっしゃい。そうですね、いくら出しますか?」


残念ながら、金銭感覚がゼロだ。

今日は、言い値で売ってその金で宿を取ろう。


「む、難しいわね!」

「言い値で結構ですよ?」


目の前の女の子は妙に真剣に悩んでいた。

俺はさっさと品物を売って店を畳みたいのだが。

女の子はその場で考え込んでしまった。


「な、なかなかやるわね!」

「なにが?」


この子の言っている事が分からん。

今の会話のどこに駆け引きがあったのだろう?


「これだけの品を見せて、私を試そうとしているのね!」

「何か誤解があるようだが・・・」


この女の子は可愛いが、そそっかしい性格のようだ。

思い込みが激しいとでもいうか、勢いが物凄い。

しかし、嫌な気分はしない。逆に楽しい気分させるような不思議な魅力を感じた。


「今日の所は引き下がるわ。後日また来るからねっ!」

「あ、ああ」


そして、謎の少女はボディーガードらしき男達を引き連れて去って行った。

あれだけのお供が付いているとなると、やんごとなき身分の人だろう。


面白い子だが、その反面、厄介な子に目を付けられたかもしれない。

俺は危機を感じて、その日は店を畳んだ。


結局、郊外に出てサバイバル生活をする事にした。

使える金が無いので仕方ない。


あのダンジョンに比べれば、この周辺の魔物を狩るなど容易い。

そして、ダンジョンの極寒や灼熱の床に比べればここの草原は実に快適だ。

元々、どのような場所でも寝られる冒険者だ。野宿は慣れたものだった。


***


さて、夜が明けたが、どうするべきか。


昨日の様子では、この街で商売を続けるのは、難しいかもしれない。

まず、間違いなく昨日出会った女の子と再会するだろう。


あの女の子は、どう見積もっても貴族か豪商の娘だ。関わりあうと悪目立ちする事は間違いない。

街の人に聞いたところ、ここから少し離れた所に大きな街があるらしいから移動した方がいいかもしれない。


俺はエルスト帝国の都市、ラモラックに向かった。

今回は徒歩で行く事にしよう。

たまには運動しないとな。


そして夕暮れに、領地の中心都市ラモラックについた。


「流石に中心都市だけあって人が多いな。たいしたものだ」


ガシャーーーン!!


しかし、街に到着して俺が宿を探している時に、遠くでガラスが割れる音がした。


「きゃあっ!や、やめてくださいっ!誰かっ!誰か助けてっ!」

「大人しくしな。誰も来やしねえよ」


そして、若い女の悲鳴に複数の下品な男の声。

どうやら、お楽しみの最中の様だ。


「アレンといい、こういう輩は、どこにでも湧いて出る様だな」


冒険者を廃業した俺としては、

荒事に首を突っ込んでもメリットは無いが、女性が理不尽に暴行されているのを見過ごす程腐ってはいない。


「へっへっへ、まずは裸にひん剥いて・・・」

「そこまでだ」


「あっ!?なんだお前、ぐえっ!?」


俺は、女に覆いかぶさっていた男の首を掴まえて、そのまま壁に投擲した。

男はその勢いで壁に激突し、潰れて鮮血が飛び散る。


「きゃっ!」


目の前で襲われた女の子が悲鳴を上げていた。

少し力加減を誤ったようだ。


倒れている女の子は、とても美しい女性だった。

そして、服を破られて露になっている素晴らしき双丘。

大切な処は辛うじて下着で隠れているが、タダで見て良い物では無い。


俺は無造作にマジックストレージの中から女物の服を女に差し出した。

豪華ではないが、清楚で気品のあるドレスだった。

ヴォルクスの奴、流石のセンスだ。


「これで、胸を隠しておけ」

「あ!うあ・・・」


自分の胸が露になっている事に気付いた女の子は顔を真っ赤にして服で胸を隠した。

恥じらった仕草がまた魅力的だ。


「ボ、ボスが!な、なんだテメエは!」

「通りがかりだ。お楽しみの所悪いが、見過ごす訳にもいかない」


「なんだとこの野郎!」

「格好つけやがって!後悔しやが!」


ベキッ!ブシューッ!!


口上を垂れている男の腕がありえない方向に曲がり、骨が突き出て血が噴き出す。


「黙れ」

「あぎゃっ!お、俺の腕がっ!!」


「女の子1人を複数の男が襲うとは・・・情けないにも程がある」


「こ、こいつ!強いぞ!」

「お前らが惰弱過ぎるんだよ」


「ぐぎゃあっ!!!」

「ひぎいっ!」

「ぐえっ!」


そして、俺はゴロツキ共に徹底的な教育を施した。


***


「もう、二度とこのような事は致しません!我々が情けないカスでありました!」

「こう言っているけど、こいつ等を許せるか?」


「ひっ!」


「いや、そこで俺に怯えられても困るのだが」

「あ、あの、それくらいでもう・・・」


「ん?ああ、少しやり過ぎたか」


目の前に広がるのは、徹底的に教育を施され、直立不動の姿勢で整列しているゴロツキ達。

死なない程度に痛めつけて、エクスポーションをぶっかける。という生ぬるいサイクルを繰り返したら速攻ギブアップした。

所詮はゴロツキだ。こんなものだろう。


そして、最初に投擲したボスらしき男は、壁に激突して肉片と化していた。

アレはまあ、自業自得だ。わざわざ蘇生させる義理も無い。

そして、これらの所業は目の前にいる女の子には刺激が強過ぎたようだ。


「悪いな。女性には刺激が強過ぎた。大丈夫か?」

「は、はい。あの、この服は」


今着ている服も可愛いが、胸の所が破けて全開だからな。

大変立派な物だったので、大切にその服で隠して欲しい。


「その服で肌を隠してくれ。しかし災難だったな」

「助けてくれて、ありがとうございます」


「ああ、無事で良かった。さて、お前達」

「はい!何でしょうか!」


ゴロツキも、すっかり俺に従順になったな。

教育が隅々まで行き届いた様だ。


「俺はこの女性を役所に送って行く。お前達は自警団に自首しろ。いいな」

「「「イエス!サー!」」」


誰が、サーだ。

そして、ゴロツキ達はキビキビとした動きで自警団の詰所へ向かった。

ヒロイン登場回です

長くなったので、次話に分けました。

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