『13 令嬢ティナ』
ティナを保護した続きです
俺は助けた女の子を役所に預けに行った。
建物に近づくと、侍女らしき女がオロオロしているのが見えた。
きっと、この子の関係者だろう。
「ティナ様!貴様!お嬢様に何をした!」
「待ちなさい!レイナ。この方は私の命の恩人です」
「こ、これは!侍女の私としたことが、お嬢様の恩人になんという無礼を、この失態は命に代えて」
「いや、代えなくていい。俺はただの通りすがりだ」
「通りすがりの方が、命を懸けてお嬢様を助けたと!なんという高貴な精神でしょうか」
帝国には変人が多いのだろうか?
昨日の金髪令嬢といい。変人の遭遇率が高い。
それにしても、侍女にお嬢様か。
「君は、貴族のご令嬢だったのか?」
「は、はい。申し遅れました。ラモラック伯爵の長女、ティナと申します」
ラモラック?この街と同じ姓名か。
という事はここの領主の身内だろうか?
「ルクスと申します。伯爵令嬢でしたか。しかし、お供も付けないであのような場所に行くのは、流石に危険が過ぎる」
「も、申し訳ございません」
「お嬢様、そのお姿は・・・一体何があったのですか?」
「説明は建物の中で聞けばいいだろう。まずは、破けてしまった服を直さないとな。良かったらその服を着てくれ」
「えぇっ!?こ、こんな高価なドレスを?」
「それは拾い物だ。そこまで気にする必要なないぞ?ドレスも男の俺が持つより、可愛い女の子に着られた方が嬉しいだろう」
「そんな、可愛いだなんて・・・」
「それよりも、その姿は刺激が強過ぎる。早く着替えてくれないか?」
「あ、う・・・わ、分かりました。でもこのお礼は」
「それなら、少し金銭を工面して欲しい」
「金銭を?どういう意味ですか?」
レイナという侍女が、金銭という言葉に警戒心を強めるが、
顔を赤く染めたティナが声を遮った。
「そ、その前に着替えさせてください」
「お嬢様!も、申し訳ございません!こちらの建物でお着替え下さい!」
慌ただしい2人は建物の中に入って行った。
まさか、助けた相手が、貴族令嬢とは思わなかった。
なぜ、路地裏みたいな、ゴロツキが集まる様な危ない場所で襲われていたのかが謎だ。
目立たないように行動しているつもりだが、身分の高い相手に出会う確率が妙に高い。
どうも、運命の歯車はおかしな回り方をしている様だ。
そして、ティナと呼ばれる令嬢は、例のドレスに着替えて現れた。
俺は、その美しさに視線が釘付けになってしまった。
「驚いた。とても似合っている」
「ありがとう御座います。しかし、この様な素敵なドレスは見た事がありません。他国の王族に伝わるドレスなのですか?」
「ダンジョンで拾ったものだ。そこまで萎縮する必要はないぞ」
「まるで、御伽噺のお姫様の様に美しいです」
侍女のレイナも、ティナの姿に見惚れていた。
ヴォルクスの奴、流石にセンスがずば抜けている。
あいつのコレクションという事は、太古の王侯貴族の逸品か、それ以上の可能性もあるだろう。
偽物や半端な品がヤツのコレクションにあるワケが無い。
おかげで、俺が文無しから抜け出せないという矛盾が発生している。
しかし、ヴォルクスのコレクションのドレスも相当な品だが、
それを見事に着こなす、ティナという女の子の器量も大したものだ。
正直、今まで出会った誰よりも美しい。
「こ、このような、素晴らしいドレスを、私が着てしまって良かったのでしょうか」
「似合っているし。俺も目の保養になる。いいじゃないか?そのまま着ていても」
「そうは参りません。ティナお嬢様の危機を救って戴いた上にこの様なすばらしいドレスまで」
「ティナお嬢様は」
「ティナとお呼びください」
「しかし、俺は身元不明の平民です。貴族には礼節を持って応対するべきでしょう」
「貴方は、私の命の恩人です。あのままでは私は自害するしかありませんでした。様などつけないでください」
エイルといい、潔癖な、死にたがりが多い。
女の考え方かもしれんが、俺から見れば、あまりいい気分はしない。
大体、それで死んだら、親しい人が悲しむだろう。
おっと、少し脱線した。
「それではお言葉に甘えて。ティナは伯爵令嬢でしたね」
「はい」
「実は買い取って頂きたい物があるのですが、自分は隣国のグラッセ王国から来て間もない身。勝手が分からなく困っていたのです」
「そうでしたか。グラッセ王国は良くない噂を耳にします。大変だったのでしょう」
「そのように言って戴けると救われます。話というのは、私が所持している品を伯爵様に縁のある商人に買い取って頂きたいと思いまして」
「父に縁のある商人ですか?」
「何か不都合があるでしょうか?」
「いえ、美術品となれば、収集家である父が、最初に見定めるでしょう。
そして、商人以上の恐ろしい程の目利きです。
贋作などがあれば間違いなく不機嫌になります。
その時はルクス様との話が流れる可能性も考えられるでしょう」
「それは逆に願っても無い話です。商品にだけは自信がありますので」
「確かに、このドレスには驚きました。ルクス様が言うのであれば大丈夫かもしれません」
***
俺はラモラック伯爵邸に歓迎された。
やはり、ティナはここの領主の娘だったようだ。
しかし、領土を持つ、伯爵位の貴族が、
娘の恩人とはいえ、平民の俺をあっさり歓迎するとは思わなかった。
グラッセ王国の貴族では、到底考えられない事だ。
「君が私の娘を救ってくれた恩人だね。心から礼を言う」
「伯爵殿が頭を下げる等、恐れ多いです。どうか顔を上げて下さい」
「では、お言葉に甘えるとしよう。しかしティナが今着ているドレスは国宝級の逸品だ。我が家でも買い取りは難しい」
「それはプレゼントという事で構いませんよ?」
「気は確かかね?皇帝陛下に献上すれば、御用商人へ取り立てられる程の品だぞ?」
「ドレスも美しい女性に着られたいでしょう。そしてティナお嬢様にこの上なく似合っている。もはや運命すら感じます」
「それについては否定しないが・・・」
「何を言い出すのですか!?お父様!しっかりしてください!」
「う、うむ」
結局、ドレスは高価すぎるという事で、新しい服を仕立てるまで貸すという事になった。
品質が良過ぎるのも考え物だ。
「さて、随分雑談に時間を使ってしまった。ティナから聞いているよ。君の商品を見せて欲しい」
俺は、例のネックレスに加えて、最上層で拾った指輪などを並べた
「こ、これは・・・」
「比較的お求めやすい品と思いますが?」
「本気で言っているのかね?」
「言いたい事は察する事ができます。私にこの品を譲ってくれた相手が、一流の品しか認めないという変わり者でして」
「一流どころでは無いな。この品を他人に譲るとは恐ろしい限りだ。私も骨董品の収集家を名乗っているが、どれも国宝級の宝だ」
随分安いな、国宝級・・・
マジックストレージの中にはもっと高価そうな品々が大量にあるが、それは出さない方が良さそうだ。
骨董品の価格破壊が起きかねん。
「旦那様、お客様が見えられました」
「ああ、そんな時間か、ルクス殿、すまないが一度、席を外させてもらう」
「構いません。急ぐ話でもありませんので」
「ティナ、ルクス殿を客室に案内しなさい。今宵は改めて当家で歓迎しよう」
「良いのですか?私は身元も知れぬ平民ですよ?」
「これほどの品物を持っている人だ、普通の平民は少し無理があるよ。何より娘の恩人に御礼がしたい。それが理由では駄目かな?」
「いえ、お言葉に甘えます」
ここで断るのは流石に良くないだろう。
俺は伯爵家に泊まる事にした。
***
そして、部屋への案内はティナがしてくれた。
恩人とはいえ、先程出会ったばかりの男と、自分の娘を、部屋に二人きりにするというのは不用心な気がする。
この家の親子は人が良過ぎるかもしれないな。
「まさか、客室に泊めていただけるとは思いませんでした。少しお礼が過ぎる気もします」
「ルクス様は私の命の恩人です。これでも足りないくらいですよ」
「身持ちが固いのは貴族の考えかもしれませんが、裸を見られたから、命を絶つという考えは極端だと思いますが」
「裸を見られたまでならこの様な事は考えません。しかし、あのままでは私は野盗の子供を身籠ったでしょう。
当家の血筋を継ぐ者は私しかおりません。その私が穢れた血の子を産むなど。家名に泥を塗る真似をして、どうして生きていられましょうか」
そういう事だったか。エイルと違って、ティナは貴族の娘として生まれた責任を確りと持っていた。
うっかり、失礼な事を言ってしまったな。
「私の考えが浅はかでした。ティナの立場も考えずに出過ぎた事を言ってしまった」
「こうして無事だったのです。恩人の貴方が謝らないで下さい」
そして、俺は伯爵邸の大きな客室に案内された。
「立派な部屋ですね。この様な大きな鏡がある部屋は初めて見ます」
「皇帝陛下や諸侯の方々も宿泊される部屋ですので」
「成程って!だ!」
「だ?ルクス様、どうされたのですか?」
「いや、何でもない」
「?」
鏡を見て、『誰だ!お前?』と言いそうになった所を、なんとか堪えた。
元のリックの顔を毎日見ていたからか。
この顔にも慣れなくてはならないか・・・・・ん?顔?
「ああっ!」
「こ、今度はどうされたのですか?!」
「いや、少し思う所がありまして」
「は、はあ・・・」
今の俺ならば、冒険者ギルドに行けるのではないか?
どこからどう見ても別人だ。
ルクスとして登録すれば、冒険者としてやりなおせる!
しかし、昔とは違って、一度燃え上がった感情が急激に冷めていくのを実感してしまった。
正直、この世界で冒険しても物足りないと思うのだ。
あの、頭のおかしいレベルのダンジョンを踏破した後だと特に。
天変地異を操る、古代種の竜達が自重せずに作ったダンジョン。
そこには絶景の大海原から太陽の照り付ける広大な砂漠まで。
自然界で見られる、ありとあらゆる景色があった。
更には、天界を思わせる天使が舞う光り輝く庭園から、アンデットがひしめく冥府の様な暗い闇の世界まで、
この地上を冒険し尽くしても、出会えない景色が数えきれない程に存在していた。
そして、その創造主である、古代種の連中と渡り合ってきたのだ。
そこいらの刺激では、俺を満足させる事は出来ないと断言出来る。
SランクからSSランクと呼ばれる魔物を雑魚と一蹴する時点で、冒険者としてやっていけないのは間違いない。
冒険者の最高ランクが雑魚なのだ。いったい何を目標にするというのだ?
それに、正直なところ、格付けだの、誰が強いだの、いい加減に飽きていた。
俺の認識が大いにずれているのは、なんとなく自覚している。
現に、隣街で露天をした時の事を思い返すと、若干赤面物だ。
未知の道具や素材を、平然と露天に並べる阿保な姿が目に浮かんできた。
あれを続けたら、市場が大混乱する事は間違い無いだろう。
俺の指針は面白い物を見つけて、人生を楽しむ事だ。
見せる力は最小限に、そして娯楽は最大限に楽しむ。
考え方が、ヴォルクスに毒されている気がしないでもないが。
今更、冒険者に戻る気は、まったく起きなかった。
偶然だが、ティナを助けられたのは、運が良かった。
理由は分からないが、目の離せない女の子だ。
美しい外見で、事故で下着を見たからというのも少し違う。
だが、あの子が野盗に純潔を散らされるのは我慢ならない。
独占欲だろうか?俺もいつの間にか深入りしたかもしれない。
ともあれ、定職に就かず、フラフラするのも人として考え物だろう。
今後の身の振り方を、具体的に決めたほうが良さそうだ。
引き続きヒロイン回でした
昔は根っからの冒険者でしたが、あのダンジョンで完全燃焼しました




