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転生したら生贄だったので残りの人生好きに生きます  作者: 猫宮蒼
ゲームでいうところのめちゃんこ長いチュートリアル
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二人はともだち



「大体何でか私とベルくんが恋人関係みたいな誤解受けてますけど、ありえませんから。仮に私が生贄じゃなくてもベルくんが相手とかないですから。例え世界中の人間が死んで残った男がベルくんで、残った女が私だけとかになってももうその時点で子孫増やそうって思うんじゃなく、あー、ここで人類滅ぶのかぁってなって人類終了のお知らせになりますから。別にベルくんが視界にいれるのもお断りな不細工ってわけじゃありませんしどっちかっていったら整った顔してるんだろうけど、だから何って話ですし」

「確かにこいつ黙ってれば可愛いし将来はもっと美人になるだろうなってのはわかるけど、例え俺とこいつが子作りしないと出られない部屋とかに押し込まれたとしても室内で衰弱死確定だからな。

 こいつとそういう関係にならないと世界が滅ぶとかになったとしても、そうなったらみんなで死のうぜくらいのノリで滅ぶの待つ勢い」


 少女の言葉に続けるようにベルナドットが言うと、二人の両親はなんとも言えない微妙な表情を浮かべていた。それは例えるならば、甘い飴玉だと思って口に入れたら梅干しだった、みたいな。


 二人がどう思っているかは微妙に違う部分もあるが、両者がそういう関係にならないと断言できているのはお互いが転生者であるという事実が大きい。

 どちらかが転生者であるという事実を隠して悟られなければ、もしかしたらあったかもしれないなと思ってはいるのだ。

 しかしお互いに転生者。その時点で何というか……ある種家族のような認定をお互いがお互いにやらかしているといってもいいし、何なら知られちゃいけない恥部のようなものをお互い知ってしまったせいで何というかそういう対象として見られない、と無意識下で思っている部分もある。

 幼馴染で昔から一緒にいて良いところも悪いところも大体知ってる、という間柄ならまた話は違ってきたのかもしれないが、そこまででもない。ただ同郷の人間というだけだ。

 お互い転生者であるという事実をもっと後に暴露していたのであれば、もしかしたら可能性としては少しだけあったかもしれないが、そのあったかもしれない可能性とやらは既に叩き潰されている。

 この時点でお互いがお互いに「ないな」と思っているので周囲が何を言った所でその考えを引っくり返すには何かそれっぽいイベントを複数こなさないと到底無理だろう。


 しかし少女とベルナドットがそんな風にお互いを思っているなんて事を、正確に察することができる人物は生憎この場にはいなかった。


 少女の両親に至っては、ベルナドット君とか素敵な人じゃない、とリリーは思っているしジャンもまた、娘さんをくださいなんぞとぬかすなら一度は反対してみせるがあくまでそれはポーズであり、最終的には許可するんだろうなと思う程度には気に入っている。

 だからこそ、少女がきっぱりと「ない」と言い切る事がわからなかった。


 そしてベルナドットの両親もまた、生贄じゃなかったらうちの息子の嫁にきてほしかったなぁ、と思ってはいるのだ。だって普段は取り繕ったかのような表情をしている息子が、この子と一緒にいる時は表情がとても柔らかいのだ。

 村長に至ってはちょっとさっきの魔石の爆発がショックで落ち着くまでそういった考えが出てくる事はなさそうだが。


 しかしてっきりお互いに許されざる恋をしていると思いきや、お互いがお互いに「無理」とのたまうという状況に、この場にいる大人たちは揃いも揃っておかしな顔をしているところだった。

 いかにもお互いがお互いに特別だと言わんばかりの態度のように見えていたのに、そうじゃない……だと……? 先程少女が家畜みたいなものだと自分の事を言っていたが、じゃあベルナドットのその、少女に向ける優しい表情とかそういうのって丹精込めて育てた結果とかそういうやつに対する……? いやでもさっき少女はベルくんは人間扱いしてたとか言ってたし……? んん……?

 考えれば考える程何だか闇が深くなりつつある。


「わ、わかった。二人がお互いをそういう風に見ていないというのは理解した。わしが勘違いしておったようじゃ」

 だらだらと冷や汗かきつつ村長が言ったが、果たしてこのほんの少しの間に一体どういう風に脳内で展開したことやら。そもそも最初からそう言ってんだろ、と言いたいがここで無意味に喧嘩を売るような発言はしない。下手に混ぜっ返してそこからまた不毛な争いをするような事をするつもりはないのだ。


「そうですか、わかってもらえて嬉しいです♪ ところで村長さん、私、生贄がイヤだとかそういう事はないんですけど、退屈は許せないんですよぉ」

 語尾を上げつつ言う少女に、村長の肩が跳ねた。

 そうだった、さっきの話の流れは大体少女が暇を持て余して結果として何か物騒な事やらかしかけてるのをベルナドットがどうにか身体を張って止めているとかそんな感じだった。と村長が認識したくはないが改めて認識してしまうと、そっと助けを求めるように息子――ロックスへと視線を向ける。その視線を受けてロックスの表情が露骨に引きつった。


「む、むぅ、その、なんだ……」

 普段あまり表情を悟られないようにしていた村長ではあるが、この時ばかりは戸惑いと困惑といったものが隠し切れずに浮かんでいる。

 暇つぶしでやらかそうとした事が先程述べた事であるならば、物騒極まりない。魔石以外で、となるとべリスが被害に遭いそうだし、流石にそれは不味い。少女にとってのべリスはいけ好かないクソアマかもしれないが、村長視点でのべリスはそこまで悪い娘ではないのだ。村長婦人狙ってて別に好きでもないけどベルナドットを狙ってるとか言われた時はちょっとどうかなーと思ったけれど。うちの孫の何が不満だ。そんなちょっとした孫馬鹿が滲み出ている。

「できればもう少し穏便な方法をじゃな」

「穏便……ちょっと気になった巨大工作とかやってもいいですか? えぇ、精々村の中に連鎖式トラップとかそういうの仕掛けるだけです」

「おぬし実は村を滅ぼしたいとかそういうアレか!?」

「いえ、そんな事はないです。ただ、かれこれ数年暇すぎてちょっとおっきなことやらかしたいなーっていう漠然とした思いが私の行動を思い切ったものにさせてるだけです」


 余計悪いわ。


 と言えればどれだけ良かっただろうか。だがしかし、確かに村では少女が生贄に選ばれたという事もあり、そして魔王に献上するのであれば下手に傷物にしてもいけないと思い少女の行動は色々と制限してきてしまっている。そんな中、よく逃亡もせずに受け入れていたものだなと思わないでもないのだ。しかし子供だと思っていた相手が思った以上にえげつない。子供特有の残酷さとかそういうのとはまた違う、何か別方向でのえげつなさすら滲み出ている気がする。

 これは下手な答え方したら状況がもっと悪くなるやつ……と村長だけではなくその場の大人たち全員が理解してしまった。

 そもそもさっきの巨大工作とか、少女が今までやった事のないことを突発的に机上の空論をもとにやらかしたとして、失敗して不発に終わるか思った以上に威力が弱かったとかならまだしも、思った以上に威力が高かった、何てことになれば被害に遭うのはこっちだ。切実にやめていただきたい。


「俺から一つ提案がある」


 どうする、どう答える――!? 内心で焦りに焦っていたところに、孫の一声。

「なんじゃ?」

 この場をどうにかできるならもう何でもいいや、とついその言葉に乗ってしまった。


「こいつが生贄になるのがイヤだっていうならともかく、生贄である事は構わないというのなら、少しだけ他の町とか村に出かけさせてやってほしい」

「何を言っとるんじゃ!?」

「原因は退屈でこの村にロクな娯楽が無い事だ。けどじゃあすぐに何か暇じゃなくなる娯楽をこいつの為にどうにかできるかっていうと無理だろ? じゃあとりあえず近場の町とか村に行かせてやればこことは少しばかり違うわけだし、それなりにこいつも満足するんじゃねーの?

 勿論一人で行かせるわけにはいかないだろうから、お目付け役がいるっていうなら俺が行くが」

「ベルナドット、おぬし自分が何を言っておるのか本当にわかっておるのか!?」

「大丈夫だ。どうせ他の所にいって、ここに骨を埋めたいなんぞと言い出す事はない」


 他所の街にインターネットの環境が整っててネットとかゲームとかそういうのがあれば話は別だが、そもそもそんなものがこの世界にあるとは到底思えない。ちょっと都会らしき街に行ったとしても、少女がここにずっといると言い出すような事はない。仮にいくらここと比べて都会だったとしても、前世に比べれば若干田舎である事に変わりはないのだから。

 しかし当然そんな事実を村長たちが知るはずもないし、ベルナドットも前世の世界について話すつもりは毛頭ない。


 そのせいで村長たちの方に一方的なすれ違いが生じる結果となったために、話し合いは難航を極めた。



「――条件がある」


 何度か同じ話をループさせたりしつつもどうにかこうにか進展した頃には、結構な時間が経過していた。村長に至っては冷や汗かきまくりで疲れ果てているせいか、まるでフルマラソンを完走した後のような疲労困憊具合ですらあった。

 結果として、その疲労のせいで判断力が鈍ったのではないかとベルナドットも少女も思っているのだが、そこを口に出してまた冷静に考え直すとか言われると面倒なので話をそのまま進める。自分たちに不利になりそうならば横やりとていくらでもいれるが、今の所はそうでもなさそうなのでわざわざ余計な事を言う必要もない。


「まず、行先は一つ。ここより遥か離れた場所に王都がある。そこにはわしの弟が住んでおるから、その伝手でもって王都へ行くのであれば許可しよう」

「ふむ、まあ目付け役に俺がって言ってもそれだけじゃ信用ならんだろうしな。他に監視をつけるならじいさんの弟っていうなら適任だろうよ」


「次に、住む場所くらいは弟の方でどうにかできるだろうが、生活にかかる費用はそちらでどうにかする事。この村で暮らす分であるならば、こちらでどうにでもできるが流石に他の街ともなればそこまでの負担はできぬ」

「もし、その費用が自力で稼げなくなった場合は?」

「その場合は期間関係なく帰還せよ」

「ま、妥当だな」


 正直ちょっと駄洒落っぽいなと思いはしたが、そこは拾わずに頷くだけにする。


「最後に。弟の伝手でもって王都で住む場所が得られたとしても、わしらの方で王都まで連れていくことはできぬ。自力でどうにかせよ。そして期日までに戻って来る事。これが絶対条件じゃな」


 思った以上に条件が緩い。期日までに戻ってこれそうにない場合とかどうするのだろうと思いはしたが、少女もベルナドットも最大限どころか天元突破する勢いで譲歩されているなと思いつつも頷く。少なくとも村長の言葉から今の所こちらに不利な事はないように聞こえる。


「わかった。それで、じいさんの弟の伝手っていうけど、いつからならいいんだ?」

「流石に今からとはいかん。あやつに何の話も通しとらんしな。今から手紙を書くしそれを出すから、その返事次第じゃな」

「無駄に返事を長引かせるとかそういう事は」

「するだけ無駄じゃ」

 きっぱりと言い切る村長は、これ以上何かを話そうという気はないのだろう。少女とベルナドットの両親たちへ向けて、足を運ばせてすまんかったの、と告げる。

 これで今回の集まりは終いだ。

 そう暗に告げられて、リリーとジャン、そしてロックスとジーナが部屋を出ていく。


「それじゃ、俺たちも失礼するぜじいさん」

「お邪魔しました」


 村長はもうこの件で色々言ってくる事もなさそうだが、両親からの説教か小言は覚悟しないとな、と思いつつ二人も席を立った。

 そうして部屋を出るなり。


「ベルナドット、ちょっといいか」


 早々にロックスに呼び止められる。見るとジーナやリリー、ジャンもその場にいるではないか。

 部屋を出て、二人が出てくるのを待っていたのがハッキリとわかる状況に、少女もベルナドットも薄々何を言われるか、予想はできていた。


「じいさん……村長の事だろ? わかった、聞くよ」

 あの狸爺、と思いはすれども口には出さない。


 恐らく、ではあるが村長は譲歩したと見せかけて、元から二人を村から出すつもりなどないのだという事だけはあの時点ではっきりしていたのだから。

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