表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

#16 嵐を呼ぶ矛盾点




袴姿に麦わら帽子、草履を履き擦り歩き煙草をふかす。現代日本では非常に珍しい風貌の男がある街の田舎道を歩いてた。

「どこじゃ『キササギ』っちゅうーのは。全く場所がわからんのう」

男は大方の目的地の見当はついていたが、詳細を調べる事を億劫にしていたため、目的地に近づけば近づく程足に迷いが出始めていた。

「そういえば森ん中にあるとか言うとったかいのう?」

男に荷物は無かった、その癖身着は何処か古汚く、長い旅をしてきた様に無精髭を散々させている。

「面倒じゃけえのう........ お?ありゃホシ(・・)か?ええもん見つけたでぇ....... ほんま儂はついとるのぉ......」

男は空を見上げて快活に微笑む、麦わら帽子の下から青い坊主頭が覗く。髭はやたら伸びているのに頭は綺麗に丸いようだ。

しかし、空のある一点を追う男の瞳は清涼な見た目とは違い、艶めかしく、そして残酷な光を宿していた。











「うっ........ おぇ........ 吐く....死ぬ....」

「おお!!流石国家クラスの秘蔵旅館っ!!趣き的なものが何かこう.......凄いっ!!!」

「なんだぁその馬鹿丸出しの感想は?」

バスから降りて空の旅を終えた生徒達は、長い移動の疲れからやっと一息つけると安堵した者や、目の前の巨大な建造物に驚嘆し色めき立つ者などがいて、黄色い声をそれぞれが思い思いにあげた。

遂に到着した旅館の前には煌びやかな大きな噴水が1つあり、建物の右の方には別棟らしき物も見える。

「もう夕暮れだね。とりあえず自分達の部屋に行った方がいいのかな?」

「あぁ、確か受け付けに行って部屋の番号を言えば鍵を貰える筈だぜぇ」

「おい!!その前に探検しようぜ探検!!!」

「少し待ってくれ........今は.......動けない....」

「おめぇらは面倒臭ぇなマジでよぉ!!」

桑場屋武蔵はピョンピョンと飛び跳ね、倉落は顔を真っ青にして地面に座り込んでいる。

旅館に到着した後は特にイベントは用意されていないので、殆どの生徒は真っ直ぐ自分達の部屋に行って寛ぐつもりの者が沢山だった。

そんな中桑場屋一行はモタモタと中々動き出せず、旅館の入り口に向かう生徒の波に必然と逆らう事になり非常に迷惑な集団になっていた。

「あ!いたいた!!ねえ桑場屋!?結局あの男は何の用だったの!?」

そんな中人の波に乗ってやって来た女子生徒2組の内の1人ー岡月が勢いよく桑場屋武蔵に喋りかけてくる。

「ん?そういえばそうだな。おめぇ誰に連れ去られたんだ?橋本への謎の言い訳が気になって忘れてたぜ」

「ん?あ、あれは生徒会の十八鳴って奴で・・・」

「生徒会!?桑場屋おめぇ今度は何やらかしたんだ!?!?」

「え?あの人生徒会だったの?それってつまり........」

「クワ!!!」

桑場屋武蔵が岡月に返事を返し言葉を続けようとすると、崎山が困惑の表情を浮かべ岡月が険しい顔になり倉落が唐突に叫ぶ。

「わかってるわかってる!!え、え〜と、実は俺ストーカー被害にあっててそれについての色々がありまして・・」

「ストーカー被害?」

「そのストーカーの人ってもしかしてあの桑場屋君と生徒会の人を走って追いかけていった人?あの人結構私達の校舎の周りうろついてたよね」

「へ〜、桑場屋君って結構モテるんだね」

「はっ!?桑場屋がモモモモテるっ!?!?そそそそそんなわけないじゃんっ!!!!」

酒井と和慈が言葉を挟むと、何故か岡月が顔を真っ赤に紅潮させ挙動不審に軽く発狂しだした。

「ん?確かに追いかけてった女もいたような気がすんなぁ?あいつとの問題を生徒会の奴に解決して貰ったってワケか?」

「いや無いから!!桑場屋がそんな浮ついた被害にあうワケないからっ!!」

「岡月さん落ち着いて!!生徒会(・・・)クワ(・・)!わかるだろ!?」

様々な思惑と想像が入り乱れ、桑場屋武蔵の周辺はどうしようもない混沌と化していた。

彼らの周りにはもう殆ど生徒もいなくなっており、より一層彼らの喧騒が際立つこととなっている。

そんな中、全てのカオスを生み出した張本人が笑ったような泣いているような微妙な表情で呑気にこう言った。

「とりあえず中入ろうよ?な?」

桑場屋武蔵の提案が久しぶりに仲間達に素直受け入れられた瞬間であった。

しかし、その代わりに彼に浴びせられる視線が全て凍えるような冷たさを帯び、彼の辺り周辺の時が一瞬止まった。

無論これは比喩である。







「ようこそいらっしゃいました」

「こ、こんにちは〜」

桑場屋武蔵達が旅館に足を踏み入れると、小さな少年がキッチリとしたスーツ姿で出迎えてくれた。

奥行きのある玄関はまさに旅館と言うのに相応しく、黄色い照明が優しく輝いている。

「わぁ〜、凄いね。綺麗だね」

「あ.......和慈さんの方が......その綺麗...だよ」

「おい倉落、その言葉俺にしか多分届いてねぇぞ」

「あれ?受け付けの人って貴方だけなんですか?」

岡月がたった1人で自分達を迎え入れてくれた似たような背丈の人物に話しかける。

「はい。不思議ですか?私こう見えて30は越えているんです。それに大抵の事は今の時代ロボットが代わりにやってくれますから」

「え!?三十路越えてるんですか!?童顔とか言うレベルじゃなくないですかっ!!」

自分の前に立つ胸に竪忍(タテオシ)というネームプレートを付けた男のあどけない笑顔を見て桑場屋武蔵は大袈裟に喚いた。

「はい。子供みたいだとはよく言われます。でもこう見えて一応この旅館の館長ですから」

「館長なんですか........」

酒井も物珍しそうに竪忍の小学生にしか見えない風貌をまじまじと眺める。

「それで貴方様がたの部屋は515号室になりますね?こちらがその部屋の鍵です」

「俺達の部屋よく分かりましたね」

「わかるに決まってんだろクワ。学年最下位もいい加減にしてくれよ?」

「残っている鍵はもうこれだけなので」

「.............なるほど」

周りから蔑みの視線を浴びるのに慣れてきた桑場屋武蔵だった。

「岡月達は部屋何処なんだよ。鍵は?」

「私達は315、部屋の鍵はもう....... 他のルームメイトが持っていったと思う.......」

「ふ〜ん、そっか。じゃあ行こっか」

暗くなりそうな気配を桑場屋武蔵が知ってか知らずか強引に打ち切って、奥のエレベーターに向かって一行は歩き始めた。

「おい桑場屋、話は部屋でたっぷり聞かせて貰うからな」

「だからストーカー被害だって!」

「岡月さんは桑場屋君の話もういいの?」

「あ、うん!もう落ち着いたから全然平気!!」

「?理由になってない気がするけど.....じゃあ私達も部屋に一旦行こっか?」

桑場屋武蔵達は足元を滑るように無音で動く円盤型清掃ロボットを蹴り飛ばさないよう気をつけながら、高級旅館らしい上品な装飾品の間を和やかに進んで行った。


「ようこそ雪井沢(ユキイザワ)セイレイ旅館ー如月(・・)へ、どうぞごゆっくりお寛ぎなさいませ.........」


竪忍の姿勢の良いお辞儀が彼らを見送る。

やがて音一つしなくなった広大な空間で、受け付けの奥へと消えて行く竪忍のコツコツという靴の音だけが反響し始め、そしてそれもやがて、消えた。











「ヘイ、タミー!僕の手鏡を知らないかい?自分の顔をいつでも確認出来ないと僕って落ち着けないんだよ」

「知らん」

かなり大きめでフカフカと肌触りの良いベッドに寝転がり、それとなく美麗に装飾された広い部屋を見渡していた十八鳴に、右隣のベッドの上に足を組み座って滑らかな金髪を真ん中で綺麗にわけている彫刻のように美しい顔立ちの少年が声をかけてくる。

「そうかいどうしたものかな。それはそうと僕が生徒会に入れるようまた進言はしてくれたかい?」

「した」

「ありがとうタミー!これで今度こそ僕も名誉あるTOA生徒会の一員になれるんだね!!」

「それは知らん」

美少年はとても嬉しそうに顔を綻ばせた、彼の周りだけ不思議と明度が数段階上がったように思える。

「マシュー、生徒会に入ったっていいことないぞ。疲れるだけだ」

「ふんっ!疲労より名誉だ。他の生徒を統括しコントロールする立場にある選ばれし者達、まさにこの僕に相応しい!!」

そう高らかに宣言する美少年ーマシュー・ピッポグラフはこれまで何度も生徒会に入ろうとしては失敗している。

生徒会に入るために高等部に上がってから同じクラスになった十八鳴に口添えを頼むのも既に2回目である。勿論1回目は失敗に終わっていた。

「あ!こんな所に僕の手鏡があったのか!これでやっと僕の曇りなき美しい姿を思う存分観賞出来る」

マシューは枕元から探し出した手鏡を絶妙な角度で持つと、そこに自分の顔を映してうっとりと恍惚の笑みを浮かべる。

「部屋変えてぇ...........」

そんなマシューの様子を横眼で一瞥した十八鳴はグッタリと上質のベッドに身を深める。

だがもうマシューは完全に自分の世界に入ってしまったようで、十八鳴の声も姿も認知出来なくなってしまった。

そして十八鳴は鏡の中の自分との微笑み合い続けるマシューを気にするのをもう止めて、再び部屋全体に視線を広げる事にした。

この旅館如月の505号室には現在3人の男子生徒がいるーTOAの生徒会の内の1人十八鳴、フランス生まれ日本育ちのフランス人マシュー、そして学年第2位の成績を誇る秀才で十八鳴の幼馴染でもある墨岸古光(スミギシフルミツ)


古光は今のところパソコンを弄ってるだけか...... このまま何もせずに大人しくしてくれるといいんだけどな........


反対側のベッドにワイヤレスイヤホーンを付けて座り、膝の上に銀色の薄い紙のような物を立て空中に浮いたパネルをリズミカルにタップする物憂つそうな少年を無遠慮に見つめて、十八鳴は昔をも思い出しながら複雑な気持ちになった。


前はこんなじゃなかったのにな.........


いつから2人の少年の友情は歪んでしまったのだろうか、十八鳴もまさか高校生になって幼馴染を信用出来ずに監視する羽目になるとは考えていなかった。

古光は十八鳴の視線に返そうとはしない、そんな古光の様子に彼は諦めたように少し目を閉じる事にした。


もう疲れたよ何とかラッシュ..........


ブンー、ブンー、ブンー


しかし瞳を休ませ始めた彼の体が突如振動に波打つ。

十八鳴は大きく溜め息を吐いてからやつれた眼を開け、右ポケットのスマートフォンと呼ばれる1枚のカードを取り出してその表面に表示される文字を読み取り、嘘だろ?とこれまた大きな溜め息を追加した


『mailing-----桑場屋武蔵』


「学年変えてぇ...........」

彼の独り言は誰にも届かないのが常だった。











キシキシと枯れ枝を踏み折る音と姿の見えない鳥の言葉には形容し難い涼やかな鳴き声で満ちる森の中、男は呑気な表情で揺ら揺らと歩く。

「意外に遠いもんじゃのう」

修行僧とも練り歩き坊主ともとれる奇怪で質素な身なりの男は愉快そうに口笛を吹きながら道無き道を進んで行く。

「新鮮な空気が気持ちええのう。やっぱり日本が1番じゃな」

男の若く精力に漲る顔が満足そうに緩む。

すると、ふいに木の陰から体長3mはゆうに超える大きさの大熊が姿を現した。

「................」

熊は語らない、ただ四肢をしっかり地面につけ、全身の巨躯に殺戮者特有の殺気を充満させるのみだ。

「なんじゃ?熊なんぞがまだこの国におったのか?」

しかし、男に恐怖はないようだ。

それどころか嬉しそうな面持ちで無遠慮に大熊との距離をその足で詰めて行く。

その瞬間、大熊の前足が浮いた。木々をたじろがせる獣の咆哮が目の前の男に向けられる。


「残念じゃのう。儂、動物嫌いなんじゃ」


だがその咆哮も長くは続かなかった。

男が麦わら帽子を外したと思った瞬間紫色の閃光が走ったかと思うと、熊は綺麗に縦に真っ二つになり絶命したからだ。

捕食者の哀れな成れの果ての周りに生臭い血の芳香が広がる。その強烈な悪臭には爽やかな坊主頭の男も流石に顔を歪めた。

「動物は臭い。だから嫌なんじゃ」

男は鼻を摘まんで手をひらひらと振る、静かな森に鳥の囀りだけが反響していた。

「取り敢えず夜までには着きたいのう」

森の奥に目を向ける男の表情は既に朗らかなものに戻っている、しかしその瞳だけは先程の大熊と同様の輝きを秘めていた。











「うわ!!びっくりしたな.......これが噂の人型ロボットか」

「流石高級旅館だな、驚いたぜ」

「ようこそおいで、なさい、ました。この階の案内を担当、させてもらって、います。AHR-1259、です。目的地を、教えて下さい」

エレベーターから出た桑場屋武蔵達を迎えたのは全自動人型ロボット『UDEMO(ウデモ)』だった。

どうやらUDEMOは如月の各階に2、3体ずつ整備されているようで、それぞれに各階のデータが完璧にインストールされているらしいという事だった。

「515号室まで頼むぜぇ」

「畏まり、ました」

崎山が慣れているようにUDEMOに話しかける。

するとUDEMOは頭部の真っ黒いモニターらしきものを青く点滅させると、腰から上だけをグルンと回転させてキビキビと歩き始めた。

「凄いな!マジもんのロボットじゃん!!」

「もしかして桑場屋君は人型ロボット見るの初めて?」

「うん。噂には聞いてたけど実際にこの目で見るのは今回が初めてだ!」

「流石原始人クワ、本当はタイムスリップして来たんだろ?」

「あ?桑場屋はロボットすら見た事ねぇのかよ?あんなの俺の家にすらあるぜ」

「は!?お前のその能力値に金持ち属性までついてんのかよ!?!?」

「ちなみに俺ん家にもあるぜ、クワ」

「ボンボン共めぇ〜.......!!」

「2人共凄いね。僕はショッピングモールで見た事があるくらいかな」

エレベーターの途中で岡月と和慈の両女性陣と別れた桑場屋武蔵達は、男4人で自分達の部屋に向かって和気藹々としていた。

「こちらが、515号室で、ございます」

「ははっ、丁寧なロボットだなぁ。崎山と倉落のなんちゃって坊っちゃまよりよっぽど品があるよ」

「うるせぇぞ学年最下位の原始人!」

「ロボットなんだから礼儀正しいに決まってんだろ。やっぱりおめぇは馬鹿だな」

「確かに乱暴な言葉遣いのロボットがいたらちょっと怖いよね」

廊下には彼ら4人と1体以外誰も見当たらない、部屋は完全な防音なのだろう、同じ階にいるはずの他の男子生徒の声も全く黄色い照明に明るく照らされた廊下には響いてこない。1つ1つの部屋がかなり離れているという理由のせいの可能性もある

UDEMOはそんな4人のやり取りを扉の横に立ちながら眺め、顔面のモニターを紫色の光で点滅させ笑顔らしき模様を描いた。

それを見た倉落はここぞとばかりに爆笑し、腹を抱えて桑場屋武蔵の肩を叩いた。

「グヒヒヒッ!!おいクワ!お前ロボットにも笑われてんぞ!!!グヒヒヒヒヒヒッッ!!!きっとこいつにはクワの顔が間抜けな猿人に見えてんだよ!グヒヒッ!!」

「黙れヘタレチャラ男モドキっ!さっさと部屋に入るぞ!!」

「良かったじゃねぇか桑場屋。おめぇは人智を超えたエンターテイナーらしいぜ」

桑場屋武蔵は乱暴に鍵を開けると、笑ってうずくまる倉落の首根っこを引きづり引っ張って部屋の中へ躍進して行った。崎山もそんな2人を見て快活そうに笑うとそれに続いた。

UDEMOのモニターはもう漆黒で何の感情表現も行っていない。白いボディをした機械は微動だにせず唯一廊下に残っている酒井に体を向け続けている。

酒井はそんなUDEMOを眺めながら片眉を上げ、その機械の白くて平らな頭部を撫でた。

「よく出来たロボットだね」

UDEMOは言葉を返さない、データが足りないのだろうか。代わりに再び上半身を半回転させると廊下の奥に消えて行く。

そしてそれを何処か冷たい表情で見送った酒井も、元の優しい柔和な顔に戻って半開きの扉の中に消えた。











小学校の頃は行方苳也の知り合いだという事で友達が上手く作れなかった。

中学校の時は道場での修行にのめり込むあまり部活にも入れず、同年代の友人と過ごす時間も取れなかったのでここでも友達と呼べる者はやはり作れなかった。

そして今も部屋のルームメイトからのよそよそしい態度に耐え切れず、部屋の外に出て自動販売機の前の小さなベンチに座って1人肩を落としていた。

ほんのり茶色がかったショートカットの黒眼の大きな少女は孤独だったのだ。

「和慈さんは上手くやってるかな..........」

岡月と和慈が自分達の部屋に入ると、2人の女子生徒が先に荷物を広げ愉快に談笑していて、遅れてやって来た岡月達の方を驚いたように見やると『あ......... お疲れ様和慈さん』と一言だけ言ったのだった。

その後岡月達が荷物や身だしなみの整理を終えてそれぞれのベッドに腰を降ろすと、他の2人の生徒はいやらしい笑みを浮かべて和慈だけに話し掛け出したのだった。

その時和慈が何か言いたげな視線を岡月に送ったが、彼女はだだ切なげに笑って首を横に振り部屋を静かに退出しただけだった。

「どうしてこうなっちゃうのかな.........」

彼女にはわからなかった、何故自分には友人が出来ないのか。

今回も名目上の理由はある、それは行方の知り合いである事とクラスの問題児である桑場屋武蔵と仲が良い事である。

しかし彼女は納得出来ない。たったそれだけの理由で友人が作れないわけがないと思っているのだ。そう、彼女は問題が自分自身にあるのだと思い込んでいる

「こう考えると桑場屋達と仲良くなれたのは結構ラッキーだったのかも............」

彼女はまだ若く、幼少期の人間関係についての経験が圧倒的に不足しているため、驚異的に人と接するのが苦手だった。相手に自分の事を知って貰おうとする行為が殆ど出来ないのだ。

だが、そんな不器用な彼女に興味を持つ変わり者が存在するのもまた事実だった。

「岡〜月〜さ〜んっ!」

「ひゃっ!?わ、和慈さんっ!?!?」

下を向いてひたすらに落ち込んでいた彼女の肩が唐突に誰かに突かれて、彼女は間抜けにも少し飛び上がった。

「こんな所に居たんだね。探したよ」

「なっ、何で!?日土居(ヒドイ)さん達はどうしたの!?」

「あ〜.........何か普通でつまんないから置いてきた」

和慈は小悪魔的な笑顔を見せながら岡月の横の隣にふわりと座った。

基本恥ずかしがりやの彼女はそんな和慈に同性ながらも緊張を隠せない。

「何か全国模試で一桁取った事あるとか、宇宙旅行行った事あるとか、そんな珍しくも凄くもない自慢話ばっかりで全然面白くないの」

「へ......... へぇ.....そうなんだ」

和慈の珍しい凄いの基準がよくわからなかった岡月だが、和慈が心底落胆したように喋るのを見て余計な事を口挟むのは止めておこうと思った。

「私って普通の人に興味が持てないんだ。ちょっと変わった所のある人としか仲良くなれないの」

「え!?それってどういう意味な・・」

「私のお父さんって実は職業発明家なんだよ?そんな変人のお父さんを選んだお母さんの血がきっと私には色濃く流れてるんだと思うの!」

「全然人の話聞いてないよこの子」

目を輝かせて語る和慈の様子にこれまでとの余りのギャップを感じ、少し頭が痛くなる岡月だった。

「それでね!岡月さんからは物凄い変人臭がするの!!これまでありとあらゆる変人を見たきた私には分かる!岡月さんは間違い無く正真正銘の変人だよっ!!!」

「うん。和慈さんには言われたくないかな」

なんだかとても可笑しくなってきた岡月は自然と笑い出していた。

2人の少女は徐々に打ち解けてきていた、岡月はその感覚にまだ慣れていない為気づいていないが。

「私これまでは同年代の変人の友達がいなかったの。だから本当に岡月さんと会えて良かった!TOAに入学して良かった!!」

「え!?とっ、友達!?」

「これからは私の事、秋って呼んで?私も岡月さんの事、真子って呼ぶから!」

「お......おす........」

和慈の勢いに完全にのまれているのを岡月はちゃんと自覚していたが、流されやすい彼女はその事実に対してどうすることも出来ない、成すがままである。

「ふふっ、本当このクラスで良かった可愛い変人友達も出来たし、かっこいい変わったクラスメイトもいるし」

おどおどするだけの岡月に和慈はここで意味あり気に微笑む。

そんな和慈に彼女ははっとして、恐る恐る尋ねた。

「そ、そのかっこいい変わったクラスメイトって.........」

「勿論桑場屋君だよ?ちょっと好きになりそうかなぁ〜?」

「ひゃひゃひゃっっっ!?!?!?」

突如意味不明な奇声を上げる岡月、そしてそんな彼女の様子をニヤニヤしながら眺める和慈。

「やっ、やめた方がいいよあいつなんてっ!!!確かに変わってるし格好いいけどとにかくやめた方がいいって!!!」

岡月は必死になって自分の初めて出来た同性の友人が桑場屋武蔵に恋心を抱かないように説得しようとする。

「ふふっ、そうだね。真子のライバルになるのは嫌だし勝てる気がしないから止めとくね」

「うんうん良かった。私も秋がライバルになるのは.........ってぬひょ!?」

「あ、秋って呼んでくれた〜。いぇ〜い」

「そそそそうじゃなくてっ!!ラ、ライバルって何が!?」

これまでまともな交友関係を持った事のない岡月は中々自分がからかわれていただけと気づけない。

「真子が桑場屋君を好きなのはバレバレだから。意外に一目惚れするタイプなの?」

「はっ、はぁ〜て!?!?何の事やら!?!?」

自分の初恋が初めての友人にバレている事に動揺を隠せず、顔を真っ赤にして明後日の方向を向いて全力で誤魔化そうとする岡月だったが、本人の嘘の下手さと経験不足から図星ですと証明する事にしかならなかった。

類は友を呼ぶ、誰が作った言葉だろうか。

変わった少女に変わった友人が出来た、友達の作り方など存在しない、世の中には気の合う友人を持てない者がいくらか存在する。

しかし、幸運にも岡月の前には彼女を理解しようと努めてくれる人が現れたのだ












『アメリカの時間操作研究所が現在襲撃を受けているとの報告が入ってきている』

『.............そうですか。遂にあの人(・・・)が本格的に動き出しましたか』

無駄な用品が何1つ無く、寂しい程広い空間の絨毯に寝転がった年齢不詳性別不明の人物が1枚の薄いカードを耳に当て、唇を動かす。

『親之介君は無事ですか?』

『............残念ながら連絡が途絶えたままだ』

その言葉に右々木は親指の付け根を噛む。

『最悪の場合(ケース)も考えられるという事ですね。タイミングが悪い。もしかしたらこれも計算の内の可能性もあります』

『君の計算だと・・・』

『ええ、恐らく一気に動き出す筈です』

電話の向こう側で男が疲れた息を吐いた、右々木は天井を見つめたまま男の次の言葉を待つ。

『わかった。ドイツの特別研究都市にも連絡を入れよう。遂に始まった(・・・・)とな』

『はい、下手をすればドイツにも日本(・・)にも既に彼らの手の者が・・・』

『それもわかっている。はぁ.......もう少し先の事だと思っていたのだがな』

『想像より早いのは確かです』

右々木は鋭い光を眼に携え、むくりと起き上がる。

『高井が日本に向かっている、君の力になってくれるだろう』

『校長が戻るのですか。力を貸してくれればいいんですが。私はあの人に信用されていないようですからね』

『うむ........それは確かに複雑な問題だが・・・』

『いえいえ大丈夫ですよ。信用が無いなりに上手くやります』

右々木はニヒルに笑う、部屋には独り、味方は少ない。

『それでは日本の子供達の事は任せたぞ。彼らはこの世界の未来だ』

『はい.........了解しました.........首相(・・)

右々木は通話が切れたのを確認した後、部屋の奥の窓の近くに歩み寄った。考え事をする時の癖である。

「紫学年が心配ですね.......... 橋本先生に連絡を入れておきますか...........」

右々木は珍しく苦い表情で呟く、可能なら長野に今すぐ飛びたいのだが今TOAにいる唯一の責任者という立場上自由に動けないのだった。

「<フリーメイソン>が本格的に動き出すまでには後半年はかかると見積っていたのですが........... 武蔵君の出現、動き出す秘密結社.........」

無造作に床に転がるミルクティーのペットボトルを拾い、ひと口含む。右々木の口の中に甘くて温い液体が広がる。

そして直ぐにそれを飲み干す、右々木の喉はカラカラに渇いていたのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ