#11 初対面の矛盾点
長野県の方申し訳ないです
・・・ん?聞き間違いかな?この綺麗なお嬢さんは今何て言ったんだ?
「聞こえなかった?早く死んでよ。気に入らないのよ、貴方」
ええええええっっっっ!!!!!????
最初から好感度どん底ですかっっっ!?!?
というかこの学校の女子生徒は何で俺に対して毎回初対面で敵意剥き出しなんだよおおおお!!!!!!
絶対人違いだよ..... こんなのおかしいよ..... あり得ないよ...... いきなり死ねてお前....
「あの〜、すいません?多分人違いだと思うんですけど・・・」
「あら?私が今直ぐに死んで欲しいのは桑場屋武蔵という男なんだけど、貴方違うの?つべこべ言わずに早く死になさいよ」
冷や汗をかきながらやっと返答した彼に、彼女は高圧的にピシャリと言い放つ。
人違いじゃないのかよっ!!!
ていうか何なのこの人?どんだけ俺に死んで欲しいの?泣いちゃうよ?
「え〜と........ すいません、僕達って初対面ですよね?僕貴方に何かしましたっけ?」
彼の人生史上トップクラスの嫌悪感を浴びせてくるその謎の女生徒に対して、彼は完全に腰が引けてしまっていた。
「は?当たり前でしょ?私が貴方みたいな底辺と知り合いな訳ないでしょ?イライラするわね。殺すわよ?」
その女生徒は表情も全く変えずにひたすら辛辣な言葉を放ち続ける。
マジで何なのこの人!?これもしかして本気でヤバイ人に絡まれちゃったんじゃね!?!?
こりゃ逃げるしかねえな........ 本当に誰だよこいつ...... 外見とのギャップがおかしいだろ......
無言で威圧を続ける女に彼は睨み返し、逃走する機会を伺った。
「何その眼は?早く死に・・・」
今だっっっ!!!
御前崎が口を開こうとした瞬間、桑場屋武蔵は素早く反転し来た道を猛然と走り出した。
「逃がさない、殺す」
だが、その刹那、御前崎も彼の動きに反応し、右手を彼の腰の方へ伸ばし、そして触った。
しかし、御前崎が触った次の瞬間に彼はもう走り出した為、彼の腰があった場所は何も無い空間になり、御前崎の右手は虚を掴まざるを得ない事になってしまい、当然彼女は軽くバランスを崩す。
「......っ!?!?」
そしてバランスを立て直した時にはもう既に桑場屋武蔵に追いつくのに大変な手間がかかるくらいの距離が空いてしまっていた。
「.............何で止まらなかったの?」
道の真ん中で1人取り残された御前崎は自分の右手を少し見つめた後、最早人影一つ見当たらない前方を見やる。
会長のようなアンチ能力も使えるって言うの........?しかも後ろ向きで私に気づかれる事なく....?
でもあの男は編入組のはず..... 能力を会得してからこんな短期間でそんな事出来るはずは........
そもそもそんな強者には見えなかったし..... そんな芸当が出来るなら、あの行方を倒した体術で今私を返り討ちにする事も出来たはず......
そのためにあれだけ挑発したのだから......
再び空から雲が何処かに消え、眩いばかりの太陽がその顔を露見させた。
しかし、その光に照らされるある女生徒の心は冷たく、暗いものだった。
でも、そうしなかった...........
つまり私は自分の実力を示す価値もない者だって認識されたって事.......?
御前崎は自分より約5cm程背の高い男の自分を睨みつけた眼を思い出しながら奥歯を食いしばり、両拳を握りしめ、屈辱に打ち震えた。
あいつ殺してやるわ.......!
絶対許さない.......!!!
御前崎は踵を返すと、乱暴な足取りでその場所を後にした。
「はあっ......... はあっ....!こんだけ逃げりゃもう... 大丈夫だろっ.......!!」
ひたすらに目に入った道をジグザグに逃げ続けた結果、彼は気がつくと何やら古びた建物がポツンと奥にある一本道を歩いていた。
ったく何だったんだあの子は!?いきなり死ねとか怖過ぎんだろ.......
この学校は変な奴多いなあ.... 勉強のし過ぎで頭おかしくなっちゃったのか?
桑場屋武蔵は自分の逃げて来た道を見返し、誰も自分を追ってきていない事を再確認した。
はあ〜、疲れた...... この学校に入学してから溜め息が増えた気がする.......
彼は道の端に備え付けられているベンチに腰を下し、そして相も変わらず世界を照らす太陽に眩しさを感じつつも空を見上げる。
「はあ〜....... 結局昼まだ買ってないし......」
何かやっぱ疲れてるわ俺...... ちょっと横になろうかな........
彼はベンチの上で仰向けに寝転がり、周りに誰もいない事をまたもや確認してから目を閉じた。
あ〜、鳥のさえずりが聞こえる..... 頬を撫でる優しい春風も心地良い..... 無駄に広いおかげで1人で落ち着ける場所が沢山あるのがこの学校のいい所だなあ.......
そういえばここ何処だっけ?まあどうでもいいかそんな事..... 学校で遭難する事もないだろう.....
日向で風通しもいいそのベンチは最高のお昼寝スポットだった、彼が目を閉じるまでそう長く時間はかからなかった。
昼下がりの午後、蒼い眼の少女の膝の上で俺はまどろんでいる。
「あれ?起きちゃった?」
その少女の膝の上で唸り始めた俺に彼女は金髪の髪を輝かせながら頭をクシャクシャっと撫でる。
とてもいい気分だ......
俺の頭の下から何かの布越しに柔らかい女性の太ももの感触がする。
ずっとこのままがいいな.......
何か女の子らしい優しく良い香りが鼻腔を刺激する。自分の顔を覗き込むその少女の表情はとても楽しそうだ。そんなに俺の顔が面白いのだろうか?
だが、そんな事はどうでもいい、ただこの時間が続けばそれで良い。
「まあ確かにそろそろ起きた方が良いかもね。もう午後の授業始まってるし」
そういえばこの人の服装何処かで見た事があるなあ.... そうだ、自分の着ている服にそっくりなんだ。この角度からだと上半身しか見えないが、着けているネクタイの色が自分は紫でこの人のは赤だという事を除けば、全く同じものじゃないか.......
それに胸の辺りに付いたバッジにも見覚えがあるなあ.....
凄く最近見たような気がする........
「あれれ?まだ寝ぼけているのかな?それとも知らない女性に膝枕されてても何も動じないタイプ?」
そうか...... 俺はこの人と知り合いじゃないのか.......
胸のバッジに『白神アリサ』と書かれている、確かに知らない名前だ.....
「お〜い、これは夢じゃないぞ〜。目覚めろ〜桑場屋武蔵〜」
これが夢じゃないだって?
何を言ってるんだこのお嬢さんは......
どう考えても夢じゃないか......
昼下がりの午後に蒼い眼で金髪の美少女に膝枕されている高校生が日本の何処にいるってんだ.......
ん....?何だ......?蒼眼金髪美少女が俺の顔の方へ手を伸ばしてくるぞ?
一体何をしようって言うんだ・・・
「........って痛い痛い痛いっ!!!ちょっ痛いです痛いですっ!?!?」
白神は自分の膝の上で目を半分開けたままニヤニヤして、一向に起きようとしない桑場屋武蔵の両頬を思いっ切りつねりあげた。
「お?やっと正気を取り戻したか。噂の桑場屋武蔵君」
ゴロッドサッ!
桑場屋武蔵はあまりの痛みに体を暴れさせてしまい、無様な音を立てながらベンチから転げ落ちた。
「ってあれ!?大丈夫!?!?」
「痛たたた..... 何がおきているんだ.....」
混乱している彼は痛みでやっと冴えてきた脳に現在の状況の説明を求める。
そして彼は目の前のベンチに座り、心配そうに彼を見つめる白神に視線を合わせた。
「あれ?あなたは夢の中の・・・」
「いや、多分それ夢じゃないよ」
白神は心配そうにしていた表情を綻ばせると、ケラケラと笑った。
彼は周りを見渡し、自分の状況を必死で整理していく。
あれ?俺は確か変な女から逃げて来て、このよくわからん場所に辿り着き、いい感じのベンチに横になって........
「......え〜と、俺があなたの膝の上で寝てたのは夢ですよね?」
「いや?現実だよ?」
あっれえ〜?おかしいな?俺がベンチに横になった時誰もいなかったよなあ〜?
「あ、心配しないで。膝枕は君が寝てる間に私が勝手にやった事だから」
はっは〜、なるほどねえ〜。俺が寝てるのを見て、つい膝枕しちゃった訳だあ〜。
「ってんな訳あるかああっ!!!!!!」
突然悲鳴にも似た大声を上げた彼に、白神は怯えて身を引いた。
「ちょっ、ちょっと!大丈夫!?変な所頭打った?」
「へへへ...... 分かった.... 分かったぞ..... 全部思い出した...... その胸のバッジ、あの妖怪美人女が付けてた物と同じだっ!!あいつとグルなんだろ!?俺を殺しに来たんだな!?!?俺が一体何をしたってんだっ!!!」
「あれれ!?これはダメかな?完全にキマっちゃってるよ!?!?」
むくりと立ち上がりファイティングポーズをとる彼に、白神は若干の恐怖を感じる。
「妖怪金髪美少女っ!あんたは一体何者なんだ!?俺に何の用だ!?!?」
「分かった、分かったっ!!1から説明するから、拳を下ろしてそのギラついた目付きをどうにかしてっ!?」
白神は完全に取り乱している桑場屋武蔵に向かって、落ち着けと言わんばかりに両手をヒラヒラさせた。
「ごほんごほんっ..... え〜、私はこの学園の生徒会長をやらせて貰ってる白神と言います!決して怪しい者ではありませんっ!」
白神は丁寧にも靴を脱いでからベンチの上に仁王立ちして、堂々と宣言した。
「...... ふ〜ん、生徒会長ねえ ...... 見た目から取り敢えずこの学校の先輩だって事はわかりますけど.......」
「ありゃ?これは全く信じてないね!?この胸の生徒会バッジが見えてないの?」
腕を組んで白けた目で応答する彼に、白神は必死で弁明する。
「確かに胸に変なバッジは付いていますがそれが生徒会の物だという証拠はあるんですか?偽物じゃないんですか?」
「......何という傲岸不遜!!校内の掲示物とか見た事ないの!?!?」
胡散臭そうな視線をやめない彼に白神はわざとらしく口元を手で隠す。
「流石苳也を病院送りにしただけはあるね....」
その白神の言葉に彼はピクリと反応して、白神に対する警戒心を強めた。
「行方とも知り合いなんですか?それに俺をさっき殺そうとしてきた奴と同じバッジをしている...... やっぱり俺と仲良くしに来た訳じゃなさそうですね.......」
「いや!?仲良くする気満々だからね!?ていうか同じバッジの人に殺されかけた!?!?どういう事?」
「さっきあなたと同じように胸にその銀色のバッジを付けた女に襲われかけたんですよ」
彼がそう返すと白神は頭に手をやり、あちゃ〜と1人困ったように頭を抱えた。
「その子もしかして君と同学年で凄く美人だった?」
「え?まあそうですけど」
あんたも相当美人だけどな。
「やっぱり君に目を付けちゃったか〜、話を聞いた時にもしかしたらと思ったんだよね〜」
「どういう事ですか?」
「うん、多分その君に難癖をつけてきた子っていうのは生徒会の御前崎友里香ちゃんって子なんだけど...... その子優秀なんだけどちょっと性格に難ありでね...... 」
白神は困ったような笑みを浮かべながら優雅な仕草でベンチから降りた。
「は?あれで生徒会なんですか?..... ったくこの学校の上位層は何でどいつもこいつも変人しかいないんですかっ!?」
「へへへ、それは本当そうだよねぇ〜!!」
あんたも含んで言ってんだよ!!!
「........ はあ、まあそれはいいです。あなたが本当に生徒会長なら桑場屋武蔵という生徒にちょっかいを出すなと言っといて下さい」
「うん!自信ないけど頑張る!!」
....... くそ。何なんだこの人?俺が生粋のフェミニストじゃなかったらデコピンしてるぞ?
おっと決して可愛いから下手に出てる訳でもないし、金髪美少女と知り合いになれてちょっとテンション上がってる訳でもないからな!?
「って誰に言い訳してるんだ俺はっ!!!!」
「うわ!?どうしたの?もしかして君、絶叫癖持ってるの?」
またもや突如騒ぎ出した彼に、白神は気味が悪そうに声をかける。
「い、いや何でもないですっ!!!そ、それで白神先輩は何の用事で俺に膝枕をしに来たんですかっ!?!?」
白神には彼が軽くパニックになっていて、自分の言っている事を半分理解していないように見えたが、取り敢えず話を合わせる事にした。
「え、え〜と...... 別に膝枕をしに来た訳じゃないんだけど..... あれはちょっとした悪戯っていうか....」
白神は少し顔を赤くしながら頰を指で掻き、可憐にはにかんだ。
「たまたま校内をウロウロしてたら君がベンチで寝てて、それでどんな奴か見てみたら噂の桑場屋武蔵君と特徴がそっくり同じだったから膝枕して起きるのを待ってたんだ〜」
「う、噂?」
「そうだよ、君は今時の人だよ?なんたって<抑止力>が一般生徒に病院送りにされるなんて前代未聞だからね。これまで一度選ばれた<抑止力>が他の生徒に実力的に劣ってると判断されて<抑止力>が交代になった事は一回もないんだよ」
「は、はあ.......?」
「君の事は私達生徒会や副校長、そして他の<抑止力>も注目してるんだ。私達は君の事を矛盾点って呼んでる」
ん!?それ倉落も言ってたヤツだな.....
矛盾点って有名なあだ名なのか?
「という訳で私の用事はもう済んだよ。君がどんな奴か見てみたかっただけだから。ん〜、まぁ何か想像とは違ったかな、もっとやさぐれてるかと思ったら結構元気系なんだね」
「あ、そうですか?」
元気系?やった!!中学の頃の空回り系と呼ばれた時より評価が上がってるぞ!!!
「さて、私達もそろそろ授業に戻りますか?もう5時限目も後半に入ってるし」
「は?何言ってるんですかまだ昼休みで・・・」
彼は右手の腕時計を見ると時計は2時30分を伝えていた。
「ノオオオオオオオッッッッッ!!!!!もう5時間目終わっとるやないかっ!!!!!」
桑場屋武蔵は絶叫すると、道もよく把握していないのに白神の事を一切気にせず走り出した。
「やっぱり絶叫癖持ちだね........」
取り残された白神は<スマーテストフォーン>と呼ばれる電子機器をポケットから取り出して時刻を確認した。
「ん?やっぱり時間はまだ2時10分なのになぁ〜?スマフォが時間を間違える訳ないし、あの子の時計時間がずれてるのかな?」
それとも違う意味でもう5時限目終わってるって言ったのかな?
「それにしても強そうには見えなかったなぁ〜、苳也や、私より」
ぷくりと頬を膨れさせ、思案げな顔で目を細め遠くに視線を泳がせる。
そして白神も桑場屋武蔵が走り去った方へ上品な足取りで歩いて行った。
急に静かになった今はもう使われていない空間に別れを告げて。
「なぁ桑場屋?お前は俺の授業を舐めてるよなぁ?授業の終わる2分前に来るってどゆこと?」
「違うんです先生!これは罠なんです!!俺は嵌められたんです!!!」
教室の時計の時間で2時28分に教室に入った桑場屋武蔵は、他の生徒の目の前で自分の担任でもある橋本に睨みつけられていた。
「ふ〜ん?いいぞ?言ってみ?」
「知らない美少女に殺害予告をされて逃げてたら知らない間に金髪美少女の膝の上で寝ていて・・・」
「あ〜、もういい!もういい!!放課後お前は教室に残れ」
「そ、そんなっ!?」
キーンコーン カーンコーン
必死で弁解を試みた彼だったが、面倒臭そうに頭を掻き毟る橋本と教室に響き渡るチャイムによって、その抵抗は徒労に終わった事を認めざるを得なかった。
「それじゃあ授業は終わりだ!放課後は説明があるから勝手に帰るなよ!?」
橋本は軽く指先で彼の胸を突つくと、教室から退出していった。
橋本が出て行くと教室は水を打ったように静かになり、桑場屋武蔵は茫然とそこに立ち尽くした。
「やっぱお前アホだな」
「ん?」
しかし静かになった教室で彼に声をかける者がいた、最前列に座っている崎山慎吾という大柄な少年だ。
「いや今言ったのは本当なんだって!」
「前から少しおかしい奴だとは思ってたが、まさかここまでとはな....... 」
「おいクワ!!今のいままで何やってたんだよっ!!ヤマザキとばっか喋ってねぇで教えろよ!!」
「ヤマザキじゃねぇ!!崎山だぁ!!!てめぇの手に書いてやろうかぁ!?」
後ろの方からブレザーも着ずにワイシャツをだらしなくはだけさせている生徒も彼の方にやってくると 途端に彼の周りだけ騒がしくなる。
彼は少しだけ他の生徒の目が気になったので、茶髪で細身の少年と大柄でツンツンとした頭の少年を廊下に引っ張り出す事にした。
「お前らうるさいよっ!ちょっと廊下来い!そこで説明するから!!!」
3人が教室から消えて、室内にはまたもや静寂が満ちる。
「本当に面白いなあ桑場屋君は」
窓側から2つめの列の最後尾の少年は急に現れて教室内の空気を一変させて、そしてまた消えていった少年の名を小さく呟いた。
「あれで僕と同じ推薦組なんだもんなあ、本当に面白いなあ...... まあ僕と本質的には同じ推薦組ではないか..........」
その頬杖をついた少年の囁き声は周りの誰にも聞こえていないようだ。
窓から風が吹きたつ、少年の中性的で永遠に歳をとらないのではないかと思わせる童顔は優しく笑っていた。
「おいそれ本当かよクワ!?!?」
「お前一体何やらかしたんだ?普通入学して一週間で生徒会に目ぇつけられねぇだろ?」
生徒会どころかこの学校の生徒内での最高権力にも既に狙われましたけどね!
「本当なんだって!!ノンフィクションっ!!」
桑場屋武蔵は昼休みにあった出来事を倉落と崎山に白神が彼に近づいた理由を伏せて説明した。
「なるほどなぁ〜、クワの未来が本当に心配になってきたぜ......」
「前途多難どころじゃないわ.......」
頭を抱える桑場屋武蔵と慈悲の目を彼に注ぐ倉落を見て、崎山は天井を仰いで大きな溜め息を吐いた。
「おめぇらと同じ班になろうかと思ってたがやっぱ止めるべきかもしんねぇなぁ〜」
「班?」
突然聞き慣れない単語が耳に侵入してきた彼はその発信元である崎山に視線を送る。
「そっか、クワは朝も遅刻してきたもんな。何か来週俺達高等部第1学年は親睦会に行くらしいぜ?」
「親睦会?」
彼の好奇心を刺激する気になる単語が今度は倉落の口から発せられて、彼はそちらに視線を移す。
「学園の敷地外で能力を使える数少ないチャンスだ、俺は楽しみだぜぇ.......」
「クラスの女子と仲良くなる数少ないチャンスだ、俺も楽しみだぜ......」
そっか、崎山みたいな普通の生徒は能力を使う事が楽しみでしょうがないんだな......
あれ?でも倉落は確か女子苦手じゃなかったけ?女子苦手だけど女好きなのか?こいつも大変だな.....
そして俺は...............
全くもって楽しみじゃない......
彼は瞬く間に好奇心が萎んでいくのを感じながら取り敢えず質問を重ねる事にした。
「で、何処に行くの?」
ニヤニヤしている倉落がこの質問に答えた。
「場所は長野、長野に2泊3日だ!」
長野?何か微妙だなあ.......
桑場屋武蔵は自分の行った事のない場所の名前を言われたのにも関わらず、自分の気持ちが昂らない理由を仕方なくその場所のせいにする事にした。
しかも何か嫌な予感もするし..........
彼は脳内に出てくる胸に銀色のバッジをつけた少女達から視線を外し、相変わらずひと気のない廊下の奥の方に視線を漂わせた。
『ねぇ、班誰と組む?』
『私はきーくんとがいいなあ〜』
綺麗で清潔な教室の中で、愉快そうに談笑を楽しむ生徒達がいる。
「....... くだらない」
教室の最後列にいるその少年はそんな生徒達を軽蔑していた。
『5月の中間テストの範囲知ってるか?』
『お前もう勉強始めんのかよ?』
窓側で新品のシャープペンシルを片手に肩を叩き合う生徒達がいる。
「........くだらない」
脂ぎった黒髪を頭に撫でつけている少年はこの学園の生徒達が嫌いだった。
「どいつもこいつもキラキラしちゃってぇ.......」
少年は元々好きでこの学園に入った訳ではない、少年の両親によって半ば無理矢理入学させられたのだった。
「ウザいねぇ..... 実にウザいよぉ.......」
少年はたまたま勉強が抜群に出来た、そして偶然にも時を止める資質も持ち合わせていた。少年が望まなくとも選ばれし者にならざるを得なかったのだ。
「馬鹿ばっかりだよ本当に.........」
だが少年は自惚れなかった。
自分より勉学が出来る者もいると分かっていたし、自分より一生高位の時間操作者が存在するだろう事も予想していた。
少年は未来に興味がなかった。
しかし、この学園の生徒は誰もが必死に勉学に励み、誰もがより高位の時間操作者になろうと全力を尽くしていた。自分だけの未来の為に。
それが少年にとっては堪らなく嫌だった。
誰もが自分を特別だと信じているこの世界が滑稽で憎くてしょうがなかった。
「凡人どもが粋がっちゃって........」
少年はこの世界の中でも最高級の知能と資質を持った生徒達が集まる学園で2番目に勉学が出来た。特に勉強にこだわった訳ではない。自然とそうなったのだ。
しかし、1番になった事は一度もない。入学してからずっとある生徒がその座にいるからだ。
その生徒は“紫苑の抑止力ー毒茸”と呼ばれる時間操作者としても最高の能力を持った生徒だった。
少年はたとえ自分が本気で勉強をしても、必死で能力を磨いてもその生徒には届かないと確信していた。
だが少年にはそんな事はどうでもよかった。
少年はその座に憧れ、追いつこうとあがく他の生徒達が気に食わなかったのだ。
「ほんと、あいつ以外は全員強制退学でいいんじゃないかねぇ.......」
終始不機嫌な少年は周りには聞こえない程度に心の声を口にだす。
「おい、フルミツ。聞いたか?来週の親睦会に行方は来ないらしいぞ」
「........ 本当かい?タカミ?」
少年は話しかけてきた体格の良い男子生徒に無愛想な顔を向ける。
「ああ、確かだ。何でも入院中らしい」
「ふーん、あいつ来ないのかぁ.......」
親睦会は行かないつもりだったけどこうなると話は変わってくるなぁ.........
「理由は不明だけどな」
理由なんてどうでもいい..... これはつまり俺の邪魔をできる奴がいない状況になるって事だ......
「おいフルミツ?」
少年は珍しく笑っていた、声は出さないが自分の頬の弛みを抑えられなくなっていたのだ。
「いい機会だ..... くだらない凡人どもに少しお仕置きをしよう.......」
少年は今年で4年目になる嫌いな風景を目に焼き付けながら、不敵に、音も無く、笑い続ける。
その少年の心はいつからか歪んでしまっていた。




