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氏郷外伝 戦国の習い 序章・全六章  作者: あっちゅ寝太郎


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氏郷外伝 戦国の習い 第二章

第二章:松阪の泥と「白塗りの微笑」

伊勢、松ヶ島。

ここに移り住んで数ヶ月、蒲生氏郷の周囲には「貧乏」という名の静寂が漂っていた。

日野の山中とは違い、松ヶ島の潮風は容赦なく建物を蝕む。だが、城の屋根瓦はあえて割れたまま放置され、登城する家臣たちの袴も、膝のあたりが白く煤けて見える。

「いやあ、面目ない。目付殿、見ての通り我が蒲生家には、雨漏りを直す釘一本買う金もありませぬ。……おっと、これは失礼。昼寝のしすぎで、つい大きな欠伸が。ガハハ!」

そう言って、秀吉からの目付の前でだらしなく着崩した姿を見せ、鼻を鳴らしたのは、氏郷の副官、**毛呂 与太のもろ よたのすけ**である。

与太の佑は、常に昼間から酒の匂いをさせ、どこか人を食ったような薄笑いを浮かべている。一見すれば、主君の放漫経営に匙を投げ、怠惰に身を任せた「与太郎」にしか見えぬ。

「お、おい……氏郷殿は大丈夫なのか? 近江の麒麟児と謳われたお方が、これでは……」

目付が呆れ、哀れみすら浮かべて帰るのを見送ると、与太の佑の目が一瞬だけ、研ぎ澄まされた刃のように細まった。

「……行ったか。阿知寝、お駒、出てきていいぜ。あの目付、大坂に戻ったら『蒲生は終わった』と涙ながらに報告してくれるだろうよ」

城の影から、二人の人影が音もなく現れた。

一人は、亜那あな 阿知寝あちね。その手には、第一章で堺から引き抜いた職人や資材のコストを、一銭の狂いもなく記した二重帳簿がある。

もう一人は、顔を真っ白に塗り、不気味なほど鮮やかな紅を差した女、白塗りのお駒。彼女は「くすっ」と、鈴を転がすような、しかしどこか凍てつくような笑い声を漏らした。

「与太の佑殿、大根役者ぶりも板についてきましたね。おかげで大坂の猿も、『氏郷は牙を抜かれた』と鼻で笑っていることでしょう。……可哀想に、その笑い声が自分の首を絞める縄の音だとも知らずに」

お駒の言葉に、阿知寝が冷淡に付け加える。

「笑わせておけばよいのです。敵がこちらを『弱者』と定義した瞬間、我らの勝ち筋は決まります。……殿、例の『鍛冶団』、配置を完了しました」

氏郷が、城の奥、表向きは「廃屋」とされている建物へと一行を導く。

そこには、日野から秘かに呼び寄せたくろがねの五郎兵衛と、堺から引き抜かれた職人たちが待ち構えていた。

工房の熱気は凄まじい。職人たちは、没落王朝の末裔であることを示す奇妙な刺青を腕に刻み、黙々と鉄を叩いている。

「五郎兵衛。進み具合はどうだ」

「……上々にございます、殿。表向きは鍋や釜を打っておりますが、裏では国友の鉄砲よりも硬い、新式の『よろい』を精錬しております。阿知寝様が半島から取り寄せた、火力の強い石炭のおかげで、鉄の純度が桁違いでさぁ」

「よろしい。お駒、日野屋宗六との商談は?」

「くすっ。滞りなく。殿が『生活費のために売り払った』という触れ込みで流した信長公ゆかりの茶器の写し……。阿知寝様が監修しただけあって、大坂の成金どもが法外な値で競り落としておりますよ。その金、すべて宗六の手を経て、この鍛冶団の兵器開発費に還流しております」

氏郷は、満足げに算盤の珠を一つ、力強く弾いた。

これが氏郷の「コマーシャル」の真実だ。

主君がボロを着ることで秀吉の目を欺き、与太の佑が道化を演じて警戒を解き、お駒が「没落の物語」を添えて偽の茶器を売り捌く。そして、そのすべての「実利」が、五郎兵衛の鍛冶団が打つ、次世代の武具へと化けていく。

「阿知寝、与太の佑、お駒。……そして五郎兵衛。世の文筆家どもには、俺のことを『家臣を想うあまり、自らは質素に生きた慈悲の将』とでも書かせておけ。奴らは目に見える表面の美談しか拾えぬ、底の浅い連中だ」

氏郷の瞳に、松阪の夜の闇よりも深い、冷徹な光が宿った。

「俺たちは、その『美談』という名の泥沼の下で、天下を貫く鋭い杭を打ち続けるのだ。……誰も気づかぬうちに、この国すべての『価値』を書き換えてやる」

近況報告:春惜しむ、のらりくらりの夜

皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

春もいよいよ終盤。吹き抜ける風にも、どこか夏の気配が混じり始める季節となりました。

今宵の私は、春の恵みにどっぷりと浸っております。

膳に並ぶは、旬の山菜に海の幸。

山菜特有のあの「ほろ苦さ」は、まさに去りゆく春を惜しむ味。そこに旨い酒が一口あれば、もう言葉はいりません。

時計の針を気にせず、ただ酔い心地に身を任せる。

そんな贅沢な時間に浮かんだ、三つの風景をお届けします。

【即興三句】

春暮れて 山菜の香 いと楽し

旨し酒 山の香りに 海の幸

なに急ぐ 今宵はのらり くらりかな

お腹も心も満たされたら、あとは夜が更けるのを待つばかり。

皆さまも、たまには肩の力を抜いて「のらりくらり」と、佳き夜をお過ごしください。

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