8-5・闇の巨人
-仏殿正面-
異様な光景だった。仏殿の周りには数え切れないほどの鬼が集まっており、仏殿の全域から禍々しい闇が湧いている。
「俺達2人で全部を相手にするのは、さすがにキツいな。
本部からの援軍は、まだ来ないのかよ?」
「来ないらしい。先程、連絡が来た。」
「はぁ?どういうことだ?」
「詳しくは聞いていないが、何者かの奇襲を受けて全滅したらしい。」
「マジかよ?」
目の前が真っ暗になるような錯覚に陥る。だが同時に、そんな悪条件を知りながら単身で戦い続けていた狗塚に感心をさせられる。
「戦えるのが俺達しかいないなら、『怖じ気づく』なんて選択肢は無いってか?」
「そういうことだ!ただし、多勢に無勢の状況で、全てを相手にするのは無謀!」
最優先でやるべきは、酒呑童子復活の阻止。リーダー格さえ潰せば、他の鬼達は有象無象と化す。
「狙うのは茨城童子のみ!」
狗塚(妖幻ファイター)が仏殿の屋根を睨み付けたので、つられて同じ方向を見上げた。視線の先には茨城童子が立っている。仏殿周りの鬼達が構えるが、屋根上の茨城童子が制止をした。
「まさか、金熊童子まで倒されるとはな。
私が、貴様等を過小評価しすぎていたということか。」
茨城童子は、狗塚(妖幻ファイター)を睨み付けた後、俺(妖幻ファイター)に視線を移す。
「小僧・・・貴様が、生きて、再び私の前に立つとは思いもしなかった。
素直に認めねば成るまい。
たかが人間如きが、私の想定できぬことを起こしたと・・・。」
残る幹部は、あと1体。だが、追い詰められたはずの茨城童子は嘲笑う。
「想定外の戦闘能力を得た貴様等に対して、金熊童子は、よく戦ってくれた!
おかげで、時間は稼げた!」
「なにっ!?」
「刻は来た!!もはや、余力は必要有るまい!!」
茨城童子は、足元目掛けて拳を打ち込み、屋根を貫いて仏殿の闇に渾身の妖力を注ぎ込んだ!茨城童子の放った妖力が、闇の塊に吸い込まれていく!
「我が渾身の妖力を贄にして蘇りたまえっ!」
ドォォォンッ!!
途端に、地面が闇で染まって黒い炎が上がり、俺達は弾き飛ばされた!
茨城童子は、肩で息をしながら勝ち誇った表情で頭上高く拳を掲げる!
「拝顔するが良い!・・・御館様が・・・降臨をする!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
不気味な地鳴りがして仏殿を中心に富運寺全体が大きく揺れ、仏殿の屋根に空いた大穴から禍々しい闇の霧が立ち昇る!
仏殿の屋根に空いている大きな穴から、掌だけでも俺より二回りほど巨大で、真っ黒な手が出現!続けて、屋根を突き破りながら、真っ黒な顔が出現!やがて、入道雲のように巨大な上半身が屋根の上に姿を現して、闇夜を覆った!全長40mほどの巨人である!
「オォォォォォォォォォォォォッッッッッッッン!!!」
低く不気味な咆吼が、文架市内に響き渡る!
「な・・・なぁ、狗塚?酒呑童子って、あんなにデカイのか?
・・・聞いてないぞ。」
「俺も・・・聞いてない。
過去に俺が見た酒呑童子は、父より2周り大きい程度だった。」
「あんなデカいの、どうやって倒すんだよ!?
あきらかに、範疇じゃないだろう!!」
想定外すぎる状況を前にして、平常心を保ちきれない。しかし、この状況に動揺を隠せないのは、俺達だけではなかった。
「御館様が、ただのモノノケに!?・・・そんなバカな!?
こんなハズではない!何をしくじった!!?」
むしろ、俺達以上に、酒呑童子を復活させた張本人が狼狽えている。巨人の出現は、茨城童子にも想定外だったようだ!
「御館様っっ!」
巨人は‘聞く’という機能が無いのか、茨城童子の呼び掛けには一切耳を傾けない。それどころか、ヤツを「一番身近にある獲物」と判断したらしく、手を振り上げて、茨城童子目掛けて叩き付けた!
「御館様!私が解らぬのですかっ!?」
辛うじて、巨大掌の直撃を回避する茨城童子!しかし、叩き付けられて崩壊をした仏殿屋根の瓦礫に巻き込まれて弾き飛ばされ、境内に落ちて無様に転がる!
「オォォォォォォォォォォォォッッッッッッッン!!!・・・足リヌ」
闇の巨人は、山門近くで呆然と成り行きを見上げていた中級~下級鬼族を見下ろし、巨大な手を伸ばして、まとめて鷲掴みにした!
「ギャァァァッッッ!!」 「ヒィギィィィィ!!」 「グゲェェ!!」
「オォォォォォォォォォォォォッッッッッッッン!!!・・・違ウ、コレデハナイ」
鬼軍団は、巨大な手に包まれた瞬間に、塵芥に変わり、巨人に吸収されてしまう!逃れた鬼達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う!しかし、次々と巨人が伸ばした手に掴まれ、闇に取り込まれていく!
「鬼が鬼を食うなど・・・聞いたことがない。」
「アイツ(巨人)、何か探しているのか?」
その光景を見て生唾を飲み、数歩後退する。闇の巨人が鬼を退治している。だが、あの怪物が俺達の味方とは思えない。
「こんなハズではない!!
御館様!!私です、貴方の忠臣・茨城童子です!!何故、お解りにならね!?」
茨城童子が奧社の屋根に飛び乗り、大振りのアピールで、懸命に主の正気を取り戻そうと呼び掛けている。だが、その声は、闇の巨人には全く届いていない。ヤツ(茨城)に対しては、「ムカ付く敵」以外の感情は無いはずなのだが、報われない忠臣ぶりが気の毒にさえ思えてきた。
「オォォォォォォォォォォォォッッッッッッッン!!!・・・オマエナノカァァッ」
闇の巨人が、茨城童子に向かって手を振り下ろした!茨城童子は慌てて飛び上がるが回避をしきれず、弾き飛ばされ地面を転がる!
「御館様ぁぁぁっっっ!!!・・・・うわぁぁぁっっっっっっっ!!!」
巨大な手を振り上げ、倒れている茨城童子目掛けて振り下ろす闇の巨人!再び、闇の巨人が手を上げた時、其処にはもう、茨城童子の姿は無かった!
「く・・・食いやがった。」
「小賢しく翻弄してくるヤツだったが・・・随分と呆気ない最期だ。」




