4-1・10月なのに銀世界
-YOUKAIミュージアム-
大幅改装をされて、博物館部門は2階にまとまり、1階には喫茶店を併設した。それなりに繁盛するようになった店で俺に宛がわれたのは、博物館の受付、兼、管理。階段の上がり口に待機をして、博物館に興味を持った客から入場料を取るのが仕事だ。
「・・・暇だ。」
メインはあくまでも2階の博物館部門なんだけど、客は誰もいない。客の大半が、喫茶店目当てで訪れて「2階が博物館」と初めて知るが、特に興味を持たない。博物館がある事を知らずに帰っていく客も存在する。
「・・・暇すぎる。」
忙しすぎる仕事は遠慮したいが、一日中受付カウンターにボケッと座っているだけの仕事も辛い。まるで、窓際族に追いやられた気分だ。座り飽きたので、階段を降りて1階を覗く。
「アリガトーございました~。」
会計を済ませた客が、『喫茶・YOUKAIミュージアム』から出ていくところだった。カウンター内で座っている粉木の爺さんと目が合う。
「なんや、燕真?何か用か?」
「いや・・・用は無いんだけど、1階が忙しそうだから、なんか手伝う事があるかと思ってさ。」
「おぉ、気ぃ利くなぁ。なら、便所掃除と皿洗いを頼む。」
「・・・了解。」
もう少し‘喫茶店ぽい仕事’をしたかったが、何も仕事が無いよりはマシ。言われた通りにトイレに籠もって掃除をする。手際良く掃除を終わらせて皿洗いをしていると、昼の繁忙期が終わり店内から客が居なくなった。
「これもお願いね、燕真っ!」
メイド姿の紅葉が空いた皿を持ってきたので引き取って洗う。此処はメイド喫茶ではなく、あくまでも、博物館を訪れた客が一息つく為に併設された喫茶店。メイドの格好で客を出迎える必要は無いのだが、爺さんの趣味&紅葉が乗り気で今に至る。・・・と言うか、男性客のリピーターの大半は、紅葉に会いに来るのが目的だ。ファーストフードでのバイト経験があり、スマイルでリピーターを増やした紅葉からすれば、笑顔で客のハートを鷲掴むなんて簡単な事。
ただし、俺がいると、紅葉はロクに接客をせずに会話に夢中になってしまう。だから、「紅葉が俺に纏わり付く事を嫌がる客達」への配慮で、閑職(誰も客が来ない2階の管理)に追いやられてしまったのだ。
客が寄りつかない博物館から、喫茶店を併設した博物館に方針転換して、3ヶ月が経過。営業時間は10時~18時から10時~20時に変更され、YOUKAIミュージアムの収益は順調に上がっていた。
言うまでも無く、この3ヶ月間、茶店の仕事ばかりをしていたわけではない。大学の寮に行って妖怪を倒したり、妖怪に憑かれた芸能人を救ったり、プールに遊びに行って妖怪事件に巻き込まれたり、力を暴走させてしまった正義の味方志望の少年を正しく導いたり、退治屋としての活動もそれなりにクリアさせている。だけど、まぁ、説明すると長くなってしまうので、此処では細々とは語らない。
「燕真、フラれたんだよね~!」
「なんや、燕真、失恋したんか?」
「フラれてねーよ!」
大学の寮に行った事件で、好みの子と出会ったのだが、恋人がいることを知ったのでアプローチはしなかった。だから、フラれたわけではない。
「今日ゎ寒いね~。」
「秋なんだから、こんな日もあるだろ。」
紅葉が窓を開けて西の空を眺める。風があるわけではないが、外からゆったりと流れ込んでくる空気が少し冷たい。
「雪降るかな?」
「降るわけねーだろ。まだ秋だぞ!」
此処からでは見えないが、文架市の西側には、標高600mくらいの羽里野山がある。手軽なハイキングコースがあり、小学校の遠足や中学校のキャンプに利用されような一般的な山だ。文架市は豪雪地帯ではないが、羽里野山が雪化粧をすると、数日後には平野部にも薄らと雪が降るらしい。
「・・・雪・・・か。」
爺さんは、カウンター内から窓の外を眺めている。その表情は、やや険しい。
-翌朝・本陣アパート-
ガァンガァンガァンガァンガァンッ!!・・・ガァンガァンガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
「ぉ~~~~ぃ!!!燕真~~~~~~~!!!おっきろぉ~~~~!!!大変だよぉ~~~!!!!」
月に何回か‘玄関ドアを殴り続ける’という手荒な出張アラームで強制的に起こされることがある。無視をしたいのだが、そのうち窓ガラスを割って入ってきそう(・・・てか、無視を通していたら、『中で死んでるかも』と心配されて、窓を割られそうになったことがある)なので、仕方無く起きることにした。スマホで時刻を確認したら、AM5時35分。この時間帯は、俺基準では、まだ、起きるべき朝ではなく、熟睡をして良い夜中だ。
「おいおい、勘弁してくれよ。」
着替える気力も湧かないので、ジャージ姿のまま大欠伸をしながら玄関の施錠を解除する。
「おはよっ、燕真っ!」
途端に外側からドアが開けられて、紅葉が飛び込んできた。いつもはハーフパンツや短めのスカートを好んで履いて生足を全開にしている紅葉が、珍しくスカートの下に黒タイツを履いて、ダウンジャケットを羽織っていた。
「オマエさぁ・・・用があるなら、いきなり押し掛けてくるんじゃなくて、先ずは電話しろよ。」
「今度からそ~する!」
「前回もそう言ったぞ!だいたい、まだ6時前だぞ!何考えてんだ?」
「そんなことより、大変だよ、燕真っ!」
「聞けよ俺の話!」
「ほらほら、見てっ!」
「はぁ・・・見るって何を?・・・・・・・・・・・・・って、
なんじゃぁぁっっっっっっ!!!こりゃぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!?」
玄関戸の向こう側は、辺り一面が白銀の世界。驚きすぎて、一発で眠気が吹っ飛んだ。ありえない光景なので、目を擦ってから二度見をしたが、雪景色は見間違いではない。
「いやいやいやいや、今は10月だぞ!!
文架市って、何処にあるんだよ!?」
文架市の位置は曖昧だが、少なくとも北海道って設定ではなかったはずだ。・・・てゆーか、日本で10月に雪が積もる地域なんて無い。
「寒いっ!寒すぎるっ!とりあえず部屋の中に入れっ!」
紅葉を部屋に招き入れてから、ネットニュースで状況を調べる。市街地で10~15㎝程度、文架市全域が雪に覆われているらしい。
「よぉ~しっ!行こっ!」
「どこへ?」
「お外だよっ!」
「なんの為に?」
「もちろん、雪ダルマとカマクラを作る為だよぉ~。」
なにが「もちろん」なのか、全く解らない。
「イヤだよ、寒いっ!
大の大人が、雪にテンションが上がって、朝の6時前から外で遊んでたら、頭がおかしいだろう!」
「燕真ならダイジョブだよ。」
何がどう「大丈夫」なのか全く解らない。俺は周りから「頭がおかしい」って思われてるから、外ではしゃいでいても誰も気にしないって意味だろうか?
「絶対にイヤだ!もう少し寝る!遊びたきゃ、1人で遊んでろ!」
「ぶぅ~ぶぅ~!つまんな~ぃ!」
テンションが上がる気持ちは理解できるが、さすがに、お子ちゃまと同じ目線に成る気は無い。




