3-1・ドアを殴る少女
-文架市 本陣町-
YOUKAIミュージアムが在る陽快町と接するこの町(本陣町)は、陽快町と同様に古い時代に‘鎮守様’の近くに移り住んだ人々によって作られた村から住宅地に発展した地域だ。ゆえに、古い家が並び、狭い路地が毛細血管のように張り巡らされている雑然とした町なのだが、それでも十数年前に比べると随分と賑やかになっている。
俺は、その町に住んでいる。「バブル期とやら」に建てられた築30年以上経過する物件なので、家賃はお手頃で、バス&トイレ&キッチンはあるので、1人暮らしには充分な間取り。隣室の雑音が少々気になる程度だ。
透明感のある部屋ってのに憧れて‘物を置かない’主義・・・と言いたいが、金が無くて何も買えないだけ。壁に‘人気女優・清原果緒里’のポスターやカレンダーを貼って、「部屋に物が少ない寂しさ」を紛らわせている。・・・というか、テレビとブルーレイレコーダーとベッドとカラーボックスが1つ有れば生活はできる。あとは、清原果緒里ちゃんのポスターが部屋を彩ってくれるので何の問題も無い。
今日はYOUKAIミュージアムは休館日だし、退治屋の呼び出しも無い。まかないに有り付けないのは少々痛いが、休日まで粉木の爺さんの家に行くほど暇人でもないので、本日の飯はコンビニで買ったパンや弁当で済ます。
「朝から晩までジックリ時間をかけて、
レンタルした‘HNK朝の連ドラ・おかえりモモ’を見る!」
それが、今日のミッションだ!決して「スゲー暇だから」ではない。仕事が色々と難儀なので、清原果緒里ちゃんで心を癒やしたいのだ。
インスタントコーヒーを煎れて卓袱台に置き、買ってきたパンを頬張りながら‘おかえりモモ’を鑑賞する。
「あ~~~・・・俺の隣に引っ越してきてくんないかな~~。」
上京をしたばかりのモモ(清原果緒里)が、知り合い(後に恋人になる)の部屋の扉をノックするシーンが映し出されている。緊張したモモの表情が、とても可愛らしい。
ガァンガァンッ!!・・・ガァンガァンガァンッ!!
・・・ガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
突然、何かを思いきり叩くような凄まじい轟音が鳴り響き、テレビ画面の中で主人公がドアをノックする音を掻き消す。
何処の部屋でどんな馬鹿が騒いでいるのだろうか?名シーンが台無しだ。テレビの音量を上げて、騒音を気にしないように心掛ける。
ガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
・・・ガァンガァンガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
隣人トラブルは抱えたくないので、出来るだけ気にしないようにしていたが、だんだん腹が立ってきた。
「全く・・・何処の何奴が、どの部屋で大騒ぎしているんだ!?
昼間だからって、非常識にもほどがあるぞ!!」
音の大きさから察するに、両隣のどちらかだろうか?「俺がブチ切れる前に他の部屋の住人が苦情を言ってくれないか」と期待をする。
ガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
・・・ガァンガァンガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
それにしても凄まじい轟音だ。音を発している主は、叩いている物を壊すつもりなんだろうか!?つ~か、誰か、さっさと騒音バカに文句を言ってくれ!
ガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
・・・ガァンガァンガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
「ぉ~~~~ぃ!!!燕真~~~~~~~!!!
居るんでしょ~~~!!!!あっけろぉ~~~~!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やっと解った。この金切り声を発する猛獣は知り合い。本人はノックをしているだけのつもりかもしれないが、叩き壊されそうなのは自室の扉。俺が対処をしなければ、隣人から苦情を受けるのは俺だ。
自宅アパートの場所は報せていなかったので、此処にまで台風が上陸するとは想定していなかった。
「あのバカは、限度という言葉を知らんのか!?」
ガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
・・・ガァンガァンガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
「燕真~~~~~~~!!!」
「うるせーぞぉー!!!静かにしろぉーーー!!!!」
「何やってんだ!!?迷惑だぞ!!」
案の定と言うべきか、早速、左隣の住人と上の部屋の住人が部屋から飛び出して猛獣を怒鳴りつける。
「あっ!こんにちゎぁ~!もしかして、ぅるさかった?ゴメンね~!」
「あ・・・あぁ・・・・・こっちこそ、怒鳴ってゴメン・・・
解ってくれれば良いんだけど。」
「まぁ・・・まだ、昼間だし・・・・文句を言うほどでもないか。
俺達の方こそ、変な言い掛かりを付けてスマンな。」
女性に免疫が無い連中なのだろうか?どうやら、騒音主の誠意(?)ある謝罪(?)のが伝わったらしく、2~3会話をして穏やかな口調になり、アッサリと引き下がったようだ。
ガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
・・・ガァンガァンガァンガァンガァンガァンガァンッ!!
「ぉ~~~~ぃ!!!燕真~~~~~~~!!!」
途端に、再びドアをノック・・・と言うか殴り始める。無視を続けたいが、このままでは扉が可哀想だ。
「やれやれ・・・果緒里ちゃんの爪のアカを煎じて飲ませてやりたい気分だ。」
DVD鑑賞を諦め、渋々と玄関ドアの鍵を開けた。
「あ!やっぱりぃたぁ~~!!何で直ぐに出て来なぃんだょぉ~~~!」
紅葉は、少しばかり慌てた表情をしている。何か不測の事態があって慌てていたから、あんな派手にノック(?)をしていたのか?まぁ、だからって、ドアを力一杯ブン殴って良い事にはならないが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのさぁ・・・
オマエのドタバタに巻き込まれて忘れる前に、聞いておきたいんだけど、
どうやって、俺の家を調べた?粉木ジジイに聞いたのか!?」
「うぅん!だぃぶ前に、バイクにGPS付きのスマホ仕込んでぉぃたんだぁ!!
・・・そんな事よりも、ねぇ、燕真、大変だょぉ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・またGPSかよ?」
プライバシーを完全に無視されている俺的には、大問題だと思うんだけど、この猛獣は「そんな事よりも」と軽く流しやがった。俺が紅葉の私物にGPSを仕込んで住所を特定したら、通報案件だぞ。ストーカー的な行為を「そんな事よりも」扱いするからには、余程「大変な事」に巻き込まれたんだろうな?そう思わせておいて、「どうでも良い事」ってのがお決まりのパターンなんだが・・・。
「大変だょぉ、どぅしょぅ、燕真!?」
「何がだよ!?」
「ぁたし、幼稚園くらぃの小さぃ男の子をユーカイしちゃったぁ~!
ケーサツに掴まるかなぁ~~!?どうすればぃぃ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・そ・・・それは・・・・・・・・・・たいへん・・・だねぇ」
どうせ「どうでも良い事」と予想したけど、想定の50倍くらい大変な事件だった。コイツは、その大事件に俺を巻き込むつもりなのだろうか?誘拐をして悔いているなら来る場所が違う。先ずは警察に行け。そして、人としてキチンと更生されるまで出て来ないで欲しい。
「誘拐って・・・オマエ?」
「学校からおうちに帰って、
そのぁと、アミ(友人)達とショッピングモールで待ち合わせして、
ゲーセンに行って、クレーンゲームやリズムゲームで盛り上がりまくって、
アイスを食べて、
そのぁと、ウィンドショッピングをして、
ミキがDVD買って、ユウカが可愛い文房具買って、
さっきバィバィしたんだけど、自転車で帰ってきて、ぉうちに着いて、
自転車を片付けようとしたら、荷台に男の子が乗ってぃたんだぁ~!
これって誘拐だょねぇ?ァタシ死刑かな?どぅしょう、燕真!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
話を整理する。アミとかミキと言われても、誰の事なのか解らない。自転車で家に帰宅するまでの、友人と遊んだ話題は全部要らない。
見知らぬ男の子が自転車の荷台に乗っている事に気付かずに、リバーサイド鎮守から帰ってきた・・・以上。




