十歩目 新たな地で
さすがに空き過ぎである
フロンに着いてすぐ俺たちはぶっ倒れた。貧血な上に傷だらけで腕の中ではメルアシアがすやすやだったからマジで疲れていた。
「ヴォエ!」
吐きそう!次に目が覚めた時には俺はリアカーの荷台の上で吐き気を催していた。整備の行き届いていない道にサスペンダーなんてついてないリアカーで走ればそれこそ夜にコーヒーを飲むより分かりきった答えが待って居た。目覚めた瞬間喉までこみ上げてくる吐瀉物を自覚する。
「しゅぅん!」
俺は両手で口を封じて反射的に大地に転がり落ちて草むらへ飛び込む。途中ですりむいている。肌にごつごついろんなものがぶつかるが気になんない。だってもう口に酸味を感じてんだもん。
「こぉぉぉ・・・うっ」
再び新芽の育つべき枯草の大地に低いpHをまき散らす。灰でも撒いたら中和できるかな・・・。
「大丈夫?メリトットはすぐそこだからもう少し頑張って。」
メルアシアの声が荷台から聞こえてくる。胃液で汚染されている口ではすぐ返事はできなかった。うつむいていた俺は水をお願いするジェスチャーを取ろうと顔を上げたら砦があった。背の高い城壁が俺を圧倒する。それは対シィクロウィーン用のものだとすぐにわかった。
いやさっきメルアシアがメリトットはすぐだと言っていた。あれはメリトットの村なのか。教会と比べれば小さいが石?でできた外壁がそびえたっていた。さらにすごいのは中には数千人は生活できる広さがあると想像できるところだ。
「これがメリトットか。」
俺は水を拒否られて唾で胃液を洗い流して馬車に乗り込む。新鮮な水は貴重らしい。
「大丈夫かな?私がクッションになってもいいよ。少しは揺れないから。」
メルアシアは両手を広げて抱き留める姿勢を取ってくる。何度目が分からなかったけど男一人の弊害で同性だと照れないことも男相手に平気でやってくるの申し訳ない。
「いや大丈夫だよ。ありがとう。」
そんなこんなで俺たちはメリトットの門を潜り抜ける。
(何というか変わった街だ。)
そこには街が広がっていた。いや街というには建物が質素だ。ただ村というには集落の規模が大きい。主要な道路には使い古されているものの石畳が敷かれているけど、その脇に立っている茅葺に土壁でできた平屋しかない。道の奥には広場がありそこはバザーのような屋台があり、にぎわっていた。
(だからこそおかしい。)
だが少し考えれば疑問は氷解する。本来村は農地の中に民家が点在しているのが自給自足の上で一番楽なはずだ。集まるにしても真ん中に広場を置けばいい。町だとしたら主要な道に面する建物はうだつの上がるようなそれなりに立派な建物でそれ以外でも建物も住居人数を増やすために二階建てにする。火災防止のため屋根材を工夫するなどあるはずだ。でも村と町どちらにも当たらない。
「シィクロウィーンを恐れてこんな街になったのか。」
俺のつぶやきに門をくぐった後に相乗りをしていた女の子が近づいてきた。しかし、なんかめちゃくちゃ描いてたけど何してたんだろ。
「あんたの世界も似た様なもんなの?あたしグリス。」
いきなりフランクに話しかけられてビビる。
「いや、街を作ろうとしていると考えると火事とかの対策が疎かすぎるし、村としてみると畑へのアクセスが悪すぎる。シィクロウィーン対策一転でこうなったのなら納得できただけだよ。」
正解だよ。すごいじゃん。この村はほかの村から避難するのも多いからシィクロウィーンからの襲撃を防ぐ必要があるんだよ。まぁそのために?弊害がたくさん出てちゃってバカなんだよね~。」
ケラケラ笑ってる。何というかクール系のギャルって感じだ。
でも、不都合がどれだけあってもこういう村は必要なのだろう、俺は教会で襲撃してきた山賊を見た。一度犯罪に手を染めてしまえば助けられない。あの山賊は罪を犯さず行ける範囲にこういう村がなかったのだろう。悲しい。
「実は助けてばかりではないよ。この街の襲撃や病気等で人口減少してるから私たちは村同士の共食いでやっと維持できてる。」
「農業やるには外に出る必要があるから野生動物の危険もあるしな。」
この村は農業をやるには狭い外に出れば危険だらけだ。
「でも人が流入するわりには発展していない・・・か。」
この規模の町の割には発展がない。都市が富を独占しているからなのか。
「いっそ街にすればいいと思う?残念大きいコミュニティだけど農地が比較的肥えているだけで大きくなった街だから資源がない。そんなだから利便性の問題で最低限の交易の拠点をしてるけど各村落に分配するから富は集積できない。」
通常交易の拠点は発展するが中継地点ではなく旅客を確保できない。ここ発で輸送できる資源もない。ここが拠点になっているのは大きく防衛ができるから。ここがほかの村落の維持も担っていることを考えれば富なんて集積しない。だから村の建物から更新できなくて町の規模で村の構造になってしまっているのだと思った。
俺は顎を抱えて考えていたがふと思い出して顔を上げる。
「そうだ今更だけど君の名前は?」
「忘れてた。私の名前はグリス。この街の運営に携わらせていただいております。って変でしょ?」
と、グリスは自嘲する。見た目で判断するのはあれだが執務室よりチェーン店のカフェかファミレスの方が似合う。
「グリスかこれからよろしく。」
俺たちが握手したころには村の中央の建物に馬車が止まった。背の低い建物の中で大きく目立つ物見の塔。その横に併設された石造りの大きな平屋の前で俺たちは揺れから解放されていた。
「んんっーーー!やあっと着いたねー!」
だらりと荷台の中で寝っ転がっていたメルアシアは伸びをして起き上がる。擦り傷だらけでは整備されていない道だと休めなかったらしい。フロンで丸一日寝てたらしいけどまだ足りなかったと喚いていた。いや俺はもっと長時間伸びてたんだけど。
「ケイは立てるかな?これからお世話になる村長に会いに行こう!」
メルアシアが勢いよく立ち上がり荷台の淵に足をかけた瞬間、グリスがメルアシアの手を掴んで引っ張って座らせる。
もうこらえ性がないんだから・・・。と俺に失礼の念をこめた一礼をした後グリスはメルアシアに向かい合う。
「メルアシア。何度も言ってるけど村長の部屋に入るときは私たちに許可を取ってから入るようにして。」
「れりあんだ!そうだよ!防犯上の決まりなんだから守ってくれないとメルアシアを裁くことになるからな。」
村長のいると思われる家から出てきた女の子レリアンがそう言った。メルアシアはごめんとグリスに謝りしゅんとする。
「わかってるよ?わかってる。疑いたくないけど都市への買収の可能性があるからね。」
グリスに睨まれて続けてメルアシアは手をあわあわさせながら言う。なんども説教されてたんだろうな。
「答えれてえらいぞー。クッキー上げる。」
レリアンはフランクにメルアシアにクッキーを渡そうとする。
「ちょ駄々っ子みたいでしょ!やめてって。」
メルアシアが赤面してる!でもメルアシアが急いでというか規約を破って入ろうとした理由が何となくわかった。裏切者なんていてほしくない故に思い込むためだろう。
「待ってて村長を起こしてくるから。」
レリアンは村長のいる家に再びその中に戻る。
俺はメルアシアに聞こえないようにグリスにささやく。
「裏切りって起きるのか?」
少し気になる。俺も裏切りで死にかけた身だ。多少警戒感を持っても悪くないだろう。
「無いって・・・。都市は村落の住民を都市に住ませたくないんだってあいつらにとって私たちは山猿みたいなものだから。少なくとも政府の奴らはね。」
よそ者は相容れないか。ただ貿易をしている以上絶望なんてことはないのだろう。何か先手を打てれば・・・。
「でも今は切り崩しの時だと思う。みんな苦しい生活をしてる。甘い誘いをかけるなら今じゃないかな。」
弱い立場である以上警戒するに越したことはないか。
「村長の許可を取れたぞ!私はレリアンだ!」
「えっなんで今自己紹介したの。」
メルアシアが突っ込む。しかも二度目じゃん。
「村長言われた!忘れてた!」
こいつやばくないか?
「行こう!」
俺たち心の一文を話す間もなく食卓と思われる一室に通された。
ぐぅーと俺の腹が鳴る。食卓というだけあってテーブルの上にはパンが籠に盛られている。そういえば気絶してから何も食べてないんだよな。正直腹が鳴って恥ずかしいっていうより先に手を伸ばしたい。
「怒られないよ。まだ村長来てないからサキにおなかに入れちゃって。」
メルアシアが小声で促してくれる。そういわれると欲望の枷が外れてしまう。ほの暗い食卓の明度がなんだかより食欲をそそらせる。
いや、しかし。俺はグリスの方を見るメルアシアよりこの子に食べていいか聞いた方が確実だろう。
「なあ、グリス。」
「いや大丈夫だよ!信用してくれないなんてひどいよ!」
メルアシアが食い気味にプンプン起こるけどさっき怒られてたやん。
「お客様用に出しているので大丈夫。」
グリスが言うのなら食べるか。貴重な食料を無意味に無造作に置かないよな。
「何か私の扱い一気に悪くなってない?」
メルアシアは解毒の時、笑ってたこと忘れてない?
「いただきます。」
硬いな。パンを手に取って第一印象は硬感触だった。でもぎりぎり噛める硬さな気がする。俺は思い切りパンに噛みつく。まずい・・・でもおなか減ってるから・・・。一気に飲み込む。その瞬間、体が逆流ポンプと化した!口の中でぼそぼそと口内をなぶる感覚は序の口強すぎる酸味が襲い掛かる。舌にまとわりつく酸味がきつく密度が濃いし口の中に張り付いて飲み込むのを阻害してきた。それどころか嘔吐した。
「うぅおえ!」
「大丈夫!?」
「噛めるなら腐ってないと思うけど・・・。あっ。」
グリスとメルアシアが心配してくれたが後に発言したメルアシアは気の抜けた声を出す。
俺は突っ伏していた顔を上げる。
・・・。
奥の部屋につながる扉の先で暗い表情の女性が立っていた。華美な装飾をしていないが村長だと分かる。
村長は無言に入室して俺の口をつけていたパンをほおばる。
「腐ってなどいないが。」
目元にクマができている女性が光の映らない目で俺を見下ろしてくる。
「まあ気にするな。」
いや目は怖いが俺が謝る前に村長はそう言ってくれる。よかった。目は死んでるけどやさしい。
「クイズタイムだ!」
なんか村長がテーブル越しに座ったと思ったら木べらでバンバンとテーブルをたたく。
「そこに座れ!」
俺は反射的にはいっ!返事をして椅子に座る。突然のことに心臓がバクバクする。
「問題です。そのパンは何でできているでしょうか!」
ライ麦だ。だがしかし、この状況そんなこと聞いているわけがない。あれだよな・・・。農家の方が作った血と汗とかだよな。いやこれで合ってるの?俺の世界だと工場で機械が作ってるけど。
「答えは!」
「水!」
「お天道様に決まっとるやろがい!」
いやなんで!
「二人とも何言ってるの。」
メルアシアが突っ込む。
「私はお天道様に会えなくてつらいんや!防犯のため夜中中起きっぱなしで日中に日に当たれんのや!おどれに分かるかい!」
パンの説教かと思ったら生活の愚痴だった。
「というわけでケイにはこのスポンジを食べてもらいます。」
「それは都市から買ってきた大切なスポンジだぞ!」
レリアンが叫ぶ。そんなもん食わせんな!二重の意味で!
「いや食ってもらう。これはすっぱいものを甘く感じられるようになるスポンジだ。」
ミラクルフルーツと同成分が混じってるもの食ったって一食分くらいしか持たないはずだけど!?強い強い!村長がテーブル越しに俺の顔を掴んで口にスポンジを押し込めてくる。すごい握力で突っ込もうとしてくる。
「村長。ストップだよ。」
二人でぴとりと止まってメルアシアを見る。メルアシアは背負っていたリュックから袋を出す。というかリュック背負ってたんだ。
「フィレリアがたぶん食事が合わないからご飯をフロンに送ってたのがあるから。今後も補給があるから合わなければこっちを食べよ?村長も起こされて機嫌が悪いのも分かるけどお客さんの前なんだからはしゃがないでね?」
村長はそういわれるとおずおずと引き下がる。
しかし、俺のためにそこまでされると申し訳ない気持ちになる。
「いいよ。みんなで食べてくれたらうれしい。」
「干し肉だけど村のと違って胡椒以外の香辛料が効いて悪くないよ。」
胡椒以外の香辛料って高い奴じゃないのか。胡椒だって小さな村だと難しいらしいのに。って俺の言いたいことが伝わってない。味じゃないんだって。
「いや悪い・・・。特別扱いされるほどみんなに貢献できてない。」
「ほら噛みなよ。」
メルアシアは俺の顎を押さえて口を開かせてくる。いつの間にか後ろの村長も頭を押さえてくる。そこまでする?!
「特別扱いしてると思ってるの?」
メルアシアは干し肉を口に突っ込むと無理やり閉じて咀嚼させてくる。
「フィレリアもレイナも村の食べ物にゲロ吐くからね。」
食わせてるときにゲロとか言ってほしくないよメルアシア。
「都市の人はね。まずいものを食べるの慣れてないからね。金属ナイフを使ってる人が木のナイフを使えないように文化レベルが突然落ちて対応できる人なんていないんだから。」
涙目になりながら飲み込んでそれでも納得いかない。
「生まれは生まれだから仕方ないことだよ。」
「それが特別だって思わないのか。」
俺は反射的にそう答える。
「そりゃ僻んだり。ふと、羨ましくなったりするし富を独占してる奴は既得権益を使った詐欺師ぐらいに思ってるけどフィレリアたちが都市で生まれたことで支援してもらえているからね。今私たちが生きていられるのは文化レベルに差のある教会のおかげ。だから文化の差は気にしない気にしないことにしてるの。」
すごいよメルアシアは。普通僻んでそんなに割り切れないよ。
「そこまで言えるようになるには大変なことばかりだったけどね。さてケイ本題に戻るよ?」
グリスが割って入ってくる。そうだ本来村長に挨拶するためにここに来たんだ。
村長に向き合うと半分寝ている村長が口を開く。
「私はセレイナだ。メリトットの村長。君はここにいていいただ仕事をしてもらう。」
村長セレイナの言葉に反応してグリスが一枚の羊皮紙を俺の前に置く。
「ライ麦や粟の脱穀は終わっています。家畜の屠殺は素人にやらせるべきではないでしょう。家屋の補修、紡織、製靴、もろもろの道具の作成何かできるものはありますか。」
グリスの提案してきたことはやったことはない機械が全部やってくれるから。
「なるほど使えないと。カスなのだよ。」
いやなんも言ってないのに辛辣過ぎない。
「まあ荷物運びしながら見て技術を盗んでもらおうか。観察は発見の一歩目だよ。」
村長がおわり・・・といって目を完全につぶる。
「村長がお眠だ。私が過ごしてもらう部屋に案内しよう。」
レムリアが俺の手を取って部屋の奥に連れていく。
「おっ、おい村長は放置でいいのか!」
俺だけじゃなくてメルアシアの手も取って進みだした。防犯上の理由で面倒なことしてたけどグリスもついてきてるし誰もあの部屋にいないよ!
「大丈夫だ。マニュアルにはどうこう書いてないからな!」
防犯上の理由で面倒なことしてたのに!?
「ここの部屋がメリトットで過ごす君の部屋だから。」
結局俺たちの説得で村長を俵のように担いでレリアンは去っていった。というか村長はその扱いでいいの?
それはさておきグリスさんが俺たちを部屋に案内してくれた。村長と同じ家なのは防犯上の都合らしい。俺はこの言葉が怖くなってきた。
そして案内された部屋は客間と言われる部屋で人生で一番質素な部屋だった。どこかで見たことある・・・。どちらかというと・・・。
「この部屋は本来執政官の泊まり込み用の部屋なので私とメルアシアと共有だよ。」
そうか警備部隊の訓練の時のほとんど木製になった合宿部屋だ。ほとんどの人がカプセル詰めで電脳上に暮らしているトロイメライはそこそこ土地が開いてる。でもなぜか狭い部屋に二段ベットが置いてそこで合宿している。まあ悪い環境に慣れるのも大事な仕事だし。仕方ないね。
「でも、女の子と一緒なのは気が重いな。」
「なんで?」
グリスがそう聞いてくる。でも俺の感覚を異性に伝えられないんだよな・・・。そもそも女の子しかいなかった世界だから相手がどう思ってるかとか想像できなくて違いなんてわかんないよな。
「でも護衛のためにもこれ以外駄目だよ。」
メルアシアがそういってくる。まあわかってるから腹をくくろう。
「いや寒そうだと思っただけだよ。」
おれはベットに手を置く。木でできたベットはシーツに潰れた綿しか入っていない。藁のチクチクする感覚はないけどあまり暖かそうにない。掛け布団も同じようにつぶれた綿が入ったものだった。シーツ一枚より全然ましだけど冬には寒いものだ。
「教会と比べたらいいところじゃないけどね。でも近くに井戸があるし便利ではあるよ。」
それはありがたいな。そう思ってたらグリスは部屋の窓枠を超えて中庭に降り立ってそこにある井戸に向かう。汲んできて窓越しに桶を渡してくる。
「煮沸した方が安全らしいよ。」
グリスがそう言う。じゃあなんで部屋の中に持ってこようとする・・・。というか井戸が近いって普通中庭への入口が近いってことじゃん!中庭に面してる部屋は全部そうじゃん!
「だから待っててね。この中のなんか小さい生き物殺してくる。」
そういうとグリスはまた中庭の真ん中の方の機材で焚火をつけている。というか微生物知ってるのか。顕微鏡とかあるんだろうか。
「グリスがお世話をやってくれるから私たちはぐっすり寝ちゃお?」
「そうだな。」
せっかく村長の家の一室という安全な部屋を手配してもらったんだ。甘えて休もう。
教会を出てやっと熟睡できるんだ今はぐっすり休もう。
いまはなんで襲撃されたか都市の思惑はそんなことを後回しにして休もう。おれは闇の中に心を埋め眠った。




