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転生スライムの異世界ホワイト建国記 ~剣と魔法より「福祉」が最強な件について~~  作者: ひより那


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第8話 孤立した鉄と、地域包括の理《ネットワーク》

 アルジェントという最強の矛と盾を手に入れたことで、私たちの村の平和はより強固なものとなった。

 彼の展開する『共感覚領域センサー・フィールド』は村の周辺数十キロの異変を瞬時に感知し、外敵の接近を未然に防いでくれる。だが、その広域探知能力がもたらしたのは、外敵への備えだけではなかった。


「湊さま。北西の山岳地帯で、大規模な土砂崩れが発生したようです。複数の生体反応が土砂に閉じ込められ、孤立しています」


 ある朝、アルジェントが深刻な顔で報告してきた。

 灰智かいちの話によれば、そこは頑強なドワーフ族が住む鉱山村だという。彼らは優れた鍛冶技術を持つが、山奥ゆえに食料の自給率が低く、外部との交易路が断たれれば数日で飢えに直面するはずだった。


「すぐに出発する。アルジェント、剛鬼ごうきたちを数名連れてこい。鋭牙えいがは村の防衛を頼む」


 私は即座に救援隊を編成し、山岳地帯へと急行した。

 半日ほど森を駆け抜け、目的の場所に到着すると、事態は想像以上に深刻だった。

 巨大な岩と土砂が山肌を削り取り、ドワーフの村をすり鉢の底のように完全に包囲していた。村への唯一の街道は分厚い土砂の下に埋もれ、村の中からは絶望に満ちた呻き声が聞こえてくる。


「対象環境を解析アセスメント。自力での脱出は不可能。物資の枯渇による集団餓死まで、推定猶予は四十八時間です」


 私はただちに行動を開始した。


「剛鬼たち、私と共に土砂を撤去する。アルジェントは生存者の誘導と安全確保を」

「承知しました!」


 剛鬼たちの圧倒的な腕力と、私の魔力による土壌操作を組み合わせ、数時間かけて崩落した土砂の一部に風穴を開けた。

 私たちが村の中へ入り込むと、そこには泥にまみれ、痩せ細った数十人のドワーフたちが身を寄せ合っていた。


「……助けが、来てくれたのか……?」


 ドワーフの長である屈強な男が、震える足で立ち上がる。


「ああ。私たちは南の森の村から来た。もう大丈夫だ。まずは食料と水を受け取ってくれ」


 私が空間収納から取り出した食料を配ると、彼らは無言で食らいついた。


 落ち着きを取り戻した後、ドワーフの長が深く頭を下げた。


「俺はドワーフの長、巌鉄がんてつ。あんたたちのおかげで命拾いした。だが……この村はもう駄目だ。山が崩れちまって、鉱石も掘れねえ。交易路も死んだ。生き延びるためには、この山を捨てて、あんたたちの村に転がり込むしかねえだろう」


 他のドワーフたちも、悲痛な顔で頷く。

 住み慣れた故郷を捨て、他国へ難民として移住する。それは極限状態における合理的な選択に見える。剛鬼たちも「俺たちの村なら大歓迎だぜ、家もすぐに建ててやる」と胸を叩いた。


 だが、私は首を振った。


「巌鉄。君たちは本当に、この山を捨てたいのか?」

「……捨てるわけねえだろう! ここは俺たちの先祖が何百年もかけて拓いた誇り高き鉄の村だ。だが、食い物がなきゃ生きていけねえ。誇りじゃ腹は膨れねえんだよ!」


 巌鉄が血を吐くような声で叫んだ。


 前世の福祉現場でも、同じような悲劇を何度も見てきた。

 身体が不自由になったり、身寄りがなくなったりした高齢者が、安全のために長年暮らした地域から切り離され、遠くの施設へと入所させられる。それは確かに「生命の保護」ではあるが、同時に彼らの「アイデンティティの喪失」でもあった。

 人が人らしく生きるためには、『住み慣れた地域で、最後まで自分らしく暮らす』ことが何よりも重要なのだ。


「君たちが望まないのなら、村を捨てる必要はない。君たちのコミュニティは、ここで存続させる」

「どうやって? 道は塞がり、孤立無援だぞ!」

「道がないなら、作ればいい。点が孤立しているなら、線で繋ぎ、面へと広げるんだ」


 私は、ゼリー状の体を大きく広げ、大地に深く魔力を浸透させた。固有能力《理を編む者》の真骨頂。社会資源の開拓と、広域連携システムの構築。


「広域連携術式・『地域包括の理(ネットワーク)』起動」


 私の放った魔力が、地中の岩盤を震わせ、崩落した土砂を瞬く間に再構成していく。

 塞がっていた街道の土砂が両脇に避け、代わりに平坦で強固な「石畳の道」が、ドワーフの村から私たちの村へ向かって一本の太い動脈のように形成されていく。


「な、なんだこれは……! 山が、道に変わっていく……!」


 巌鉄たちドワーフが驚愕に目を見開く。


「君たちを私たちの村に吸収して『保護』するのは簡単だ。だが、それでは君たちが代々培ってきた鉄を打つ文化も、このコミュニティも死んでしまう。だから、私は『繋がり』を作る」


 私は完成した強固な街道を指し示した。


「私たちの村には、安定した食料と、医療の力がある。君たちの村には、鉄を打ち、最高の道具や武器を作る技術がある。この道を使って、お互いの強み(資源)を循環させるんだ」

「強みを、循環させる……」

「そうだ。誰かが一方的に施しを受けるのではない。困った時は助け合い、お互いの足りない部分を補い合う。これが、この森一帯を強固な『共生社会』へと変える第一歩だ」


 コミュニティソーシャルワーク。

 個人の課題を個人のものとして終わらせるのではなく、地域全体の課題として捉え、人や組織を繋ぐことで、新たな社会資源を生み出すアプローチ。

 この道が開通したことで、ドワーフの村は「孤立した弱者」から「強固な経済圏の重要な一角」へと生まれ変わったのだ。


 巌鉄の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「……俺たちは、山を捨てなくていいんだな。ここで、俺たちの鉄を打ち続けていいんだな……!」

「ああ。君たちの最高の鉄で、私たちの村の農具を作ってくれ。代金は、最高の飯と酒で支払おう」


 ドワーフたちが、地鳴りのような歓声を上げた。

 剛鬼やアルジェントも、満足げにその光景を見守っている。

 点と点が繋がり、線となった。この繋がりがやがて面となり、より多くの種族を包み込む「連邦」へと成長していくのだろう。

 誰もが自分の居場所を奪われず、互いに支え合う。私の思い描く巨大な福祉国家の輪郭が、今、確かにこの異世界に姿を現し始めていた。


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