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《完結》転生スライムの異世界ホワイト建国記 ~剣と魔法より「福祉」が最強な件について~~  作者: ひより那


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22/22

第22話 黎明の轍と、普遍的設計《ユニバーサル・デザイン》

 黎明連邦アジールと、かつて光の王国と呼ばれた兄弟国を結ぶ広大な平原。

 今、その緑の絨毯の上を、黒鉄と魔力で造られた巨大な車両――『魔導列車』が、滑るように駆け抜けていた。


 私は、特等車輌の柔らかな座席に人間の姿で深く腰掛け、車窓から流れる平和な景色を眺めていた。


「湊さま、お茶をお持ちしました。ドワーフの里で採れた、新作のハーブティーです」


 向かいの席から、ルシアが穏やかな微笑みと共にティーカップを差し出してくれる。


「ありがとう、ルシア。良い香りだ」


 私がカップを受け取ろうと手を伸ばした瞬間、私の左腕にぴったりと抱きついていた白蘭ハクランが、むすっとした顔で身を乗り出した。


「ルシア殿、湊さまのお世話は筆頭秘書である私の役目です! ああもう、人間の姿の湊さまの腕も温かくて最高ですが、片手が塞がってしまうのが難点ですね……いっそ私と融合してしまえば……」

「白蘭、少し締め付けが強い。それに融合はしないぞ」


 私が苦笑しながら腕を軽く引くと、白蘭は「ええーっ」と残念そうにしながらも、嬉しそうに私の肩に頭を乗せた。


 車内には、私たちの他にも多くの乗客が乗っていた。

 大きな体躯を持つ剛鬼ごうき、背の低いドワーフ、老いた人間の農民、そして視覚や聴覚を持たない者たち。あらゆる種族と特性を持つ人々が、同じ空間でくつろぎ、談笑している。


「素晴らしい乗り物ですね、湊さま」


 通路を挟んだ隣の席で、防衛長官のアルジェントが感嘆の声を上げた。


「俺は共感覚領域(センサー・フィールド)で周囲を認識できますが、この列車の中は魔力の流れが極めて均一で、段差も障害物もない。視覚を持たない俺でも、全く不安を感じずに歩き回れます」

「それが、この列車の最も重要な機能だからな」


 私はティーカップを置き、車内の構造を見渡した。


「対象建築物を解析アセスメント。術式・『普遍的設計ユニバーサル・デザイン』の定着を確認」


 ユニバーサル・デザイン。それは「障害者や高齢者のために、後からスロープなどを付け足すバリアフリー」という考え方ではなく、「最初から、あらゆる人が使いやすいように設計する」という、より高次元の福祉理念だ。


「この列車は、剛鬼の巨体でも通れる幅広の扉と通路を持ち、床には一切の段差がない。文字が読めない者や他種族でも一目でトイレや食堂の場所が分かるよう、共通の絵記号(ピクトグラム)を採用している」

 私は、通路をよちよちと歩くゴブリンの子供が、低い位置に取り付けられた手すりを掴んでいるのを指差した。


「力のある者もない者も、等しく安全に、快適に移動できる。これがアジールの目指す『誰もが当たり前に生きられる社会』の物理的な完成形だ」

「最初から、誰も排除しない形を創る……。まさに、湊さまの慈愛を形にしたような鉄の馬ですね」


 アルジェントが深く頷く。


 やがて魔導列車はゆっくりと速度を落とし、兄弟国となった旧・光の王国の王都駅へと滑り込んだ。

 ホームには、私たちを出迎える数万の群衆が溢れ返っていた。かつては飢えと暴動に支配されていたこの街も、アジールから派遣された行政官の指導により、見事な復興を遂げていた。餓死者はなくなり、誰もが働き、そして笑っている。


「湊さま! 万歳!」「ルミナ様の御魂に栄光あれ!」


 人間の姿――聖女ルミナの面影を残す私に向かって、民衆が熱狂的な歓声を上げる。私は窓を開け、彼らに向かって静かに手を振った。


「見事な復興だ。第一段階は、完全に終わったな」


 私が呟くと、いつの間にか車両の入り口に立っていたゼノが、静かに一礼した。


「はい、湊さま。旧・光の王国の法整備と経済の安定化は、ほぼ完了しました。これもすべて、湊さまが敷かれた『理』のおかげです」

「ゼノ。君の諜報部隊の活躍も大きかった。ご苦労だったな」


 労いの言葉をかけると、ゼノは少しだけ表情を引き締め、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。


「……湊さま。平和な空気に水を差すようで恐縮ですが、北方の国境を越えさせていた密偵から、緊急の報告が入りました」

「北方、か」


 私は白蘭の腕からそっと抜け出し、ゼノから羊皮紙を受け取った。

 南の光の王国が平定された今、この大陸で残る巨大な勢力は、北に位置する『魔導帝国』のみだ。


「帝国の動きが活発化しています。彼らは魔力を持たない人間や弱小魔物を『燃料』として使い潰す、極端な『絶対能力主義』の国。最近、南の豊かな我々の連邦の噂を聞きつけ、大規模な奴隷狩り部隊を編成しているとのことです」


 ゼノの報告に、車内の空気が一瞬にして張り詰めた。


 アルジェントが腰の剣に手を当て、白蘭が目を細めて危険な殺気を漂わせる。


「能力至上主義……。使えない者は殺すという、古い時代の亡霊のような国ですね」


 ルシアが、悲しそうに目を伏せた。


能力主義(メリトクラシー)の行き着く先は、常に優生思想と弱者の排斥だ」


 私は羊皮紙を握りつぶし、北の空へと視線を向けた。


 黎明連邦アジールと兄弟国がどれほど平和で豊かな『ユニバーサル・デザイン』の国になろうとも、高い壁の向こう側で理不尽に搾取され、泣いている命があるのなら、私の戦いは終わらない。


「アルジェント、防衛軍の準備を。白蘭、ゼノ、国内の物資統制と情報網の強化だ」

「はっ!」


 私の号令に、頼もしき仲間たちが一斉に膝をつく。


 『建国と隣国平定』は終わった。だが、真の福祉国家をこの世界全体に敷き詰めるための戦いは、まだ始まったばかりだ。次に相対するのは、効率と能力だけを至高とする巨大な帝国。


「さあ、行こうか。世界を、誰も見捨てられない形へと『設計し直す』ために」


 私は人間の姿のまま、決意を込めてそう宣言した。

 車窓から差し込む朝の光が、私たちの進むべき新しい鉄路を、どこまでも真っ直ぐに照らし出していた。


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