第424話「三十五枚目の沈黙」
ヴァルディスの整然とした執務机の上に、新しく届けられた報告書が一枚、音もなく重ねられた。昨日までは三十四枚だったその不気味な束に、今朝、顔を青白くした側近が何も言わずにこの紙を置いて、そのまま這い出るようにして立ち去っていった。そこに記されていたのは、北門の防衛線および地下給水施設の全機能が完全に停止したという事実だった。
極めて短い事務的な文章で淡々と報告されているのみだったが、それは王都の命脈がまた一つ絶たれたことを明確に意味していた。ヴァルディスは椅子に深く腰掛けたまま、その紙の白さを微動だにせず見つめている。彼の細い指先は、ペンの軸に触れることすらしていなかった。読むべき内容など、最初からすべて頭の中で計算済みだったからだ。
人間という駒は、生存の基盤となるインフラや秩序が揺らぎ始めると、個人の保存を最優先して組織から離脱する。それは地下施設での凄惨な実験でも証明済みの、極めて論理的で普遍的な行動原理だった。だが、彼の過去の膨大なデータに決定的に欠けているのは、その自壊の速度を止めるためのレバーだった。
恐怖による統治は、恐怖を与える主体が権威を持っているという前提の上にしか成り立たない。民が城そのものを無視し始めた今、恐怖は何の効力も持たなかった。支配すべき対象そのものが煙のように消え去り、残されたのは空虚な王城の石組みだけだった。




