第421話「中枢の渇き」
王城の最深部に位置する、王族専用の巨大な給水濾過施設。かつては数百人の魔導技師と職人が常駐し、地下から湧き出る清浄な水を城内の隅々にまで絶え間なく供給し続ける、まさに王権の心臓部の一つだった。しかし、今朝の作業場は、ただ冷え切った石壁が不気味に沈黙しているだけだった。
巨大な鉄製のバルブや、幾重にも張り巡らされた銅製の管の表面には、手入れの行き届かない白い水垢が厚くこびりついている。連結部からは、規則正しく、しかし虚しく水滴が床に落ちており、その小さな音が無人の空間に不気味なほどはっきりと反響していた。一人の下級管理官が、自身の衣服の汚れを拭うことも忘れて、施設の中央にある巨大な天秤型の水量計をただ静かに見つめていた。
針は、王都の行政機能が完全に停止したあの日から、目盛りの最下段を指したまま微動だにしていない。彼がこの場所でバルブを回し、錆びついた管に油を注ぐ理由は、もうどこにも残されていなかった。国としての意思が消滅した以上、ここで水を汲み上げたところで、それを評価する者も、対価を支払うべき宮廷の役人も存在しないからだ。
管理官は、手元に残された数枚の配給記録の帳面を、乾いた石の床に静かに放り投げた。紙が擦れる微かな音が響き、そのまま彼は一度も振り返ることなく、暗い通路の向こうへと去っていった。施設は誰の悪意によるものでもなく、ただ完全な無関心によって、その機能を永遠に閉ざそうとしていた。




