第419話「闇に包まれる街道」
王都から遠く離れた街道沿いの宿場町。夜の食堂では、地方を巡る旅の商人たちが、安酒のグラスを傾けながら低い声で話し合っていた。店の主人は、彼らのテーブルに新しいボトルを置きながら、黙ってその会話に耳を傾けている。
話題の中心は、ここ数週間、誰もその姿を見ていないという王都の貴族たちの動向だった。「本当に、誰も城へ行かなくなったらしい」「ああ、俺の取引先も先週、荷物をまとめて南の領地へ引き揚げたよ。王都に残っているのは、もう王弟のヴァルディス様と、数人の近衛兵だけだそうだ」
商人の一人が、声を潜めて言った。主人はその言葉を聞きながら、かつて歴史書で読んだ「滅びゆく古き王国」の描写を思い出していた。大軍による攻城戦ではなく、ただ人がいなくなることで、都市そのものが砂のように崩れていく。
商人たちはそれ以上王都の心配をすることはなく、明日の地方での取引の価格について話を戻した。彼らにとって、中央の権威が消え去ることは、単なる実務上の変更点に過ぎなかった。宿の主人は、静まり返った外の街道を見つめた。王都へと続く道は、今夜も完全に闇に包まれていた。
時計の針が進むたびに、彼らの今日という一日は完全に過去のものとなり、また過酷な明日へのカウントダウンが始まっていく。しかし、その僅かな平穏こそが、彼らの戦う理由だった。




