第409話「西区の荷運び」
王都の西側に位置する下層商業区。数日前まで物資の分配で混雑していた大通りは、今や車輪の音一つしない完全な静寂に包まれている。錆びついた天秤が軒先に吊るされたままの商店では、店主の男が古びた麻袋に穀物の残りを詰め込んでいた。
かつてなら、こうした勝手な物資の移動は巡回中の衛兵によって厳しく取り締まられ、高額な罰金か拘留を科されるのが常であった。しかし、男がいくら大きな音を立てて荷を動かそうとも、通りを阻む石壁の向こうから近衛兵の鋭い足音が響いてくる気配は微塵もなかった。男は何度も背後の路地を振り返りながら、手押し車の取っ手を強く握り締めた。
行政の機能が完全に麻痺したこの街では、公的な配給など二度と行われないことを、末端の民は誰に教えられるでもなく直感的に悟っていた。男が静かに車を押し始めると、乾いた車輪の軋み音だけが、無人の家々の間に不気味なほどはっきりと反響した。
城壁がどれほど頑丈であろうとも、それを維持するための法と人間の意思が消え去れば、ただの巨大な石の檻でしかない。男は一度も広場の方を見ることなく、崩れかけた西門の隙間を目指して、重い足取りでただ黙々と進み続けた。
彼らの歩みに合わせて、背後の街はさらに深い静寂の中に沈んでいくようだった。誰もいない世界の冷たさが、彼らの孤独を一層際立たせていたが、その誰もが前だけを見つめていた。路傍に放置された車両の錆びついたボディが、彼らの横顔を冷たく映し出していた。




