第406話「油の切れた槍」
王都を守る近衛兵の詰所。壁の武器掛けには、手入れの行き届かない槍や剣が何本も不揃いに放置されたままになっている。残された数少ない兵士の一人が、自分の槍の穂先を布で拭いていたが、いくら擦っても表面の黒い錆を落とすことはできなかった。磨き油の支給が止まってから、すでに二週間以上の時間が経過している。彼らの武器は、物理的な戦いではなく、ただ時間が経過するという事実によって使い物にならなくなっていた。
「……もう、磨いても意味がないな」
兵士は布を床に放り投げた。正門の向こうには、相変わらずゼルがただ一人で立ち続けている。彼は剣を抜くこともなく、城内を脅かす言葉を口にすることもない。ただそこに存在している。その静かな圧力が、城壁の内側にいる兵士たちの戦う意志を、根底から磨り潰していた。
兵士は武器掛けに槍を戻し、自分の席に戻って深くため息をついた。彼らが守るべき王城は、外からの攻撃によってではなく、内側の油が切れるようにして機能を失いつつある。
錆びついた槍は、磨かれることのないまま、詰所の薄暗がりのなかで冷たく鈍い光を放っていた。戦う目的を見失った兵士たちの腕から、徐々に力が抜けていく。彼らはただ、誰も来ない詰所の窓から、動きを止めた王都の景色を眺めることしかできなかった。その目には、国家の崩壊という名の静寂な現実だけが映し出されていた。




