第397話「境界の喪失」
王都の外縁を強固に支える巨大な外壁の付近。そこには、数日前まで都市の治安維持のために確実に機能していたはずの、夜間巡回のための詰所がひっそりと佇んでいる。
木製の重い扉は半分開いたままの状態で完全に固定されており、中を覗き込んでも、人の気配や生活の痕跡はどこにも残されていない。かつては、この詰所を起点として、数時間おきに近衛兵たちの鋭い足音や金属鎧の擦れ合う硬い音が、周囲の入り組んだ路地の奥にまで不気味なほど忙しく響き渡っていた場所だった。
今では、近くのパン屋の店主が、古びた荷車に最小限の家財道具や使い古した調理器具を積み込みながら、無人の詰所をただ黙って見つめていた。王都の中心へと物資を運ぶ主要な大通りは、今朝も完全に静まり返っている。誰の指示によるものでもなく、ただ末端の生活から日々の機能が緩やかに、だが確実に剥がれ落ちていた。
店主は荷車の手綱を握り直し、重い足取りでゆっくりと前進を始めた。城壁の内側に留まる理由は、もう誰にとっても完全に失われている。国を守るはずの兵が消え、行政が完全に止まった街に未練を持つ者は一人もいなかった。後に残されたのは、本来の役目を忘れた頑丈な石の構造物と、ただ無人の通りを虚しく通り抜ける冷たく乾いた風の音だけだった。
国を形作っていた不可侵の権威という名の空気は、皮膚に触れる冷気を通じて、完全な沈黙へと変わっていく。男は一度も背後の街並みを振り返ることなく、開かれたままの城門を通り抜け、外の世界へと静かに去っていった。その足跡を消し去るように、冷たい朝霧が敷石の上を静かに這うようにして広がっていった。




