第373話「静寂の波紋」
王城の正門からまっすぐに伸びる中央広場には、大気さえも凍りついたかのような静寂が横たわっている。
かつては夜明けとともに、地方からの陳情を抱えた平民たちや、華美な馬車を連ねた貴族たちで足の踏み場もないほどに埋め尽くされていた場所だった。
今では、敷石の細かな隙間に溜まった昨晩の雨水が、朝の低い光を浴びて鈍い銀色に光っているだけである。
その広場の中心に、ゼル・アークレイドはただ一人で佇んでいた。
彼の黒い外套の裾は風に揺れることもなく、まっすぐに地面へ落ちている。
25歳という若さでありながら、その背中に漂う気配には、一切の揺らぎがない。
10年という歳月をあの忌まわしき地下施設の中で剥ぎ取られ、人間のあらゆる業を見つめてきた男の瞳は、燃え盛る憤怒ではなく、ただ冷徹に事実を測る天秤の針そのものだった。
ゼルはゆっくりと視線を動かし、正面に見上げる巨大な城門の鉄格子を見つめた。
彼が一歩を踏み出す気配はない。
ただそこに存在しているだけで、王城の周囲に張り巡らされていた権威という名の空気は、内側から確実に瓦解を続けていた。
物理的な剣で城壁を打ち破る必要など、最初からなかった。
罪の重さに耐えかねた国家の骨組みが、自らの重みで軋み、音もなく崩れていくその瞬間を、彼はただ裁定者として見届けている。
広場を通り抜ける冷たい朝の風だけが、男の静かな呼吸に合わせて、無人の敷石の上を静かに這うようにして去っていった。




