第366話「三十三枚目の余白」
ヴァルディスの机の上の書類は、今朝、三十三枚になった。新しく置かれたその紙には、中央区の給水施設および営繕の全機能が停止したという事実が、極めて短い文章で報告されていた。
ヴァルディスは椅子に深く腰掛けたまま、その紙の白さを見つめている。彼の細い指先は、ペンの軸に触れることすらしていなかった。読むべき内容など、最初からすべて分かっていたからだ。人間という駒は、生存の基盤が揺らぎ始めると、個人の保存を最優先して組織から離脱する。
それは地下施設での実験でも証明済みの、極めて論理的で普遍的な行動原理だった。だが、彼の過去のデータに欠けているのは、その自壊の速度を止めるためのレバーだった。恐怖による統治は、恐怖を与える主体が権威を持っているという前提の上にしか成り立たない。
民が城そのものを無視し始めた今、恐怖は何の効力も持たなかった。ヴァルディスは机の上の三十二枚の書類の上に、新しい一枚を重ねた。紙の厚みが増すたびに、彼の部屋の静寂はさらに深まっていく。
超合理主義者が構築した世界は、その合理性の正しさゆえに、一切の逃げ道を持たずに完璧に麻痺しつつあった。彼は窓の外を見つめ、データのない空白の領域が、自分の足元まで静かに広がってくるのを感じていた。




