第35話 崩れゆく完全
―魔導区画・上層監視塔―
「……防御展開」
リシェルが呟く。
魔法陣が広がる。
三層。
四層。
さらに重ねる。
「……これで」
「防げる」
言い聞かせるように。
―異常―
「……負荷上昇」
水晶が軋む。
「……計算通り」
だが。
「……ズレている」
ほんのわずか。
だが確実に。
―ゼル―
「……増やしたな」
静かな声。
リシェルが顔を上げる。
「……防御層を増加」
「突破は不可能」
言い切る。
だが。
その声に確信がない。
―接触―
ゼルが一歩踏み込む。
防御が反応する。
魔法陣が輝く。
完璧なはずの防御。
だが。
―歪み―
わずかに。
ほんのわずかに。
反応が遅れる。
「……っ」
リシェルの目が揺れる。
―突破―
ゼルの手が触れる。
その瞬間。
――崩壊
一層が割れる。
「……!」
二層目。
さらに崩れる。
「……なぜだ」
三層目。
耐えきれない。
―連鎖崩壊―
すべてが繋がっている。
だから。
一点が崩れれば。
全部が落ちる。
―理解―
「……同じ構造」
リシェルが呟く。
「拘束と……同じ」
「……気づいたか」
ゼルが言う。
「全部、繋がっている」
「だから」
「一つ壊せばいい」
―完全崩壊目前―
防御が消える。
空間が開く。
距離がなくなる。
「……っ」
リシェルが後退する。
「……再構築」
「再構築……!」
手が震える。
魔法陣が乱れる。
―限界―
「……間に合わない」
初めて。
認める。
―ゼル―
「……終わりだ」
静かな声。
すぐそこにいる。
―締め―
完璧は崩れた。
理論も。
構造も。
そして。
それを支えていた心も。
もう、戻らない。




