第16話 揺らぐ統率
―辺境都市・外門前―
「本日の任務は外門防衛だ」
ガルドが告げる。
「魔獣の小規模接近が確認されている」
「配置は通常通り」
「了解!」
騎士たちが配置につく。
動きは速い。
練度も高い。
――だが。
空気だけが違う。
―配置中―
「……なあ」
小声。
「今回は副官の案、使わないのか?」
「……分からん」
「でも昨日の件もあるしな」
「……」
迷いが残る。
―魔獣接近―
「来るぞ!」
門前に魔獣の群れ。
「前衛、押さえろ!」
「後衛、支援を切らすな!」
ガルドの指示が飛ぶ。
騎士たちが動く。
だが。
「……間隔、広げろ」
別の声。
「詰めすぎるな!」
ルークの指示。
動きが一瞬止まる。
「……どっちだ」
誰かが呟く。
―初の遅延―
ほんの一瞬。
だが。
「ぐっ……!」
魔獣が突破する。
「一体抜けた!」
「後衛!」
「処理する!」
すぐに倒される。
被害は出ない。
だが。
“抜けた”事実は残る。
―ガルド―
「……今のは何だ」
低い声。
「なぜ止まった」
沈黙。
「……どちらの指示を優先するか」
「迷いました」
正直な答え。
それが一番重い。
―空気の変化―
「……迷うな」
ガルドが言う。
「俺の指示に従え」
「……はい」
返事は返る。
だが。
力がない。
―続行―
「前衛、押し込め!」
「……間隔維持!」
また指示が重なる。
騎士たちが一瞬だけ迷う。
今度はすぐ動く。
だが。
その“一瞬”が消えない。
―戦闘終了―
「……掃討完了」
「被害なし」
報告は完璧。
結果も問題ない。
だが。
―沈黙―
「……さっきの」
「明らかに止まったよな」
「……ああ」
「普通じゃない」
ざわめき。
―ガルドの内心―
「……統率が乱れている」
はっきりと認識する。
「……原因は」
視線が動く。
ルークへ。
「……違う」
すぐに否定する。
「ルークは正しい判断をしている」
「なら」
「……なぜ迷う」
答えが出ない。
―ルーク―
「……」
無表情で立っている。
「(統率低下、確認)」
静かに呟く。
―ゼル側―
「いい」
ゼルが言う。
「“迷い”が生まれた」
「はい」
「命令よりも判断が優先され始めています」
「もうすぐだ」
淡々とした声。
「崩れる」
―締め―
誰も命令には逆らっていない。
誰も規律を破っていない。
だが。
“従う前に考える”ようになった。
それが。
組織の終わりの始まりだった。




